プロローグはこれにて終わる。

「やぁ、こんにちはミズカミショウジ、僕は少し先の未来から来たロボット「クロノ」だ。よろしくね。」



逆向きパソコンに映されいるのは、かわいらしいキャラクター。黄色いしっぽをにょろろんとくねらせ、先っぽには星が付いている。


体全体はオレンジ色で、ピコピコした耳、ひくひくしそうな鼻、短い手足は何ともキュートだ。寂しくなったらたかねでも買ってしまいそうだ。



と、あらかた観察できたのは、急な非現実に呆気にとられたからである。



数秒前を思い返す。


ええと、謎解きまで11分と26秒だったか、こういうのはタイムとか考えたことなかったから、これが遅いか早いか分からんなぁ。



じゃねぇ!もっと大事な事を言っていた気がする。


僕は両手をパソコンに向けて合わせる。



「ええと、頭を使っていたのでよく聞き取れなかったよ。お手数だが、もう一度話してくれないか?」




「ん?あぁいいよ。


入室からにじゅうー」




「あーいや、そこはいい。もっと後。」



「おけおけ。


よろしー」



「ちっげーよ!


何でそんな定型文な所反復する必要があるんだよ、その「よろしくね」の手前辺りだ!」



「なんだよ、うるさいなぁ


えーと、あー、ちょい先の未来から来ましたクロノです。よろよろ。」



耳の中を指でポリポリしながら、嫌々って感じに話した。


適当だなーこいつ。顔をひきつるも、内容は何とか把握した。



未来から来たらしい。



さて、謎解き脱出ゲームにはよく設定があるよな。「館からの脱出」とか「牢屋からの脱出」とか。その一種なのかもしれない。


だがここは図書館だ。静かに本を読む場所であり、知識を嗜む場所であり、本を借りる施設である。だからそんなことはない。


なら何故そんなことをいう?マジなの?まさか真実なの?



「そうかい。で、そのクロノさんがどうして僕を閉じ込める必要があるんだ?さっさと本借りて帰りたいんだが」



「そりゃだめ。」



ちっちっちと、指を左右に揺らして僕の言葉を拒否した。


つーかこの映像すごいな、場合によって映像を切り換えているのか?その割りには動きがとても滑かだ。まるで本当に入っているような。


しかし、そんなことを感心している場合ではない。



「な、何でダメなんだよ。さっさと出せよ。僕をここに監禁して何の特があるって言うんだ。」



「あ、すまんすまん。用件を言わないとね。」



そう言うと、クロノはくりくりした目をキリッとさせ、笑顔が真剣な面持ちに変わる。



「何者かが、過去に行って時間を書き換えようとしているんだ。それを何としても防がないといけない。そのためには、君が選ばれた。」



「何で、僕なんだ?」



「それはボクにも分からない。だけどボクのマスターが言うには、君が最適らしい。


そのために、君の好きそうな歓迎も用意したろう。」



クロノは両手を広げて、ニコニコ笑みを咲かせて部屋全体を指し示した。どうやら、これが僕への「歓迎」のようだ。



「いやまぁ好きだけど、こういうのかなり好きだけどもよ、それ僕じゃないとだめなのか?」



「ダメだ。君が選ばれた、としか言えない。」



選ばれた、ね。まるで頭痛でもあるように頭に片手を添えて、深いため息をついた。


まるで良くある詐欺だな。いや詐欺なんだろう。詐欺なら詐欺でちゃんと騙す姿勢は示してほしいが。



だが、一度やってみたかった。こういう詐欺に対して一応は好意的な印象を与え、逃げられなくなる手前でとんずらして相手を挑発する的な、「架空業者に電話してみた!」的なことをしてみたかったのだ。


人を騙すんだ、騙される覚悟はされていようぞ。僕は少し広角を上げたが、すぐに真顔に戻った。悟られてはまずいからな。



「いいよ、その話乗った。


で、これからどうすればー」



「その言葉が聞きたかった!」



ニカッ!と無邪気そうな顔をしたクロノは、僕の言葉を最後まで聞かずに事を始めやがった!



「ちょ、お前最後まで話をーくっ!」



パソコン内のクロノが黒い光に消えた。



いや違う、パソコンから黒い光が放たれたのだ。





光と言うよりは、闇だった。




一瞬だった。





この一室が闇に呑まれ。






僕が闇に呑まれ。








足が地上から離され。








何も見えない闇の空間で。










僕は意識を失った。

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