第48話毒親

「どちら様?」

玄関を開けたのは母親だった。

美男美女コンテストの時に一度見た。挨拶無しの感じ悪い美人母。



うーん。何か気不味いわね。


グレースちゃんは一瞬躊躇う素振りを見せたが。

「こんにちは。エリザベート学院のフラームです。ジュリエットさんいらっしゃいますか?」

とペコリと頭を下げた。


「・・何か御用かしら?」

おっと睨まれるた。やっぱり感じ悪いわね!


「ええ。御用がありますの。呼んでいただけますか?」

グレースちゃんは母親の睨みに造られた様な笑みを浮かべてそう言った。


暫しの沈黙を破り母親は眉間に皺を寄せて口を開いた。

「貴女?もしかして文化祭に出てた方ね?」

そう言ったかと思うと堰を切ったように喋りだした。

「はぁ・・全くあれは有り得なかったわ!!」

「どう考えてもジュリエットが美しいのに?お金で票を買収したの?」

「本当に金持ちはこれだから嫌いなのよ!」


覚えられていたか。

しっかし!!暴言が酷い。でも、ここは我慢よ。ムカつくけれど。

親は自分の子供が1番可愛いと言うし。


此処で喧嘩になるとジュリエットには会えないだろう。


「お金なんてばら蒔いてませんわ。」

グレースちゃんも耐えているのかそれだけ言って後はグッと口を噤んだ。


そしてまた沈黙・・・。


「あのぉ・・。お母様・・・。」

母親の背後からボソボソと声が聞こえジュリエットがチラリと顔を見せた。


「貴女は下がってなさい!!!」

大声で母親に注意されたジュリエットはそろそろと室内に戻ってしまった。


「どうしよう?ねぇさん!」

グレースちゃんが私の服の裾をチョンと引っ張ってボソっと囁いた。


うっ。うーん?当初の予定では本人に会える筈だったんだけど。

親出現は頭に無かった。


明らかに嫌われている私達。

そして、同票決戦でグレースちゃんに投票したのはルーカス王子だ。

少し後ろめたい。


仕方ない。

でも話さないと。

「ちょっとジュリエットのお母さん。我が子が可愛いのは解ります。でもあれはあくまで文化祭の1つのイベントですよ。」


だが私の発言で益々怒らせてしまった・・・。そんな怒る事だろうか。


うーん。煩い。


近所迷惑にならないかと心配になってきた。


「あのっ!!」

グレースちゃんがブツブツ暴言を吐く母親の言葉を遮った。


「今日は文化祭の話をしに来たんじゃありません!バレンタインデーのチョコレートの話をしに来たんです!!」


負けない様な大声でグレースちゃんは叫んだ後、ふぅと大きな溜息をついた。


「チョコレート?」

漸く本題に入れそうだ。


母親は偉そうな感じで腕組みをして玄関の扉に寄りかかった。


「そうです。この国のバレンタインデーの風習はご存知ですよね?」

グレースちゃんが母親に聞くと小馬鹿にした様に軽く頷いた。


「ジュリエットは私の友人達の婚約者3人にチョコレートを渡しているんです。そんな何人にも配る行為はこの国の女性として有り得ないです!」


グレースちゃんがそう言われると母親はプッと吹き出しゲラゲラと笑いだした。

「何ー?そんな事?あははは。あー。可笑しい。」

グレースちゃんはその母親を見て空いた口が塞がらず私も呆れて溜息が出た。


「笑い事では無いですよ。婚約者のいる男の子にチョコレートを渡すのは問題です。その前からジュリエットさんは色んな男性に声をかける行為もしていたみたいですし。親としてそこは注意すべきでしょう?」

この親には言っても無駄かもとは思えたが一応伝えた。


「帰って下さい。ジュリエットは何も!!悪くありませんから。」

母親はまだクスクスと笑いながらドアを閉め様とした。


「ちょっと待ってよ!ハッキリさせなさいよ!ジュリエット!!出て来てどうしたいか話して!!」

グレースちゃんが玄関から叫んだが母親はグレースちゃんを押し返しドアを閉めてしまった。


バタン・・・。中から部屋に向かう足音と共に怒鳴り声が聞こえた。何と言っているか聞こえなかったが。確かに怒鳴り声だった。


「グレースちゃん。ごめんね。役に立たなかったわ。」

「あれは無理よ。」

グレースちゃんは疲れた顔をして苦笑いした。


帰りの足取りが重い。


結局、解決しなかったし。


「みんなは上手くいったかしら。」

グレースちゃんが呟いた。

「そうね。ケイトちゃん達が上手く仲が纏まったら解決するか。」


そちらに期待するしか無いわね。


団地を出て車までそんな話をしていると後ろから声がした。


「あの!!ベイリーさん!」

振り向くと走って此方に向かって来るジュリエットの姿が見えた。


「はぁはぁ。あの。母がごめんなさい。」


初めて頭下げられた気がする・・・。

それは置いといて。


「あの・・・。私、卒業したら誰でも良いからお金持ちの方と結婚しないといけないんです。」

ジュリエットはそう言って私達の顔を見た。


「は?誰でも?誰と?結婚?!」

グレースちゃんは意味が解らないと言う顔をしてジュリエットに尋ねた。


私は察したわ。あの八百屋のおじさんの話と一致した。


この子・・・もしかして・・。


「母の命令なんです。従わないと・・。ごめんなさい。私は例え婚約者が居る人でも奪ってみせる。」


横のグレースちゃんの顔が怖いわ。


「命令?全く!意味が解らない!それでアンディーにもちょっかい出したの?!」


「意味が解らなくても結構です。私はそうしなければならないから。では。失礼します!」

ジュリエットは唇を噛み締めて頭を下げた。


「本当に何?!何なのこの親子!」

そのまま走り帰るジュリエットを追おうとするグレースちゃんの手を引き止めた。

「もう止めましょ。」


宥めるけどグレースちゃんの怒りはなかなか収まってくれなかった。


車の中でも不機嫌。


でも、仕方ない。


あれはそう。毒親?依存?

確かそんな言葉が合う気がする。


「グレースちゃん。卒業式にどうなるかもう見守るしかないわよ。」


主人公の親がまさかこんな親とは全くゲームしているだけでは気が付かないわよね。


「うん。ねぇさん。この話、ケイト達にも伝える。」

グレースちゃんは漸く落ち着いた様で頷いた。


何とかフラフラ揺れる婚約者達の手網を握らないとね。

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