第119話
「っ!!」
私めがけて雷撃が飛んで来た瞬間……まばゆい光が目の前で弾けた。そして次の瞬間には真っ黒な煙が私達の周りを包む。幸い私の体に痛みなどは走っていない。どうやら私に雷撃が当たる直前に何かがそれを遮ったようだ。
真っ黒な黒煙が晴れていくとともに、私の前にある人物の輪郭が現れ始めた。
「ほっほっほ、ミノル様危ないところでしたな。」
「シグルドさん!?」
「チッ……面倒なのが来やがったぜ。」
間一髪私の前に入りボルトの攻撃を防いでくれたのは、シグルドさんだった。
「お話を聞いていた限り……どうやらこのお二方の説得は失敗してしまったご様子。さらには魔王様への侮辱までもしかとこの耳でお聞きいたしましたよ?」
トントンと自分の耳を指でつついて見せるシグルドさん。いつもは穏やかな表情を見せてくれている彼だが、今日は少し眉間にしわを寄せて怒りに満ちているようだ。
「だから俺等をどうするってんだ?あぁ?」
「本当であれば……この場で殺してやりたいところですが、生憎魔王様は命を奪うことを好まれません。ですので………。」
そう言うと彼はポケットから水晶玉のようなものを取り出した。
「こちらを使わせていただきます。」
「「っ!!それはっ!!」」
彼が取り出した水晶玉を見て、ウルとボルトの表情が一気に青ざめた。その反応を分かっていたかのように、シグルドさんは不敵に笑いポツリと呟いた。
「時止めの牢獄。」
彼がそう呟いた次の瞬間には、私達の前からウルとボルトの2匹の龍は姿を消してしまっていた。
代わりにシグルドさんが持つ水晶は、先程まで透明だったのに、今は青と黄色の2色に染まっている。
「えっ!?えっ!?ウルとボルトが消えちゃったわ!?」
突然目の前からウルとボルトか消えたことで、ヴェルが慌てふためくなか、シグルドさんが口を開いた。
「彼らはこちらの水晶に封印させていただきました。」
「魔王様の執事が代々受け継ぐと言われる時止めの水晶玉じゃな。妾も初めて見たが……なかなか恐ろしい物じゃな。」
「彼等の力が必要となる時代まで、彼等にはこの中で悠久の時を過ごしてもらいましょう。」
彼は再び水晶玉をポケットにしまう。
「ちなみに魔王様は、彼等が協力しないことはわかっておいででした。しかし、一縷の望みに懸けてカミル様方に説得をお願いしたのですが……やはり。」
ふるふると彼は首を横に振る。どうやらアベルはウルとボルトの2匹の龍は、自分の思想に賛成しないということをわかっていたらしい。その上でカミル達に説得をお願いしたようだ。
「さて、では私めは魔王様に御報告に行かねばなりませんので……お先に失礼致します。」
彼はペコリとこちらに一礼すると、影となって消えた。そしてその場には私達だけが取り残されてしまう。
「……これで良かったのかな。」
ポツリと呟いた私にカミルが答える。
「いつ如何なる時代もその流れに適応した者こそが生き残る。今の時代にあやつらは適応できなかっただけのことじゃ。」
「それに、ミノルのことを真っ先に攻撃してきたしね。魔王様の悪口も言ってたし、当然の報いよ。」
「でも、これで五龍が三龍になっちゃったな。」
「あぁ、それについては何の問題もないのじゃ。元に戻っただけじゃからな。」
「元に戻った?」
言葉の意味がわからずに聞き返すと、ヴェルがその答えについて教えてくれた。
「元々は五龍じゃなくて三龍だったのよ。私とカミルとアスラのね。」
「うむ、ウルとボルトは先代の魔王様が新たに加えた若い龍だったのじゃ。」
「なるほどな。」
さっきカミルがウルとボルトに向かって若造……と言っていたのはそういう理由もあってのことだったのか。ようやく合点がいった。
「なんやかんやあったが……これででも残すはアスラ?とかいうやつだけになったな。」
「アスラのことは心配しなくても大丈夫なのじゃ。あやつは見つけるのがちと大変なだけで、魔王様の考えには忠実じゃからな。」
「また後で暇なときに私とカミルで探すわよ。ねっ?」
「うむ。」
ということは実質、アベルからのお願いだった五龍の説得は最早成功したも同然……って訳か。
「じゃあ、一応二人の目的は果たせた……ってことで。気を取り直して、ウルジアで新鮮な魚を買いにいこうか。」
「うむ!!」
そうだ、せっかく魚を買うんだし……今日はノノに三枚下ろしを実際にやらせてみよう。まだ、ノノは私がやっているのを見たことしかないからな。最初は小魚から下ろさせてみるか、鯵位のちょうどいい大きさの魚があればいいんだけどな。
仮にもし、三枚下ろしに失敗してしまったとしても、その魚はなめろうのようにしてしまえばいい。まぁ、でも……ノノのセンスがあればそれも無用な心配かもしれないな。
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