第126話

 詳しいことをアベルから聞いて、わかったことは……。


 まず、連れてきたジュンコという狐の獣人は、今の獣人族を束ねる女王だと言うこと。

 なぜ連れてきたのか?と問いかけると、帰ってくる答えは私の料理を食べさせたかった……。そのついでに関係を築きたい。らしい。


 関係を築きたいから……といって、普通無理やり引っ張ってくるか!?


「……私はじゃあ、この人に料理を振る舞えばいいんだな?」


「そうそう!!そういうこと。お願いできる?」


「わかった。なんとか、やってみる。」


 やってみるとは言っても、今日作るものは決まってしまっているんだがな。後は引き続き調理を進めるだけだ。


「それじゃあ、ジュンコはこっち~ボクとちょ~~~っとお話……しよっか?」


「ひぅっ!?あ、アベル殿目が怖いでありんすよ~!!」


 そしてアベルがジュンコをずるずると引きずって行ったのをみて、ふぅ……と一息つくと私は気持ちを切り替えた。


「さて、じゃあノノ調理を続けよう。」


「あ、は、はいっ!!」


 ノノの方はあと2匹か……その間にこっちはどんどん料理を完成させていこう。


 ノノと共に調理を進めていると、向こうの方でアベルとジュンコの会話が聞こえてきた。


「ねぇジュンコ、ボクが話したいこと……わかってるでしょ?」


「……同盟のことでありんすね?」


「そ……で?どう?ボクらと。」


「それはあちきに人間と手を切れって言うことでありんすか?」


 まぁ、アベルは敢えてそう言わなかったんだろうが……つまりはジュンコの言っていることで間違いない。


「それはちょいとばかし、無理な話でありんすねぇ~。アベル殿も知ってる通り、あちきらは毎日人間と魔族と取引して銭を稼いでる。人間と手を切れというのはつまり……利益の半分をということと同義でありんすえ?」


 魔族と同盟を結ぶ……それすなわち人間に敵対するということ。そうなれば彼女の言うとおり、人間から得られる利益がゼロになる。


「じゃあ、その無くなる分の利益を埋められる方法があるって言ったら?」


 そう切り出したアベルの言葉に、ジュンコの狐耳がピコンと反応する。


 国の利益の半分を埋め合わせることなんてできるのか?


「そんな夢のような方法があるとは、思えないでありんすが……。本当にもし、そんな方法があるのなら考えなくもないでありんすえ?」


 妖艶な笑みを浮かべながら、ジュンコは言った。


「言ったね?その言葉ボク……忘れないから。」


「もちろん、あちきは口から出した言葉は飲み込んだりはしない主義でありんす。」


 なるほど、じゃあ当分はその損失する分の利益を埋める方法を考えることになりそうだな。それさえ考え付けば……獣人族と同盟を結ぶきっかけになるかもしれない。


 ただ、1つ気がかりなのは……さっきジュンコは「そんな方法があるのなら考えなくもない」と言っていた。

 つまり、ただ損失分を埋め合わせるだけでは……同盟を結ぶことを視野にいれるだけ。ということかもしれない。絶対に結ぶという訳ではなさそうだ。


 ならどうするか?


 一番手っ取り早い解決法は、今の獣人族の国の純利益を1.5倍……もしくは2倍位に膨れ上がらせることができる方法を見付けることだ。


 ただ簡単な話ではないがな。


 彼女達の話を小耳に挟んでいた私は、今回は力になれそうにないな。と心で思っていた。

 生憎、そういった類いに関しては私は詳しくない。私が詳しいのはあくまでも料理だけ。財政なんかはまったく知らないからな。


「っと、ノノ?そっちは終わりそうか?」


「あ!!今終わりましたお師様!!」


「良し、じゃあ私と代わろう。このパンくずをつけたやつをそこの油で揚げておいてくれ。」


「わかりました!!」


 カツレツをノノに任せて、私はノノが下ろした魚をお造りにしていく。


 ……それにしても綺麗に下ろしたな。最初見たときも思ったが、後半に下ろしたやつなんて、ほとんど身が骨に身が残ってないじゃないか。

 まったく末恐ろしい子だな。この分なら大人になる頃には調理技術が今の私を軽く超えていそうだ。


 ノノの料理の才能に思わず私は苦笑いを浮かべてしまう。


 そしてお造りを作り終えた私は、それを冷やしてからノノの隣に立ち、バターソテーを仕上げることにした。


「あ、お師様。もう終わったんですか?」


「あぁ、ノノが魚を下ろすのが上手かったから楽だったよ。」


 実際三枚下ろしが下手な人が下ろした身をお造りにするのは大変なのだ。身が崩れていたり、割れていたり……でな。


「えへへ……よかったです。……あ、これぐらいで上げていいですか?」


 えへへ……と喜びながらもノノは料理に真剣だ。


「うん、バッチリだ。」


 さて、私も仕上げよう。軽く小麦粉をまぶした身をバターでソテーして……最後に醤油を焦がして香りをつける。


「ふわ……いい匂い。」


「もうすぐで完成だからな。そしたら皆で食べよう。」


「はいっ!!」


 そして私はノノと共に料理を仕上げ、アベル達のもとへと運ぶのだった。

 果たして、これでジュンコがどんな反応を示すか……。

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