第59話
深い霧を抜けた先に見えてきたその禍々しさを放つ城は、カミルが住処にしている城とは比べ物にならないほど大きく、まさに巨城だ。
「あれが……魔王がいる城。」
「そうじゃ。わかっておるとは思うが……くれぐれも魔王様の前では無礼な言葉を使うでないぞ?」
「わかってるさ。」
流石にそういうのは弁えてる。敬語とかは日常的に使っていたから魔王を前にしても問題はないはずだ。
そしてカミルとヴェルは魔王の城の大きな門の前に降り立つと、真っ黒な鎧な鎧を全身に身に纏った騎士風の魔族が私達のもとへと近づいてきた。
「お早い到着でございますねカミル様、ヴェル様それと従者の方。シグルド様よりお話は伺っております。こちらへ……。」
その騎士は私達を案内するように先頭に立って歩きだす。その騎士が入るものを拒むように閉じていた鋼鉄の扉に手を翳すと、中央に描かれていた模様が怪しく光り、自動的にその扉が開いていく。
導かれるがまま私達は魔王の城の中へと歩みを進める。城の中はさながら迷路のように廊下がたくさんある。騎士はその中の一つの廊下を突き進み、その最奥にあった扉の前でこちらを振り返った。
「魔王様は中にてお待ちになっております。それでは私はこれにて……。」
ペコリとこちらに一礼すると、その騎士は私達がここまで来た廊下を再び戻っていった。
「さ、準備は良いか?」
「私はいつでも?」
「同じく大丈夫だ。」
そう答えるとカミルは大きく頷き、その扉に手をかけた。すると、大きな木製の扉が軋むような音を立てて開いていく。
「五龍が一角カミル。魔王様の御呼び出しに答え馳せ参じましたのじゃ。」
「同じく五龍が一角ヴェル。魔王様の御呼び出しに答え馳せ参じました。」
扉を開けると二人はすぐに自分の名前を名乗りその場に跪く、私もそれに続いて跪いた。
跪いてから数分……経っただろうか?何も声がかかる気配がない。辺りを静寂が包んでいたその時、奥の方から声が聞こえた。
「わっ……わっ……ね、ねぇシグルド。ボクの身だしなみおかしくない?大丈夫かなぁ?」
「問題ありません魔王様。いつにも増して威厳溢れるお姿にございます。ささ、カミル様とヴェル様がお待ちになっております故……。」
「あっ!!う、うん!!そうだね。」
そんな声がしたと思ったらカツカツとこちらに誰かが近づいてくる足音が聞こえ、私達の前でそれは止まった。
「こほん……皆
その言葉に従い、顔を上げて前を見るとそこには魔王らしい赤黒いマントを身にまとった褐色の少女がいた。
「久しぶりだね。カミルにヴェル?そっちの人は初めまして……だよね。まぁとりあえずみんなそこに座って?ご飯でも食べながら今回のことについて話をしよっか。」
そう促された私たちは各々縦長のテーブルの周りに並べられた椅子に腰かけた。すると、私たちが座るまで待機していたのか様々な見たことがない料理が運ばれてきた。
そしてすべての料理が運ばれてきたのを確認した魔王はパンパンと手を叩きながら言った。
「はいありがと~。それじゃ僕たち以外は席を外して?シグルド、今からこの部屋に誰も近づけさせちゃダメだよ?」
「かしこまりました。それではそのようにいたします。」
魔王に向かってペコリとお辞儀するとシグルドを含め、料理を運んできた人たちもみんなこの部屋からいなくなる。そして静けさがこの部屋を包むと魔王は大きく息を吐き出しながら話し始めた。
「はぁ~……。っと、さてそれじゃあ早速本題に入ろっか。今日呼び出したのは、カミル達宛にエルフ国から感謝状が届いたからなんだけど……。実はね、この感謝状ちょ~っとおかしなところがあってね、カミルとヴェルの名前の他に
人差し指と中指で一枚の手紙を挟みながら、魔王は首をかしげる。だが、その視線は真っ直ぐにカミルの瞳の奥へと向けられている。
「エルフの王が間違えたのでは?」
はぐらかすようにカミルは言った。
「うんうん、ボクもね~最初は間違ったのかな~って思ったよ。」
手紙をテーブルの上に置いた魔王はゆっくりと立ち上がり、私の方へと歩み寄ってきた。
「でも、二人のことをちょっと調べたら……
そう言いながら魔王はその細い指を私の胸に当てて、私の目の奥を覗き込んで来る。
「突然君達のもとに現れた謎の従者……
「その者は……っ。」
「カミルには聞いてないよ?ボクは君に質問をしているんだ。……答えてくれるよね?」
カミルの言葉を差し止め、魔王は私に続けて言う。
「私はミノルと申します。カミル様には命を救っていただいた恩義がありまして……こうして日常生活のお世話をさせていただいてます。」
「そっかそっか、君の名前はミノルって言うんだね。日常生活のお世話って具体的には?」
まるで私のことを探るように魔王は次々に質問を投げ掛けてくる。
さてさて、どこまで真実で貫き通せることやら……。
「具体的には……カミル様とヴェル様に料理を提供させていただいてます。」
「へぇ!!じゃあ……料理の腕には少し自信があるんだ?」
「ある程度は……。」
「それじゃあさ……これっ!!」
私の元に並べられていたフォークを魔王は手に取り、ステーキのようなものを刺して私に差し出してきた。
「ミノル、君はこれを食べてどう思う?」
「……食べればよろしいのですか?」
「うん!!」
魔王の手から私はフォークを受け取り、ステーキのような焼いた肉の塊を口にした。
「……ッ!!」
「どう?美味しいかな?」
にこにこと笑みを浮かべながら問いかけてくる魔王の傍らで、私は悶絶しかけていた。
その理由は至極単純……この肉が不味すぎるのだ。塩気がとんでもなく濃い上に、何種類もの香辛料がかけられているようで匂いも変だし後味も悪い。料理としては0点……いや、マイナスの点数をつけたくなるぐらいに不味い!!
「んっぐん!!……無礼を承知で申し上げさせていただきます。」
「うん!!許すよ。」
「
そうはっきりと言ってのけると、魔王はにんまりと口角を吊り上げて笑う。
「それじゃあ君なら……これより美味しい料理を作れるってことかな?
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