第104話

 なんとかライネルにある件の鍛冶屋へとやって来ると……そこは以前とは風変わりしていた。


「……なぁ、この鍛冶屋ってこんな外装だったっけ?」


「いや、もっと質素なものじゃったと記憶しておるが?」


 この鍛冶屋はリフォームでもしたのか、以前よりも大きく外装も豪華になっている。

 いったい何が……と疑問に思っていると、中から店主のあの女性が現れた。


「あっ!!お、お待ちしてましたぁ~。頼まれたものはできてますよぉ~。」


「あぁ、そうか……じゃあ早速見せてもらってもいいか?」


「もちろんです~。それでは中へどうぞ~?」


 案内されるがままに中へと入ると、外装だけでなく内装までもガラリと変わっていた。

 辺りをキョロキョロと見渡しながら歩いていると、彼女が笑いながら言った。


「お店が変わったのが気になりますかぁ~?」


「あぁ、ずいぶん前のと変わったなと思ってな。」


「三日前にお代で頂いた白金貨を使って改装したんですよぉ~。」


 やはりそういうことだったか……ってか白金貨一枚でこんなにリフォームできるものなんだな。感心していると、カミルがジト目で問いかけた。


「……お主、店を改装するのは構わんがしっかりと仕事はこなしたんじゃろうな?ん?」


「もっ、ももももちろんですよぉ~。だから睨まないでくださいぃ~。」


 カミルに怯えながらも彼女は鞘に収まった三本の包丁を私の前に持ってきた。


「こちらなんですけどぉ……いかがですかぁ?」


 私はその包丁を一本一本鞘から抜き、眺める。


 ……形状は見本として手渡したものとほぼ同じように作られているな。ただ、ペティナイフと牛刀が元の物と材質が違うな。やはりステンレスはこの世界には無かったか。


「こっちの2本の包丁には何の鉱石を使ってるんだ?」


「えと……見本のは見たこともない金属でしたので、ミスリルで代用させていただきましたぁ。」


 ミスリル?聞いたことがない鉱石だな。


「ミスリルってのはどんな鉱石なんだ?」


「ミスリルはこうやって加工すると、錆びにくくて綺麗で壊れにくいものに仕上がります~。」


「なるほど……な。」


 ステンレスとほぼ同じような感じで使えるというわけか。少し見た目はステンレスより白っぽいが……使えるものなら問題ない。刃もしっかりと両刃になっているしこれなら使えるだろう。


「こっちの包丁は何を使った?」


「そちらには鋼と鉄を使いましたぁ。」


「ふむ……。」


 出刃包丁の方は全く同じ材質か。なら少し錆びに気を付けないといけないな。


「錆止めかなんか塗ってあったりするか?」


「あ、錆止めの油を少し……。よ、よくご存じですねぇ~。」


「まぁな、職業柄こういうのには詳しくなる。」


 なら帰ってから一度洗わないといけないな。錆止めの油はその名の通り、金属が錆びるのを防止する油だ。新品の包丁にはだいたい塗ってある。特に鋼や鉄を主材料とする和包丁にはな。

 だから新品の包丁を購入したら先ずはきっちりと洗うところから始めないといけないんだ。


 そして私は次に、包丁の刃の部分に指の腹を当ててあるものを確かめる。


「……きっちり刃もついてるな。」


 これなら錆止めの油を落としたらすぐに使えるだろう。ならこいつが切れなくなってきたらノノに包丁の研ぎかたを教えるか。せっかくつけてもらった刃を丸くしてもいいが……それじゃあちょっとノノが可哀想だ。


「後は持ち手をこの子に合わせてくれないか?」


「あ、わかりましたぁ~。じゃあ手の採寸をしたいので……ちょっとこっちに来てもらっても良いですかぁ?」


 持ち手をノノの手に合うように調整してもらう。今のままでは少し大きいからな。


 そして表面を鑢のようなもので擦って太さと大きさを調節したものをノノが手に持った。


「どうだ?握りやすいか?」


「はい!!ピッタリです!!」


「じゃあ、最後に包丁の銘にって刻んであげてくれないか?」


 この包丁はノノの物である……という証を刻んであげてほしい。包丁は料理人の命と言われる大切なものだ。それを自覚するためにも自分の包丁に名を刻むことは大事なんだ。


「わかりましたぁ~。ちょっとお待ちくださいねぇ~。」


 店主の彼女が三本の包丁を持って店の奥へと消えると、カンカン……と何かを打つような音が聞こえてきた。


「さて、ノノ。あの包丁は自分だと思ってしっかりと手入れするんだぞ?包丁は料理人の命なんだからな。」


「はいです!!」


 帰ったらしっかり包丁の手入れの仕方も教えてあげないとな。ノノの頭を撫でていると、奥から彼女が戻ってきた。


「できましたぁ~。こちらです~。」


 そして再びノノの手に渡ったそれにはしっかりとノノ……と名が刻んであった。


「これでこの包丁はノノの物だ。他の誰にも使わせちゃいけないぞ?たとえ私でもな。」


「えっ!?お、お師様でもですか?」


「あぁ、自分以外には絶対に触らせちゃいけない。いいな?」


「……わ、わかりました。誰にも触らせません!!」


「それでいい。」


 よし、これでノノにも包丁を買ってあげれたし……これからもっともっと料理を教えてあげれるな。

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