第123話
ウルジアでの買い物を終えて帰ってくると、城の中庭でノノとマームがピッピたちと戯れていた。
「戻ったのじゃ~。」
「たっだいま~。」
「あっ!!お帰りなさいです!!」
「ん、みんなお帰り。」
ノノ達に迎えられながら、私は中庭へと降り立った。すると一目散にノノは私の下へと走ってきた。
「お師様!!ウルジアはどうでしたか?」
「あぁ、いい街だったよ。綺麗で、いろんな魚もあって……な。今度はノノも一緒に行こう。」
「はいですっ!!」
今度ともにノノと行く機会があったら、魚の目利きとかも教えてあげるか。多分一回見ただけじゃ、魚の何がどう違うのかさっぱりわかんないだろうから、何回か通う必要があるな。
昔の人は、毎朝朝市を見に行ってその日に獲れた鮮度抜群の魚を見て、目利きの腕を上げていたらしいが……。最近は魚のどこを見ればいいのか、しっかりと確立しているからそれさえ教えてあげればノノならスイスイっと行きそうだがな。
そんなことを思っていると、服の袖をマームにグイっと引っ張られた。
「次は私も一緒に行く。これ……絶対。」
「あぁ、もちろんだ。もう危険は無くなったしな。次からは一緒に行けるだろう。」
ウルもボルトも、シグルドさんのあの水晶玉の中に封印されたしもう危険はないだろう。
……でも、何か他に方法はなかったのかな。封印する……ってのは確かに簡単だったが、あそこであの2匹を説得できる何かがあれば結末は変わったのではないだろうか。
ただ、あの2匹を説得できるモノが何だったのかは私にもわからない。
平和を望まず、闘争を望んでいた彼らが欲していたものは何か……。それは彼らにしかわからない。
「……お師様?」
彼らのことを考えていると、ノノが私の顔を下から覗きこんで来た。どうやら少しの間ぼ~っとしてしまっていたようだ。
「ん……。すまない、少し考え事をしていた。」
心配してくれたノノの頭を撫でていると、目を細めながらカミルがこちらに歩み寄ってきた。
「むふふ、今日何を作るのか考えておったのかの~?」
「まぁ、そんなところだ。」
「今日はこの酒もあるしの~、余計に楽しみじゃ。」
先ほど買ってきたばかりの葡萄酒の瓶にカミルは頬擦りする。
すると、見慣れないそれを見てマームが首をかしげた。
「それ……なに?」
「これは葡萄のお酒だ。何て言えばいいか……大人の飲み物って奴だ。」
「大人の……飲み物!」
「ノノでも飲めますか?」
「ノノにはまだちょっと早いかな……でも代わりに葡萄を搾って作ったジュースを買ってきたぞ。」
「ありがとうございますお師様!!」
葡萄酒を買った所でこれも売っていたから、一緒に買ってきたんだ。流石に私達だけが葡萄酒を飲んで、ノノが何も飲めないってのは可哀想だからな。
「っと、さて……それじゃそろそろ調理に移るか。」
物が物だからな、そろそろ調理に移らないと……。それに、ノノに三枚下ろしを教える時間もあるし。
あと、問題はアイツをどこで捌くか……調理台を2つくっつければいけるか?
こればっかりは試してみないとわかんないな。
◇
そして私は、コックコートに着替え厨房に入ると、あのデカブツを捌くために場所を整え始めた。
「これをこうして……このぐらいでいいか。」
「あの……お師様?何で台を動かしてるんですか?」
「ちょっと今日はとんでもないのを捌かないといけないからな。多分見たら驚くぞ?」
アイツを見たらノノとマームはどんな反応をするだろうか。下手したら彼女達の3倍以上大きな魚だからな。
「良し……それじゃ出すぞ。」
私はインベントリを開いて、あの魚の画像に触れた。
その次の瞬間……繋げた台の上にアイツが姿を現した。
「すごい……おっきいです!!」
「これ……今日食べるの?」
「あぁ、カミルがどうしても食べたいってごねたからな。」
まったく……捌くこっちの身にもなってくれ。こいつはとんでもない重労働だぞ。
「ごねた訳ではないのじゃ!!ただ、あのまま放置されておるのは、勿体ないと思っての~。」
物は言い様だな。
「でも、これどうやって捌くの?」
「どうやってって……普通にこうやってだな。」
私が出刃包丁を持って、いざ捌こうとするとヴェルが驚いた表情を浮かべた。
「まさかそのちっちゃい包丁でやるの!?」
「生憎、魚を捌く包丁はこいつしか無いもんでな。無いなら無いなりにやるのさ。」
もとより最初からこのつもりだったしな。
「いいかノノ、こんな風に魚体が大きくても三枚下ろしの原理は変わらない。だから小さい魚で完璧に三枚下ろしができるようになれば……こんな魚でもできるようになる。今からそれをやってみせるからな。」
「はいです!!お師様!!」
さて……いっちょ腕を振るうとしますかね。
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