第3章
第147話
三国同盟が成立した食事会から数日間は、まるで嵐のような数日間だった。
ジュンコに約束した通り、彼女のお付きの料理人にある程度美味しい料理を作れるように指導したり……。
獣人族の国で例の料理本の宣伝をしたり……本当に忙しかった。
そして今日……ようやく私は獣人族の国からカミルの城へと帰って来ることができた。
「ふぅ……ありがとうございましたシグルドさん。」
私はここまで送ってくれたシグルドさんにお礼を告げた。
「いえいえ、ミノル様もお疲れ様でございました。しばらくは疲れを癒してはいかがですかな?」
「そうさせてもらいます。……アベルは今どうしてます?」
「魔王様もお忙しい毎日をお過ごしですよ。まだその人工勇者という者が動き出していないのが不幸中の幸いですな。」
「そうですか……。」
あれから人間の方は不気味な位、動きを見せなくなった。国境への軍の派遣も来なくなったしな。
「では、私はこの辺りで失礼致します。」
「ありがとうございました。アベルにもよろしく伝えておいてください。」
こちらにペコリと一礼するとシグルドさんは影に消えていった。
「っと、さてみんな元気でやってるかな。」
私がいない間はノノが料理を作っていたはずだから……大丈夫だとは思うけどな。
中庭を進んでいると、ピッピとモーモーの姿が目に入った。そしてあっちも私に気がつくと、こちらへと勢いよく向かってきた。
「ピ~~~っ!!」
「おぅっ……お前またでかくなったか?」
どふっと私の胸に飛び込んで来たピッピは、ここを後にした数日間でより大きく、もふもふになっている。だから突進の威力も馬鹿にできない。
「ンモッ!」
「モーモーも元気そうだな。」
うちのペット2匹と戯れていると、城の方から声が聞こえた。
「あっ!!」
「ん?」
声が聞こえた方を振り向いてみると、そこにはノノがいた。こちらに気がついた彼女もまた、小走りでこちらに走ってきた。
「お師様~!!おかえりなさいです!!」
「おうノノ、元気そうで何よりだ。変わりはなかったか?」
「はいっ!!」
「それならよかった。よく頑張ったな。」
「えへへ……。」
やはり任せても何も問題はなかったみたいだな。頑張ったご褒美に、いつもよりも念入りにノノの頭を撫でる。ふわふわとした耳の感触が久しぶりだ。
ちなみにジュンコは絶対に耳も尻尾も触らせてくれなかった。あの魅惑の尻尾のさわり心地を確かめたかったが……まぁ後でなんとか頼み込んでみよう。
ワンチャン……油揚げで釣れたりしないかな?後で試してみよう。
「っと、カミル達もいるか?」
「中にいますっ。あ、でも今お客さんが来てて……。」
「お客さん?」
この城に誰か来るって言ったって……みんな顔が割れてると思うんだが……。ノノはその人物をどうやら知らないようだ。
いったい……誰だ?
疑問に思っていると、城の方から今度はカミル達の声が聞こえ始めた。
「まぁ、そういうことじゃから……その時はよろしく頼んだぞ?」
「承った。……む?あれは……。」
カミルと、もう一人……筋肉質な体の男が出てきたかと思うと、そいつと目が合った。
「お?ミノル、もう帰ってきておったのか。」
「あぁ……それで、そっちの人は?」
「こやつはの……。」
カミルがとなりにいる人物の紹介をしようとすると、彼はそれを遮って、自分で話し始めた。
「私はアスラ、五龍……いや、今は三龍にもどったのか。まぁその一角だ。貴殿が以前魔王様が仰っていた、この世界ではないところから来た人間……だな?」
「…………。」
何も答えずに様子をうかがっていると……。
「ふむ……なにやら警戒されているようだが、沈黙は肯定の意と受け取ろう。あと、私は魔王様の味方だ。安心しろ。貴殿に危害を加えるつもりは一切無い。では、カミル……私はこれで失礼する。」
自分は味方だ……と言い残すと、アスラと名乗った彼はあろうことか地面の中へと消えていった。
「すまんの、ミノル。あやつは昔からあぁなのじゃ。」
「そうなのか……。何か用があって来たのか?」
「いや、妾が呼び出したのじゃ。この先、イヤでも戦ってもらわねばいけなくなりそうじゃからな。件の人工勇者とやらとの。」
なるほど、協力を要請したってわけか。
「承諾してくれたのか?」
「うむ、なにせ魔王様からの命じゃからな。あやつが従わぬはずがない。妾一人のためじゃとしたら動かんじゃろうがの。」
「それだけアベルへの忠誠心が高いってことか。」
なら信用しても良さそうだな。ボルトやウルのように敵対するということはなさそうだ。
「そういうことじゃな。っと、それはそうとそっちの方は上手くいったのかの?」
「あぁ、バッチリだ。」
「では、今日からまたミノルの料理が食べれるの~。なら今日は盛大に豪華なものを食べたいの~。」
「豪華なもの……か。ノノ、今日ってもう買い出しは行ったか?」
「まだです!!」
「わかった。じゃあちょっと食材から厳選しにいくか。」
「うむ!!」
そしてまたいつもの日常が始まる。
しかし、その平穏の裏で密かに不穏の足音が迫っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます