第44話この世界って義理チョコないの?!
グレースちゃんが緊張な面持ちで2月14日の朝、登校して行った。
今日のメイクは何時もより特に気を使ったわぁ。
基本はスッピンにしか見えないメイクなんだけど。
少し唇のプルプル感を増してチークはフワッと何時もより濃い目。
この加減が難しいのよねえ!でも上手く出来たし髪型も可愛い雰囲気をめいいっぱい出した。
これで成功間違い無し!!
スマホが鳴った。
「おはよう!何時に来るんだ?車を回すぞ!」
ルーカスだ。
「おはよう、ルーカス。そうね。1時間後だと有難いわ。」
「解った!!」
そう言って電話は切れた。相変わらずの感じのルーカスだけど実は会うのはクリスマス以来なのだ。
ピアスのお礼は言ったけど。じゃあ会う?!となると。
正直、避けてた。とも言える。
忙しかった原因はグレースちゃんの毎週チョコ作りの練習をしていたからだ。
溶かして固めるだけから始めて、生チョコ作ったり、ケーキ焼いたり。
色々考えたけれどガトーショコラを作るという事になった。
美味しい割に簡単なのよね。メレンゲは電動の泡立て器があれば簡単だ。
無いと女性には少し疲れる作業かもね。
「これは義理チョコ。」
そう言いつつも私も1人で食べきるサイズのカップケーキより少し大きめのガトーショコラを焼いて綺麗にラッピングして準備していたりする。
告白する勇気は全然無いのだ。でもチョコを渡したいと思う乙女心。
「さあ!何着て行こうかしらぁ。」
アーシェンバードは完全に日本の四季と一致している気がする。
2月は寒い。
今日も寒そうだ。シャツ、ネクタイ、ニットにコート。
城に行くからこれが無難かしらねぇ。
「うん。OK。」
鏡の前で髪も整える。ピアス可愛い。我ながら似合う。
そして、子供の頃貰ったネックレスは何時もの様に身につけたままだ。
本当はもっと可愛い系の色合いが好きなんだけど。
無難が1番・・よねぇ。
チョコは紙袋に入れてっと。
忘れ物なーし!!
結構、緊張して来た。これは義理チョコ。これは義理チョコ。
ピアスのお礼よ。
窓の外を見ると黒の高級車が見えた。
迎えが来たようだ。
良し!行こう!
私は執事さんに城に行くと伝えて外へ出た。
王家の運転手さんが車を降りて恭しくお辞儀なんてしてくる。
私も深々と頭を下げて車へ乗り込んだ。
「ありがとうございます。」
「いえいえ。お待ちしておりました。」
仕事とは言え応対が柔らかでそれでいてガタイの良い運転手さん。
多分、SPも兼ねているんだろう。
城への道のりは特に話す事も無く私は緊張が募るばかり。
大きく深呼吸して城へ入った。相変わらず煌びやかで美しいエントランスホール。
そして目の前には腕組みしているルーカスが居た。うわぁ。もう居た・・・。
「本当に!!久しぶりだな!」
と少しばかりの嫌味とそう言いながらもニヤリとした笑み。
「お久しぶり。ごめんなさいね。」
うん。大丈夫。
ちゃんと話せてる。
「さあ!私の部屋でお茶でも飲もうじゃないか!」
「はいはい。」
途端に嬉しそうな態度のルーカスを見ると安心した様なそうでない様な。何とも複雑な気持ちになる。
この人は王子。この人は友達。
もう一度、念を押す様に自分に言い聞かせた。
ルーカスの部屋に入ると真っ先にテーブルの上に山積みになった小さめのプレゼントを見付けた。
明らかにチョコレートだろう。
「わー。これは沢山・・・。」
思わず声が漏れてしまった。
「ああ。毎年の恒例行事だからな。」
ルーカスは鼻で笑うから、
「こんなに食べたら太るわよ。」
なんて憎まれ口を叩いてみたり。
「食べる訳無かろう?メイドや護衛に配る。」
そっか。
でも、何かそれはそれで婚約したい!と言う必死な御令嬢達が気の毒にも感じる。
気持ちは複雑なままだ。
「まあ、座れ。」
ルーカスにそう言われソファに座った。
横目に山の様な本気チョコ。
そうこうしているとメイドさんが数人入って来て1人はお茶を出してくれて残りの人達は持って行きますねーとチョコレートを撤収して行った。
