第145話

 そしてみんなが各々で料理を食べたり、お菓子を食べたりするなか……アベルがジュンコに例のことについて切り出した。


「それで……どう?ボクらとの同盟は考えてくれた?」


「大いに前向きに考えさせてもらったでありんす。大変でありんしたよ?本当に……この数日間は。」


 ここのところの数日間味わった思いを噛み締めるようにジュンコは語った。そして本題を口にする。


「そちらと同盟を結ぶなら……そこの料理人を貰いたいでありんす。」


 ジュンコは私のことを指差す。


「なるほどね。ミノルが欲しいんだ?」


「えぇ、あちきがこれから暮らしていくためにも必要不可欠でありんす。……だから、これだけは譲れないでありんすよ?」


 アベルとジュンコの間でピン……と空気が張りつめる。


「あはは、実はねジュンコ。君がミノルを要求してくるのはわかってたんだ。」


「なら話が早いでありんすね。そこのミノルと言う名の料理人をこちらに渡してくれるなら同盟を結ぶでありんす。でなければ……。」


「残念だけどだね。」


 ジュンコが話している途中でアベルはきっぱりと要求を断った。すると、まさか断られると思ってなかったジュンコは焦り始める。


「なっ……なんででありんす!?同盟を結びたいんじゃなかったでありんすか!?」


「同盟を結びたいってのは本心だよ?でもね、ミノルはあげれない。でもその代わり……ミノルの技術と知識をあげることはできるよ?」


「っ!?それは、いったい……。」


「ミノル、ジュンコにあれ見せてあげてよ。」


「あぁ、わかった。」


 私はインベントリから一冊の本を取り出して、ジュンコに差し出した。


「これは……本?で、ありんすか?」


「そ、ミノルの知識と技術を書き記したこの世に一冊だけの本。それをしっかりと読めば、誰でも簡単に美味しい料理を作れるようになる。」


「こ、こんな本一冊よりそこの料理人の方が価値があるでありんす!!あちきは騙されないでありんすよ!!」


 一瞬考えがぶれそうになったジュンコだったが、すぐに首を横に振り、あくまでも私という一人の存在を要求してくる。


「ジュンコ~、その本の価値……見誤ってるよ?よく考えてみてよ、君の国……製紙の技術は随一だよね?」


「な、何が言いたいでありんすか?」


「例えばの話、その本を複写して自分の国で売ったっていいんだよ?もちろん他の国にも……ね?」


「……っ、そ、それは確かにそうでありんすが……。」


 未だに諦めきれないジュンコの心にアベルは更に追い討ちをかけるように言った。


「……損失を埋め合わせる方法、結局まだ見付かってないんでしょ?」


「っ!?な、なんでそれを……」


「あはっ♪やっぱりね。そう簡単に人間から得られる利益を埋め合わせる方法なんて見付からないと思ったんだ~。」


「鎌をかけたでありんすか!?」


 どうやら事実らしい。


「これの実用性が認められれば、あっという間にその損失分なんて取り戻せると思うんだけどな~。なんならお釣りが来ると思うんだけど……ねぇ、どう思う?」


「~~~っ!!」


 ジュンコは何も言い返せない。アベルの意見は決して間違ってはいないからだ。


 この本は複写して売ることができるのも魅力の一つだが、大いにこの世界の料理の文化を発展させることができる代物だ。

 それを彼女はちゃんとわかっている。


「この条件で呑んでくれるなら、おまけで君のとこの料理人にこの本の内容をミノルが直接指導するけど……どうする?」


「……ず、ずるいでありんす。そんなの断れないでありんすよ~!!」


 涙目になりながらジュンコは言った。どうやら折れてくれたらしい。自分の至福より国の利益を優先した国主らしい英断だ。


「じゃあ呑んでくれるね?」


 すっと、アベルは契約書をジュンコの前に差し出した。


「う~っ!!呑むでありんす!!わかったでありんすよ!!」


 かなぐり捨てるように乱暴にジュンコはその契約書にサインをした。


「これでいいでありんすね!?約束は守ってもらうでありんすよ?」


「うんうん!!大丈夫~バッチリだよ~。」


 これで三国間の同盟が成立したか。


「とほほ……最初から最後までアベル殿の手のひらの上だったでありんす。今回は完全にあちきの負けでありんすよ……。」


「あはは、まぁまぁ堅苦しい話はこのぐらいにして、今からは食事会を楽しも?まだたくさん料理もお菓子も残ってるし……ねっ?」


「う~……そうさせてもらうでありんす。」


 アベルに促され、再びジュンコは料理とお菓子を食べて回り始めた。時にはアルマスを話の輪に加え楽しそうに話していたところを見るに、三国間の関係は良好のようだ。


 まだまだこれからが本番だが、今は素直に同盟を結べたことを喜んでおこう。

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