第65話

 奴隷の彼らと目を合わせないようにカミル達と道の真ん中を歩いている最中……ふと疑問に思ったことがある。


 彼らはなぜ?……なぜ奴隷なんかに堕ちてしまったんだ?っていうか、奴隷っていう存在はこの世界では当たり前のことなのか?

 魔族が異種族である獣人のことを奴隷にしていることを見る限り、恐らく獣人の国では奴隷制度はあるみたいだ。


 そんな疑問を抱いていたとき、ちらっと視界に幼い獣人の奴隷が目に入った。その獣人の子供は10歳にもなっていないぐらい幼い。


「あんな年端のいかない子供まで奴隷なのか……」


「奴隷に年齢は関係ない。この世には産まれ落ちたその瞬間から奴隷の烙印を押される者もおるのじゃ。」


 ポツリと思わず口にしてしまった私に、カミルが補足するように言った。


「理不尽なことだな。………おっ……と!!」


 理不尽だ……とため息混じりに言ったその時、一人の奴隷だった獣人の女の子が私の方に走ってきて、足にしがみついて来た。


「っな!!お前何してるッ!!その方々は……。」


 奴隷達を売っている魔族の男が怒鳴り散らしながら、その女の子を連れ戻そうとこちらへと向かってくる。

 私は彼の方に問題ない……と手で合図を送り、少女と向き合った。


「私に何か用かい?」


「あ、あぅ……あっ!!」


 あぅあぅ……と一瞬困った表情を浮かべた少女は、私に向けて自分が持っていた「買ってください。」という看板を私に掲げてきた。


「なるほど……。」


 ……今なら道端に捨てられている犬や猫を捨てておけない人の気持ちがよくわかるかもしれない。


「……なぁカミ……」


「ダメじゃ!!」


「まだ何も言ってないだろ?」


「言わなくても分かるのじゃ!!お主そやつを買うつもりじゃろ!?妾は奴隷なんぞ要らん!!」


 断固としてカミルは奴隷を買うのは反対らしい。ならこっちにも考えがある。


「そうか……この子には私の料理の手伝いをしてもらおうかと思っていたんだ。二人で料理を作れば今まで時間がかかるから……って作れなかった物も作れるようになるんだがな~?」


 今まで作れなかった料理……という言葉にピクンとカミルは反応してしまう。


「残念だ……お菓子だって、二人でやらないと作れないものもある。」


 私の二人を誘惑する言葉に……ついにヴェルは堕ちた。


「ねぇ、カミル。私は賛成よ?」


「はっ!?ヴェルお、お主ミノルの言葉に誑かされたのか!?」


「誑かされた訳じゃないわ。私はただ、奴隷一人を買えば更に美味しい料理を作れるってなら……買うべきだって思っただけよ。それにほら、案外可愛いじゃない?」


「ぐぬぬぬ……ぐぬぬぬぬぬぬ~……」


 さぁ、ヴェルは堕ちたぞカミル。……どうする?


 それからさんざん悩んだ末……カミルも遂に堕ちた。


「わかった……わかったのじゃ。」


「お?ホントか?」


「ただし!!その奴隷の契約者はミノル……お主じゃ!!妾は従者はお主だけで良い!!」


「わかった。じゃあそうしよう。っと……そういうわけだから。この子は私が買う。いくらだ?」


 カミルの条件に頷き、私は奴隷を売っている魔族に向き直った。


「そいつは言葉を話せないんで……特価の金貨10枚で売りますよ旦那?」


 ……金貨10枚だと?それが人の命に付ける値段か……。いくら言葉が話せないとはいえども、生きている人に変わりはない。


「……わかった。金貨10枚だな?」


 かなり怒りを覚えながらも私はその男に金貨10枚を手渡した。すると、とても怯えた様子で彼はそれを受け取った。


「後……その無粋な首輪を外してくれ。」


「えっ!?で、ですがこれを外したら……」


「いいからさっさと外せ。」


「ひっ!?は、はひっ!!」


 そして私はその子の首についていた首輪を男に外させた。


「こ、これでよろしいですか?」


「あぁ、それで良い。」


「あぅ……。」


 首輪を外して貰った少女は、自分の首から異物が無くなったことを改めて自分の手で触れて確かめると、ポロポロと涙を流しながら私にぎゅっと抱きついてきた。

 私は少女の頭をポンポン……となだめるように撫でながら、男に問いかける。


「この子の名は?」


「ノノ……と聞いてます。」


「ノノ……ノノか。可愛い名前じゃないか。」


 私は一度しゃがみ、ノノと同じ視線まで腰を下ろす。そしてノノに優しく言った。


「ノノ。少し歩きながら話をしようか?私の言葉は聞き取れるかな?」


「あぅ……。」


 ノノは目元を真っ赤にしながらもコクリと頷いた。どうやら私の言葉は理解できているらしい。


「よし、良い子だ。じゃあ今はここから離れよう。はぐれないように私の手を握っててくれ。」


 ノノに向かって手を差し出すと、彼女は私の手を握るのではなく、私の手をぎゅっと抱き締めてきた。少し歩きにくいが……まぁ良いだろう。

 そして私はカミルとヴェルの方に向き直る。


「すまない、待たせてしまった。」


「別に良い。それよりも……じゃ、妾は腹が減ったのじゃ!!」


「私もお腹ペコペコ~。買い物もあらかた終わったし、早く帰りましょ?」


 やはりローストビーフを少し我慢した……と言っていただけあって、お腹が空いてきたらしい。しかし、お腹が空いてきたのは二人だけではなかった。

 

 くぅ~~~……。


「あ、あぅ……うぅ~。」


「ん?ノノもお腹すいてるのか?」


 顔を少し恥ずかしさで赤く染め、音が鳴ったお腹を押さえながらコクコクと小さくノノはうなずく。


「わかった。それじゃあ買うものは買ったし……帰ってご飯にするか。」


「良し!!それじゃあ早く帰るのじゃ~!!飯が妾を呼んでおる!!」


 そして私達は新たにノノ……という獣人の少女と共にいつもの城へと帰還するのだった。

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