第103話
それから少し時は流れ……アベルとアルマスの会食の日時がいよいよ明日に迫った。
そして今日は依頼していたノノの包丁ができる日だ。
「今日はノノの包丁を取りに行かないとな。」
「お、そういえばもうそんなに時間が経っておったか。では今日はライネルに飛ばねばならんのぉ~。」
「いつもすまないが……お願いするよ。」
「うむ、任されたのじゃ。」
ライネルに行く……ということを聞いたカミルはいつになく上機嫌だ。何故だろうと疑問になっているとその答えはすぐにわかった。
「ライネルに行くということはもちろん……今日の飯は肉料理なのじゃろ?そうじゃろっ!?」
鼻息を荒くしながらカミルは私に詰め寄ってくる。どうやらライネルに行けるということを聞いて上機嫌なのは、肉料理を作ってもらえるかららしい。
まぁ確かに……ライネルに行ったら肉を買ってくるから必然的に肉料理になっちゃうんだよな。カミルもそれをわかっているのだろう。
「あっ……あぁ、そうかもな。」
「やったのじゃ~っ!!今日は肉じゃ~!!」
大げさに喜んでみせると、カミルはバタバタと走って何処かへと行ってしまった。
その姿をポカンとした表情で私とノノは見送る。そしてお互いに目を見合わせた。
「行っちゃったな。」
「行っちゃいました。」
多分ヴェルとかマームとかに「今日は肉じゃ~っ!!」って言いふらしに行ったんだろうな。
「さて、カミルにどやされる前に私達も出発の準備を整えておくか。」
「はいです!!お師様!!」
元気よくノノが答えると、頭の上に寝癖でできたアホ毛がぴょんと跳ねる。これはこれで可愛いのだが……寝癖は直しておかないとな。
まぁ、これは朝だけ見れるノノの可愛い一面だと受け止めておこう。
そしてノノの寝癖を直し、出発の準備を整えたのでカミル達と合流しようと部屋を出ると、眠そうに瞼を擦るヴェルといつものように蜂蜜を手に持ったマームがカミルに引きずられながらこちらへと向かってきていた。
「さぁ早く行くのじゃ!!肉が妾を待っておる!!」
「ふぁぁ~……もぅ朝早くからなんなのよ~。」
「ミノル、蜜持ってきた。今日も美味しいお菓子お願い。」
「あぁ、いつもありがとう。」
マームからいつものように蜂蜜を受け取り、それをインベントリにしまう。最近だんだんとこれが溜まりつつある。というのも確かに料理やお菓子などに使うことは使うだが……一度に渡される量がかなり多いから必然的に溜まっていくんだよな。
大量消費ができればいいんだが……後でそれについても考えておこう。
「ふわぁぁ~……ん~、今日は~……あっ!!そういえばノノの包丁ができる日だったわね。」
未だに開ききらない瞼で跳ねた髪を直しながら、ヴェルは今日がノノの包丁ができる日だと気が付く。
「その通りじゃ。今日はノノの包丁を受けとるためライネルに行く。ライネルに行くということは……つまり今日は肉料理なのじゃ!!」
今にもカミルの口元からは涎がこぼれ落ちそうになっている。今日帰ってきてから作る料理が、どんなものかを想像しているのだろう。
「確かに思い返してみれば、ライネルに行ったときって決まってお肉が使われてたわね~。」
「もしかして、嫌だったか?なら、なにか別のを作るんだが……。」
あそこはなかなか良い肉が手に入るから、肉料理を……と思っていたんだが。
そう問いかけるとカミルとヴェルの二人は勢いよく首を横に振った。
「嫌なんて事はないのじゃ!!」
「寧ろ大歓迎よ。ねっ?カミル?」
「うむ!!」
「そうか?なら良いんだが……。今日はこういう気分じゃないって時は遠慮なく言ってくれて構わないんだぞ?」
気分的に食べたくないものを作ったって、美味しいと感じられるわけがない。
「今日の気分は肉なのじゃ!!否、それ以外受け付けんのじゃ!!」
「久しぶりにがっつりとしたお肉が食べたいわ。」
「そ、そうか……。マームもノノも食べたくないときとかあったら遠慮なく言ってくれよ?」
「うん、わかった。」
「わかりましたお師様!!」
なら一先ず……今日は肉料理で決定ということで良さそうだな。
「よし!!では早速ライネルに向かうのじゃ!!」
むんず……と私は服を掴まれてカミルに引きずられて中庭へと運ばれる。
「ノノは今日も私と行きましょっか?」
「お願いします!!」
私達の後ろでは、ノノのことをヴェルがお姫様抱っこのような形でひょいと持ち上げ後ろを着いてきていた。あれを見ると私はまだこうして引きずられているぐらいで済んでよかったと思う。ノノはまだ女の子だから全然問題ないと思うが……あれを私がカミルとかにやられるってなると恥ずかしさが一気に込み上げてくるだろうからな。
自分はこうして引きずられているぐらいでよかったと安堵していると……。
「む?なんじゃ?ミノルもあぁいう風に抱えてほしいのかの?」
「は!?いやっ……違っ…………。」
「それならそうと早く言うのじゃ~。……よっと。」
「なっ!!ちょっ……下ろしてくれ!!頼むからっ!!」
人生初のお姫様抱っこという恥態を皆に見られてしまった私は、しばらくの間皆と顔を会わせることができなかった。
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