第67話

 ノノを連れて城の中を歩いていると、ノノは城の中をきょろきょろと忙しなく見渡していた。


「広くて落ち着かないか?」


「あぅ。」


 私の問いかけにノノはコクリと頷いた。


「まぁ、私も最初はそんなだったが……何日か過ごしてれば慣れてくる。」


 最初カミルに連れて来られた時は本当に驚いた。こんな城を見るのも初めてだったし、何よりその中で過ごすことなんて一生無いと思っていたからな。

 そんなことを思い出しながら歩いていると、ふと私はあることに気が付いた。


「そういえばノノの着替えを持っていかないといけないな。子供用の服なんてあるかな……。」


 今のノノが来ている服はとてもじゃないが服と呼べる代物じゃあない。ただのぼろ布だ。こんなのをずっと身に纏っていたら風邪をひいてしまいかねない。それに変な病気になってしまうかもしれないからな。


 そのことに気が付いた私はいろんな洋服がしまってある部屋に足を運び、ノノの体に合うサイズの服を探し始めた。l


「ふむ……一応虫に食われてない綺麗な子供用の服はこのぐらいか。」


 しまってあった何着かは虫に食われて穴が開いてしまっているものもあったが……とりあえず洗濯すれば着回しできるだろう。


「さて、ノノ今日はどれを着る?好きなのを選ぶといい。」


「あう……。」


 ノノの前に何着かの服を並べてあげると、ノノは目を輝かせながらどれを着るか悩み始めた。そして幾分かじっくりと悩んだ後、ノノは真っ白なフリフリがついたワンピースを選んだ。


「あうっ!!」


「これでいいのか?」


 真っ白なワンピースを手に取りノノはコクコクと頷いた。


「わかった。後は何着か下着をもって……。」


 ノノ用の服と下着をインベントリにしまい、改めて私とノノは浴室へと向かう。そして浴室でしっかりとノノの体についた汚れを洗い落としてあげた。幸い、奴隷だからと言って苛烈な拷問などを受けていたようではなく、体が汚れていただけで体を洗ってあげると真っ白な肌をしていた。


「後で石鹸みたいなのも作っておいた方がいいかもな。」


 石鹸があれば体についている細かい汚れも綺麗に落とすことができる。確か……簡単に作ることができたはず。今日カミル達に料理を作ったら作り始めてみようか。


 そして体を洗ってさっぱりしたノノに、さっきのワンピースを着てもらってカミル達が待っているであろう厨房へと向かっている途中……私は想定していなかった事態に遭遇することになった。


「やぁ!!ミノル、さっきは美味しい料理をありがとねっ?」


「~~~っ!?」


 ちょうど中庭から城の中へと続く入り口がある通路で、あろうことか魔王が私のことを待ち構えていた。


「なっ、なん……でっここに……。」


「あはっ、君も酷いよね~……あんなに美味しい料理を味わっちゃったら、もう他のなんて食べれなくなるよ?君にはその責任をとってもらわないと~……ねぇ?」


 にんまりと笑みを浮かべながら魔王は私の方に歩み寄ってくる。


「で、ですから私にはカミル……様という主人が……。」


「あぁ!!それだったら大丈夫。あのボクが記名した証明書……あれによ~く目を通してみればわかるよ?」


 クスクスと笑いながら魔王は言った。その言葉でカミルはとんでもないものを見逃している可能性を見出だした私は、カミル達が待っている厨房へとノノを抱えて走り出す。


 そしてカミル達が待つ厨房へとたどり着いた私はカミルに声をかけた。


「カミルッ!!さっきの証明書見せてくれ!!」


「な、なんじゃ?急にどうしたのじゃ?」


「詳しい話は後だ、早く見せてくれ!!」


「わ、わかった……わかったのじゃ。そんなに急かすでない……ほれっ。」


 カミルから私がカミルのものであるという証明書を受け取り、しっかりと一行一行目を通してみると、目を凝らさないと見えないぐらい、本当に小さい文字でこう……書いてあった。


『本証明書はミノルがカミルの従者であることを証明するものであるとともに、ミノルが魔王アヴァールの新たな専属料理人であることを証明するものである。』


 そしてその証明書にはしっかりと……カミルと魔王ことアヴァールの名前が記載してある。つまりカミルはこれに気が付かずに記名したということだ。

 完全に嵌められた。やはり私の予感は当たっていた。魔王がこんなものに簡単に名前を書くはずが無かったのだ。最初からこのつもりだったんだ。


「~~~ッ!!」


「なんじゃミノル?そんなに紙を握りしめて……いったいどうしたのじゃ?」


 思わずその証明書をぎゅっと強く握り、ふるふると体を震わせていた私の様子を見てカミルが問いかけてくる。


「嵌められてた。」


「む?」


 私の言葉にカミルが首をかしげていると……ことの張本人である彼女が私の後を追って現れる。


「あはっ!!お邪魔するよ~カミル?」


「っな!?ま、魔王様ッ!?な、何でここに……」


「そ・れ・は~……。」


 魔王は私のことを指差す。


「ミノルが持ってるあの証明書をじ~~~っくりと読んでみればわかるんじゃないかな?」


 魔王の言葉の通りにカミルは私から件の証明書を奪い取り、今度はじっくりと……文字を一つ残さず読み始めた。そしてあの文章を見付けたとき、カミルの表情が驚愕に染まる。


「なっ……なっ!!本証明書はミノルがカミルの従者であることを証明するものであるとともに、ミノルが魔王アヴァールの新たな専属料理人であることを証明するものである……じゃと!?」


「そういうことだよん。こういうのはよ~く目を通してから記名しないと……ねぇ?カミル~?」


 くつくつと悪い笑みを浮かべる魔王。正直今までの流れの中で一番魔王らしい悪どい笑みを浮かべている気がする。


「わ、妾は何てものに名を書いてしまったのじゃ~ッ!!~~~ッぐぐぐ、かくなる上はこうじゃあぁぁ!!」


「あっ!!」


 ビリビリッ!!とカミルは件の証明書をズタズタに引き裂いた。


「ふ~っふ~っ!!こ、これで無効のはず……」


「あ~残念。ちゃんと予備もあるよ?」


 ごそごそと魔王は綺麗に折り畳まれたさっきとまったく同じ証明書をポケットから取り出し、カミルの前で広げて見せた。


「ボクの城にも後100枚ぐらい同じのがあるから好きなだけ破いて良いよ~ほら~ほら~ッ!!あはははっ!!」


 魔王はそのポケットから次から次へと同じ証明書を取り出し、辺りにばらまく。

 その光景を見たカミルはがっくりと項垂れるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る