第19話 トリアージ

人々が忙しく行き交っている。私はそれを目で追っている。


ここは交通事故の起きた現場だ。


交差点で衝突した車は、複数台を巻きこんで滅茶苦茶


だけれど、幸いにしてみんな軽傷のようだ。


怪我の軽い人から順に、救急車に乗せられていく。


トリアージというらしい。


救急隊員から「ここにいて。動かないで」と言われている。


私は巻きこまれただけ。道路を渡ろうと待っていたら、


そこに車が突っ込んできた。事情聴取も必要ないのだから、


早く運んで欲しい。さすがに限界だ。


「すいません。私はいつ動けますか? 運ばれますか?」


救急隊員は立ち止まって「貴方は運べません」


「もう待てません! 治療してもらえないなら、私は帰ります!」


そういったけれど、私は動けなかった。


ゆっくり見下ろすと、上半身はボンネットの上に乗っていて、


下半身がなかった。動くことができなかった。


痛みはなかった。ショックもなかった。だから気づいていなかった。


少し動いたことで、私はバランスを崩してボンネットから落ちた。


「トリアージしておいたのに、すぐに死体を運び出さないと


いけなくなった……」救急隊員は残念そうに呟いた。

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