第68話
カミルががっくりと項垂れているなか、私は辺りに散りばめられた大量の証明書のコピーをかき集めトントン……とまとめていた。そんな最中、魔王アヴァールはあることに気がついたようだ。
「ん~、そういえば……さっきは見かけなかった顔が二人ぐらいいるね。この二人もカミルの従者なの?」
「妾の従者はミノルだけですじゃ~……。そっちの二人は妾の城の地下に居着いたジュエルビーの女王とミノルの奴隷ですのじゃ。」
「へぇ~!!ジュエルビーの女王何て随分珍しいね。ボク初めて見たよ~。」
まさに興味津々……といった様子で魔王はマームのことを至近距離でまじまじと眺め始める。
「……カミル。この人誰?」
今までの話が頭に入って来なかったのか、マームはカミルに問いかけた。
「その御方こそ魔王様じゃ。」
「魔王……初めて見た。私マームよろしく……ね?」
「こちらこそよろしく~ボクは魔王……名前はアヴァールっていうんだ。」
マームと魔王は握手を交わしながら自己紹介をお互いにしていた。マームが敬語を使わなくても怒っている様子はない。むしろ気にしていないようだ。
そしてマームと軽い自己紹介を終えると魔王は私の方へと近付いてきた。
「それで~?今ミノルの後ろに隠れてるその獣人の女の子が……ミノルの奴隷なんだね?首枷は無いみたいだけど……。」
「首枷は外させたんです。この子は奴隷として扱う訳じゃないので。」
「へぇ?奴隷として扱わないんだったら……何に使うのその子?」
「後々私の料理のお手伝いをしてもらおうと思ってます。……まぁ私の弟子みたいなものですよ。」
魔王にそう説明すると納得したようで大きく彼女は頷いた。
「なるほど……ね。っとさて!!今から君達はまたご飯を食べるんでしょ?もちろんボクも同席するからね~。なんてったって~ミノルはボクの
「もちろん作りますよ。……ですが、私がここで料理を作り魔王様が食すにあたって一つだけ……お願いがあります。」
「ん~?なにかな?」
「この場では無礼講……を看過していただきたい。誰だって食事は平等に楽しむべき時間です。地位とか名誉とかそう言うものは一切無しにして、食事を楽しんでいただきたいんです。」
別にずっと敬語を使っても良いが……疲れるし、カミル達だって魔王がとなりにいる。ということで緊張は途切れないだろう。だからこのお願いだけは聞き届けてもらいたい。
「ふぅん……なるほど。……別に良いよ?」
意外にも即答した魔王に呆気にとられていると、彼女は続けて言った。
「いや~……ボクもね魔王っていう位になってからというものの、皆が皆敬語を使ってくるから、そろそろうざったくなってきてたんだよね~。なんならこれからずっと無礼講でも良いんだよ?ボクはその方が好きだしね~。」
「じゃあ許可もとったから……私はそうさせてもらう。」
いつも通りの話し方に戻す。
「そっちがミノルの素かぁ~。なんかあんまり変わんないね?」
「何を期待してたんだ?」
「え~?なんかこう……もっと怖~い感じの話し方なのかな~って思ってた。」
そんな風に魔王と会話をしていると、おずおずとした様子でカミルとヴェルの二人が問いかけてきた。
「あ、あの~私達もじゃあ無礼講ってことでいいのかしら~?」
「良いよ?ボクが許可する。」
「うむむ……しかしいざ無礼講となると、どう話して良いのかわからんな。」
「なに、いつも通りで良いんだ。いつも私やヴェルに接するように魔王にも接すれば良い。」
思い悩んでいたカミルに私がそう助言すると、魔王が口を開いた。
「ねぇ、無礼講ならさ~その
「じゃあ何て呼べば良いんだ?」
「アベルで良いよ。古い友達にはそう呼ばれてるから。」
アヴァールを略してアベル……か。まぁ彼女がそう呼ばれることを望んでいるなら、そう呼ぼうか。
「それじゃあこれからここではアベルって呼ばせてもらうよ。」
「うんうん!!それでいいよ。」
アベル……と呼ばれた彼女は何故かとても嬉しそうだ。古い友達のことでも思い出したのだろうか?
「さて、じゃあ私は早速料理を作るから……危ないからアベルはカミル達と一緒に座って待っててくれ。」
「はいは~い。」
アベルがカミル達の方に向かって行ったのを見送って、いざ料理を始めようとした時……ノノが私の足に引っ付いてきた。
「あう~……。」
「ん?ノノも危ないからカミル達と一緒に……。」
私が言い終える前にノノはブンブンと首を横に振った。
「手伝いたいのか?」
「あう!!」
今度は何度もノノは首を縦に振る。どうやら私の手伝いをしたがっているらしい。本当ならノノの気持ちを汲み取って何か簡単なことを手伝わせても良いんだが、今日はダメだ。
「ノノ手伝いは明日からにしよう。今日はいっぱいご飯を食べてゆっくり寝て……体調を万全にするんだ。私が言っていることがわかるな?」
「あう……。」
しょんぼりとした様子でノノはうつむいた。そんなノノの頭を手を乗せながらなだめるように私は言った。
「何もノノが必要ないってわけじゃない。料理っていうのは危険でな。私でも体調が万全でないときは、思わぬミスをして怪我をしたりする。怪我するのは嫌だろ?」
「あうっ。」
私の言葉にコクリとノノは頷いた。
「だから、今日は私が何をしているのか……あそこから見ているだけで良い。例えば……どんな風に野菜を洗っているのか、肉にはどんな味付けをしているのかとかな。見るっていうのも勉強の一つだぞ?」
「あう!!」
最後のあう!!からは、わかった……という強い意思が伝わってきた。そしてそう返事をしたノノは椅子に座りこちらをじっと見つめてきている。
……それで良い。今日はしっかりと私の作業をその目に焼き付けておくんだ。
ノノの姿勢を見て満足した私はいよいよ料理に取りかかるのだった。
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