第62話
私が出来上がったローストビーフを魔王たち審査員の下へと運ぶと、彼女たちはとても興味深そうにそれを眺めていた。今の今まで無表情を貫いていたシグルドでさえも私の料理を見て驚きを隠せないようだった。
「すごい……綺麗。」
ポツリと魔王が私の料理を見て言葉をこぼした。それに続いてシグルドもまじまじと私の料理を見て言った。
「見た目は非常に華やかで美しいですな。」
「ゴクッ……ね、ねぇ味はどうかな?ほ、ほら見た目は綺麗でも味がどうなのかわかんないし……。早く食べてみようよ。」
「そうですな。さっそく試食させてもらいましょう。……とは言ったものの、これはいったいどれから食べればよろしいですかなミノル様。」
「まず最初はその薄く切ったお肉と、上にかけたソースを絡めて召し上がってみてください。周りに盛り合わせてある野菜は口直しで食べてもいいですし、後程お肉で巻いて一緒に召し上がっても美味しいですよ。」
私は料理の食べ方を問いかけてきたシグルドに私は丁寧に説明する。
「なるほど、丁寧に説明してくださりありがとうございます。それでは魔王様いただきましょう。」
「うん、そうだね!!えっと……この赤いトロッとしたのを絡めて食べればいいんだよね。」
魔王は私が説明した通りに、まず赤ワインソースを薄切りにしたローストビーフに絡める。そしてゆっくりと口へと運んだ。ローストビーフを口にした魔王は大きく目を見開きながら、味わうように何度も噛み締めた。じっくりと味わった後、飲み込んだ魔王は、ほぅ……と幸せそうに溜息を吐いた。
「おい……しい。美味しい、美味しいよこれっ!!」
魔王は美味しいと声に出して言うと、夢中になって料理を食べ始めた。
「ほっほ……こんなに夢中になって料理を召し上がる魔王様は初めて見ましたぞ。」
夢中になって料理を食べ始めた魔王の姿を見て、シグルドは感極まったようにポロリと涙を流している。
「魔王様がミノルの料理に夢中になっておる……妾も食べるのじゃ~!!」
「私も私もっ!!」
魔王に続くようにカミルとヴェルの二人も料理に飛びついた。そんなみんなの姿を見てダスティは唖然としていた。
「美味しいのじゃ~。」
「うんうん!!これよこれ!!」
カミルとヴェルも美味しくローストビーフを味わっている。さっき美味しくはないものを食べたから余計に美味しく感じるんだろう。
みんなの様子に満足し、大きく頷いているといつの間にか私の目の前に魔王の顔があった。その手には空になった皿がある。
「あ、あのさちょっと物足りなかったんだけど……そのお代わりとかって無いかな?」
もじもじとしながら魔王は私に空になったお皿を差し出してきた。
「もちろんありますよ。今新しく切り分けますね。」
魔王から皿を受け取り、私は新しくローストビーフを切り分ける。今度はさっきより枚数を増やして盛り付けた。
「えへへ……ありがと。」
お代わりのローストビーフを受け取った魔王は、嬉しそうに鼻歌を歌いながら席へと戻っていった。
その姿を見送っていると、魔王に続きカミルとヴェルの二人までもが私のもとへと空になった皿を持って駆けつけてきた。
「ミノルおかわりじゃ!!」
「私も大盛りでお願いね~。」
二人にもお代わりを盛り付けていると、置いてけぼりになっていたダスティが吠えた。
「ま、魔王様ッ!!俺のは……」
「あ、ダスティのはいらな~い。ボクはこっちだけあればいいから。」
魔王に拒否されたダスティは私のことをギロリと睨み付けてくる。
「……ッ!!テメェ、どんな卑怯な手使いやがった!!あの調味料か?アァ!?」
怒り狂ったダスティは怒声を上げながら私に掴みかかってくる。カミル達に比べたら全然力は弱い。この程度なら容易く振り払えるな。
そして私の胸ぐらを掴む彼の手を振り払おうとした時だった……。
「魔王様の至福の御時間の邪魔をするのは頂けませんな。」
私の代わりに、シグルドがダスティの腕を掴み取りギリギリと締め上げる。
「離しやがれシグルドォッ!!」
ダスティの怒りの矛先が私からシグルドへと向けられる。しかしシグルドは冷静に対応する。
「ダスティ、今自分が何をしているのか……わかっているのですかな?」
「アァッ!?」
「あなたは今カミル様とヴェル様の従者の方に手を上げたのですよ?」
「五龍の従者が何だってんだ?俺は魔王様のッ……」
ダスティがシグルドに反論しようとしたその時……。
「シグルド、退いて。」
体の芯まで凍るような寒気とともに、この部屋に魔王の声が響いた。
突然のことに何が起こったのかわからないでいると、さっきまでシグルドがいた所にいつの間にか魔王が立っているのが目に入った。
「今ここで料理勝負の勝敗を発表するよダスティ。
そうハッキリと言った魔王はパチンと指を鳴らした。すると、突然ダスティが立っていた床に大きな穴が開き、そこにダスティは落ちていってしまう。
再び魔王が指を鳴らすとその穴は消えてなくなった。そしてダスティを消し去った魔王は私のもとへと歩み寄ってきた。
「彼は……どうなったんですか?」
彼がどうなったのか問いかけると……。
「あぁ、ダスティのこと?転移魔法で彼の故郷に送り返しただけだよ。ボクの城に彼はもう要らなくなったしね~。」
にんまりと笑った魔王は私の顔を覗き込みながら、ある提案をしてきた。
「ねぇボク……君の料理気に入っちゃったんだけど~。ダスティの代わりにここでボクに料理を作ってくれないかな?」
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