ラヴ・レター
くわとろプロジェクト
第1話 ごめんね
航空機の窓側席で里菜からの手紙を読み返している。いつ見ても胸が熱くなってくる。
彼女からの手紙はもう何通来ただろうか。
今時手紙なんてと思っているところもあるが、メッセージはメッセージでほとんど毎日している。
早いもので僕たちの関係も3年経つか。まだまだ里菜の知らないところはたくさんあるし、僕のことももっと理解してほしい。その先にお互いの未来があれば。
里菜とは遠距離で頻繁には会えない。
だから手紙を書いて想いを伝える、それが形として残っていくというのは僕たちにとって大切なことなんだ。
この手紙によると今回のデートは里菜がプロデュースしてくれるらしい。
基本は里菜が行きたい場所になるんだろうが、それはそれですごい楽しみだ。
飛行時間は約2時間ほど。ここしばらく仕事に追われゆっくり休めなかったこともあって眠気が来る。
数時間後のことを楽しみにしばし目を閉じることにしよう。
ドンっと着陸の振動で目が覚めた。思いのほか休めたようだ、頭もすっきりしている。
いつもここから駐機場への時間が長く感じてしまうのは里菜に会いたい一心だからだろうな。
慌てなくても彼女は待ってくれているし、それは僕もわかってる。
荷物を受け取り、出口へ向かうも、一向に里菜の姿が見えない。
「あれ?さっきもう着いてるよってメッセ来たのに」
軽くつぶやきながらスマホを見てみる。里菜からの着信がある。周りを気にしながら折り返し電話してみる。
「ちょっと、基樹、どこ見てんのよ?あたしここにいるでしょ!」
電話を取るなり里菜に怒られた。といってもどこにもいないでしょ。あ、。
僕に駆け寄ってくる女性を改めて見ると間違いなく里菜だった。見間違えするほどの変わりようか?
「里菜、久しぶり。変わりすぎてわかんなかった」
そのまま二人で空港の出口へ歩き出す。
「基樹サイテー、バッサリ髪切った写真を送ってたでしょ。自分の彼女くらい見てわかりなさい!」
といって僕の腕をつねってきた。
「え?そうだったっけ?覚えてな・・・あー、思い出した。ごめん、最近忙しすぎて忘れてた」
そういえば里菜からのメッセで腰まであった長い髪をセミロングくらいにしたって来てた。
ほんとサイテーやな。
「ま、基樹らしいけど、そんなに忙しいの?だったら今日のことはもう少しずらしてもよかったよ」
「いや、今日の約束があったから苦じゃなかったよ。里菜に会いたかったし」
少し里菜が照れている。それを隠すように
「でしょうね、あたしに会えないと基樹が死んじゃうもんね」
と無邪気に笑ってる。若干の違和感はあるんだが。人のことを気遣いできる里菜なんだけど、僕にはあまり気を使ってほしくないな。
「あたしに気づかなかった罰として今日の晩御飯は基樹のおごりね!回らないお寿司とかいいなー」
と言って、僕の肩を叩いて小走りに出口へ向かっていく。
「おいおい、里菜、そりゃないよ。俺だってなー」
そんな僕に舌を出して外へ出て行ってしまった。やれやれだな。
里菜の運転で二人のデートがスタートする。どこに行くのかはまだ聞いてない。
「ねぇ、里菜、今日はどこへ行くの?」
「前から決めてたんだけどさ、久しぶりに遊園地行くよ。あと2か月で閉園するんだって」
と言ってチラシを渡してきた。付き合い始めのころ行ったっきりの施設だ。
「そっか、あそこも閉園するのか。残念だね」
うん、とうなずいて運転を続けている。
到着するなり「さあ、行くよ」とばかり僕の手を引いてエントランスまで急ぐ。
僕ら二人とも絶叫系は大好物。何回でもかかってこいというスタンスだ。
「で、何に乗るの?」
聞いてみたが答えを聞いて愕然とした。
「は?何言ってるの?ここに来るのこれで最後かもしれないでしょ!全部乗るよ」
「おいおい、さすがに全部って、あのねー」
僕の返答はいらないらしい。次々にアトラクションを制覇していく。
いくら絶叫系は好きでも連続で乗るのは厳しいよ。目が回ってきた。
「ちょっと、続けて乗るからふらふらしてるやん。たぶん里菜も揺れているだろうけど、わかんないや」
「う~ん、あたしもさすがにね」
次に乗るのを決めたらしい里菜が目指したものは観覧車だった。
なるほど、ここらで一息入れますか。
この近辺では一番大きい観覧車で一周回ってくるのに20分以上要するらしい。
しかし、今日の里菜はなんかいつもと違う気がする。なんとなく強引すぎるというか、急いでいるというか。
先ほどまではしゃいでいたからカゴの中では言葉が少なくなってしまった。
「ねえ、里菜、今日はどうかした?楽しんでいるのはわかるけど、飛ばしすぎだよ」
向かいに座っている里菜を見つめる。
「・・・」
無言のまま外を眺めている里菜。何か怒らせちゃった?
もうすぐ一周回って降りるタイミングで里菜が口を開く。
「基樹、あたしたちってうまくいってるよね?」
突然の質問に僕の動きが止まった。
「え?何言ってるの?当たり前でしょ、こうやって二人一緒にいるんだからさ」
カゴから降りるなり僕と距離を取った里菜の後姿は悲しげに感じる。
やっぱり僕が何か里菜の逆鱗に触れたんだろう。
「おい、里菜!なんだよいきなり。わけわかんないよ」
里菜に追いついて手を取る。そのまま引っ張り里菜を抱きしめる。
僕の胸元で少し小刻みに震えている。泣いているようだ。
「ごめんね、基樹。ごめんね」
僕に謝りの言葉しか言わなくなってしまった。
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