第63話 僕とおうちたんけん

「ふみゅみゅー……。にーしゃま、ねーしゃま……。僕がいま、おたちゅ……。

 ふおぉぉーっ! お? ふぇ!?」


 僕はパチリとお目々を開けると、ぐりんぐりんと顔を動かして周りを見ました。


「うにゅ? いないでしゅ?」


 さっきまでにい様とねえ様が悪い人に捕まっていたはずなのです。

僕はお助けする為に、体中に魔力を巡らせて必殺技を放とうとしていたところでした。


「おかちいでしゅ……」

「ユーリさま。どうされましたか?」


 ぴょん太がひょこっと僕の視界に入りました。

うむうむ。

ふわふわぴょん太は今日も可愛いのです。


「ユーリさま……?」


 何も言わない僕に、ぴょん太がもう一度名前を呼びます。

 はっ!そうです!

にい様とねえ様をお助けしなければっ!


「ぴょん太っ! にーしゃまとねーしゃまがピンチなのでしゅっ!

 僕がおたちゅけちないとなのでしゅっ!」


 ふんむっ!と僕は拳を両手で作りました。

僕、頑張るですよっ!


「……?

 ユーリさま? 今までお休みしてましたよ?」


 ふえ……?

ぴょん太、何を言っているのですか?

だって、さっきまでにい様とねえ様が悪い人に捕まってましたよ……?

 僕はキョロキョロともう一度お部屋を見ます。

……。僕のお部屋です……。

下を見ます。

僕のお布団です……。


「きゅあー!」


 僕は恥ずかしくなって、お手手で顔を隠しました。

まさかの夢でした。

夢だったなんて気付きませんでした。

僕は、にい様とねえ様をお助けするという使命感に燃えてました。

僕もカッコいいにい様とねえ様のように、カッコよくお二人を助けるんだと思ってました。

でもそれは全て夢でした。

 恥ずかしいです。


「夢に見てしまう程、ご兄姉の訓練が素晴らしかったのですね」

「あい! にーしゃまもねーしゃまもふおぉーっ! てなるほどカッコよかったのでしゅ!

 僕も大きくなったら、にーしゃま達のようにカッコよくなるのでしゅ!」


 ぴょん太の言葉に嬉しくなって、お手手をお顔から外してブンブンと振り回してしまいます。

きっと僕の将来は先生様のようにむっきむきになって、トウッ!て感じで必殺技を繰り出していると思うのですよ!

このぷにぷにのお腹もきっとシュッ!てなるのです!

むっふー!


「キラキラと目を輝かせて、ほんと可愛らしいですね、ユーリさまは……。

 ただ、ムッキムキにはなれないと思いますが……」


 将来の姿に興奮していた僕は、思っていた事を口に出していた事も、それにぴょん太が何かを言っていた事にも気が付きませんでした。


「ユーリさま。起きるにはまだ早い時間ですよ。もう一度お眠りしましょうね」


 ぴょん太が僕を落ち着かせるように可愛いお手手で、ぽんぽんと肩を叩きます。


「ほえっ?」


 おねむ?

僕、今起きましたよ?

おはようございます、ですよ?

あっ!


「ぴょん太、おはよーごじゃりましゅ」


 僕はぺこりと頭を下げます。

朝のご挨拶してませんでしたからね。ぴょん太がもう一度おねむすると勘違いしても仕方ありません。


「おはよございます、ユーリさま。

 さぁ、お眠りしましょう」

「ほえっ?

 今、ごあいしゃちゅしたでしゅよ? おはよーでしゅよ?」

「あー……。えっとですね、ユーリさま。起きる時間が何時もよりかなり早いのです。

 いつも起きる時間は……。お日様がもう少し明るくなってからなのです。

 ですからもう少しお眠りしましょう。ね?」


 お日様が明るい……?

 ふおっ!

そう言えばお部屋がいつもより暗い気がします。

それに、おはよう鳥さん達の元気なお声も聞こえません。

いつもなら僕は、まだおねむしているんですね。

 ふむふむ。

そう考えるとなんだか新鮮な気がします!

いつものお部屋が違って見える気がしますね!

 なんだかワクワクしちゃいます!


「ぴょん太! 僕、起きましゅ!」

「ええっ!?」

「お目目さんがワクワクして、おねむ出来ないって言ってましゅ!」

「ええー……。お目目さんになんとかお眠りいただく事は出来ないのでしょうか?」

「むふっ! 無理でしゅーっ!」

「……っ!

 ああ……。なんてお可愛いらしい笑顔。萌え死んでしまいそうですっ!

 ああっ! でもっ! 子供にとっての睡眠は大事なはず。

 今後の成長の妨げになっては……っ! ああ、でもっ……!」


 なんかぴょん太ごちゃごちゃうるさいです。

ぴょん太がごちゃごちゃ言っても、お目目さんのワクワクも、僕のワクワクも止まりませんよ!

エリーナも、マティアスもいない今がチャンスなのです!


「ぴょん太っ! おうちたんけん行きましゅよっ!」


 僕は気合を込めて、元気よく声を出しました!

レッツゴー!なのです!

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