第94話

 そして試食会を終えた私達のもとへ、いつものようにアベルが私の料理をたかりに来た。


「やっほ~……ってあれっ!?もしかしてもう皆ご飯食べちゃった感じ!?」


 朝、昼とご飯を食べ、ある程度お腹が膨れたカミル達を見てアベルはひどく落ち込んだ様子を見せた。


「安心してくれ、ちゃんとアベルの分もある。食べるなら作るぞ?」


「ホント!?食べる食べる!!」


 そして私はアベルにもオムライスを振る舞った。まさか5日後に作る予定の物を食べさせるわけにもいかなかったからな。アベルとアルマスには最後の最後までメニューは秘密だ。


 すると、口いっぱいにオムライスを頬張りながらアベルが私に問いかけてきた。


「そうすれば、5日後に作る料理は決まったの?」


「あぁ、何を作るのかは決まった。さっきカミル達にはその試食をしてもらってたんだ。」


「そう言うことだったんだ。え~じゃあボクもそっちのが食べたかったな~。これも凄い美味しいんだけどさ。」


 少し頬を膨らませながらアベルは言った。


「食べさせてあげたいきもちは山々だが……楽しみってのは最後の最後まで……つまり当日まで残しておいた方が、面白味があって良いんじゃないか?」


「む~……それもそうだけど~。気になるなぁ~……あっ!!そうだ、ねぇねぇノノちゃん!!さっきなに食べたの?」


 どうしても何を作ったのか気になって仕方がないアベルは、一休みしていたノノに問いかける。まさかノノもそんな質問を投げ掛けられるとは思ってなかったのだろう。尻尾をピン……と立てて驚いていた。


「あう……えと、えと……お師様にそれは秘密って……。」


「なっ!?も、もう口止めまでしてる!?じゃ、じゃあカミル……」


「秘密なのじゃ~。」


 残念ながらもうすでに皆には、アベルにさっきどんな物を食べたのか秘密にしてくれと釘を刺しておいた。


「う~……う~……わかったよ、も~っ!!」


 自棄になったアベルは皿に残っていたオムライスを全て口に掻き込み、頬をパンパンに膨らませながら完食する。その姿はまるでリスやハムスターを連想させる。


 若干ふてくされているアベルに私は、少しだけ……ヒントを与えることにした。


「じゃあ少し、どんな物を作ろうとしているのかだけ教えてあげようか?」


「教えて!!」


 私がそう声をかけると、食いぎみにアベルは答える。


「私が今回作ろうとしてるのは、使だ。」

 

「うわ~……なにそれ、ますます気になるじゃん。」


 頭を抱えながらアベルは悶々としている。まぁこのヒント自体がなぞなぞみたいな物だからな。


「はぁ……でもまぁ、それを聞いてちょっと安心したよ。」


「ん?何に安心したたんだ?」


「いや、エルフは肉とか魚食べないからさ、今聞いた限り肉とかは使わない予定っぽいから安心したんだよ。」


「そういうことか。」


 エルフが菜食主義であるということは事前に把握していたからな。元より肉や魚は使うつもりはなかった。


「料理を作ってくれと頼まれた以上、相手のことを把握するのは基本中の基本だからな。エルフがどんな物を食べているか……またどんな物を食べないかはしっかり把握してるよ。」


「さっすがぁ~……。」


 しかも、今回は成功の報酬にアベルから情報を貰える手筈となっている。私がこの世界に呼び出された理由を知るために、いつもよりも念入りに下調べをしたからな。余念は無い。


「あ、そういえばこれ……はいっ。」


 おもむろにアベルはなにもない空間に手を伸ばすと、そこから突然じゃらじゃらと大量の何かが入っている袋を取り出した。


「ん?これは……」


「ほら、昨日魔物を売って換金したでしょ?それがこれだよ。」


「あぁ!!あれか。」


 カミル達が競いあって大量に狩ってきた魔物をアベルに売ってもらったんだったな。


「えっと……シグルドが言うには白金貨10枚と……金貨が80枚……後は銀貨って言ってたよ。」


「おぉぅ、白金貨10枚……ね。」


 確か白金貨は1枚で金貨100枚分の価値があるはずだ。それが10枚もあるってことは……え~日本円に換算すると金貨1枚が一万円位だから…………い、一千万円?

 あまりに莫大な金額に驚いていると、さも当然と言った様子でカミル達は言った。


「む、白金貨10枚か。」


「ん~まぁ妥当ね。あれだけ倒したし……そのなかに珍しいのも何匹かいたしね。」


「うんうん……ってか、君達狩りすぎだからね!?何を目的に狩ったのかは知らないけどさ!!」


 妥当な金額に頷いていたカミル達にすかさずアベルが突っ込みを入れた。


「うっ……そ、それはもう十分反省してるのじゃ。」


 すると、急にしょぼんとなったカミル達の様子を見て、疑問を抱いたアベルは私に問いかけてくる。


「……ねぇミノル?カミル達になんかした?」


「ん?ちょっとお灸を据えただけだ。」


「お灸を据える?」


「あぁ、二度とこんなことが起きないように注意したって意味だ。」


「なるほど……カミル達の様子を見るに、よっぽどそれがキツかったみたいだね。」


 苦笑いしながらアベルは言った。


「キツいなんてものではなかったのじゃ~……1日飯抜きはもう嫌なのじゃ。」


「あれだけはもう嫌……ホントにね。」


「ご飯抜き……無理。耐えられない。」


 ふるふると体を震わせながら三人は言った。余程トラウマになってしまっているらしい。

 そんな三人の姿をアベルは苦笑いをしながら眺めていた。

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