第6話 航海

僕はビルの上を走っている。


何から逃げているのか? 分からないけれど、危なっかしい。


足を滑らせた!


落ちる、落ちる、落ちる!


急速に視野の中で大きくなっていく地面。ぶつかる!


と思った瞬間、目が覚めた。


夢だったのか……。ホッとする。


というか、最近は必ずこの落ちて、地面に衝突する瞬間で


目が覚める、というパターンを繰り返している。


途中で夢だと気づいて、自分から落ちることもあるぐらいだ。


そうすれば目が覚めるので、悪夢でも終わらせられる。


その日もそうだった。途中で夢だと気づいた。


でも、僕は船に乗っている。


周りは見渡すばかりの水平線、とりつく島もない。


これでは、落ちることができない。


夢を終らせることができない。


海にとびこめば、落ちることになるのだろうか……。


僕は船を漕ぐ。あてどなく、何時間も、何日も、何年も


航海をつづける。


落ちるために、悪夢を終らせるために、


いつか目覚めるために……。

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