本当に食べないんだ。
「一応、私の元へは届けられたと言う事で。」
チラリと私の顔色を伺う様な顔をした。
「呆れているのか?」
そう聞かれて私は苦笑いをした。
「ルーカスはチョコ嫌いなの?」
作ってきたけど。どうすべきか・・。
「嫌いでは無い。」
そうか。
折角だし渡す・・しかないわよねぇ。
「はい。」
「これは?」
私の持参した紙袋を受け取り中を覗き込んだ。
「バレンタインチョコよ。」
「え?!チョコ?」
驚いた顔をされて仕舞ったと少し思った。やっぱり男から貰うチョコって嫌よね・・。
「このピアスのお返し!義理チョコ!友チョコ!!」
そう言わざるを得ない。
ん?義理?友?と呟いてルーカスは首を傾げながらラッピングを解いていく。
「見た事無い包装紙だな?どこの店のだ?」
そう聞かれて素直に手作りだと伝えた。
「作れるのか?!」
また驚いた顔。
「男に手作りチョコ貰うのは初めてかしら?まあ、貰いなさいよ。」
自分が傷つかない様な。そんな上から目線な言い方をしてクスクスと笑って早く開ける様に急かした。
「やるな!凄く美味そうに見える!」
上手く焼けたガトーショコラを見てルーカスは優しく微笑んでくれた。
「良し!これは私が食べる!使用人達にくれてやるには勿体ないからな。」
そう言われて胸がキュンっとなる単純な私。
そして私の横でパクりと一口。
味わう様に頷きながら。
「美味いじゃないか!!」
期待以上の味だったのかルーカスはまた一口。
良かった。
うん。食べてくれて嬉しいし。他の人のは食べないと言うから少しだけ優越感。
「アリスは器用だな。ひょっとして他にも色々作れるのか?」
「あー。そうね。一人暮らししてたし。御飯は自炊もしてたわ。」
ルーカスはケーキを食べながら感心すると頷いた。
「本当に美味いし。心がこもっている感じがする。嬉しい・・。」
半分ほど食べた所で用意されていたコーヒーを彼は飲んだ。
「残りは夜食にでもする。昼食が入らなくなりそうだし。」
ケーキを見ながらルーカスはフフっと微笑み箱を閉じた。
良かった。食べてくれて!
「ありがとう。」
私の顔をまじまじと見てルーカスは真剣な面持ち。
「う、うん。こちらこそ。」
そんなに見られると照れる!!
「アリスの気持ちは解った。バレンタインデーの返事はホワイトデーにするのが決まりだ。それで良いよな?」
へ?ん?んんん?
返事?!
「来月14日に。」
そう言ってまたコーヒーを何食わぬ顔で飲み始めた。
あれ?もしかしーて?本命チョコ渡した事になってる?
まさか?
そう言えば・・・。
『チョコレートを渡す相手は1人だけでしょ??何その義理って?』
グレースちゃんが言ってた言葉がふと頭を過ぎって。何度も義理チョコの説明をしたけれど理解してくれなくて。
涼しい顔でコーヒーを飲むルーカスの顔を見る。
さっき返事って。
え?!もしかして?
この世界は義理チョコ文化は無いの!!?
一瞬、全否定しようかと迷った。
だけど・・・。
これを逃したら私、一生告白なんてしない気がする。
「どうした?アリス。」
「いや。大丈夫よ。」
私も黙ってコーヒーを飲んだ。
今すぐ断られた訳では無く。保留にされた。
はっきり拒絶された方がスッキリするけれど。
ダメだ。色々聞くの怖い。
モヤモヤ、ウダウダしながらもその日はルーカスの自慢の城の温室等も見せて貰ったり。
おもてなし満載の和食を食べたりと何とか友達らしく過ごした。
「また!連絡する!最低でも来月には会おう!」
「う、うん。了解です。」
ルーカスは終始笑顔で満足したように見送ってくれた。
ベイリー家に帰りグレースちゃんのバレンタインデー作戦大成功話を聞いた後に徐に確認した。
「だから!ねーさん?バレンタインデーのチョコは本当に好きな人にした渡さない物なの!それが普通!!」
と呆れた様に注意された。
やっぱり・・・。
ルーカスにはそう思われた様です。
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