第53話

 それからひと休憩挟んだ後、私達はエルフの森へと向けて飛び立った。

 もちろん私の運搬役はカミルだ。……といってもこの状況は、城から出るときに異世界式のじゃんけんでカミルとヴェル、そしてマームの三人が対決しカミルが勝ったお陰なのだ。二人には悪いが、心底カミルが勝って良かったと思ってる。


「後どれぐらいで着きそうなんだ?」


「後一つ山を越えれば見えるぞ~。」


 それなりに遠いんだな。そんなところから良くシルフも海街のボルドまで辿り着けたものだ。


「私がミノルを抱えて飛んだらもう着いてる頃だったのにな~。」


 カミルの隣を飛ぶヴェルが、残念そうに呟いた。


「お主が本気で飛んだら妾達が追い付けぬじゃろうが!!それにじゃ、もし勢い余ってエルフの国境を越えたらどう始末をつけるつもりじゃ?ん?」


「そんなに心配しなくても大丈夫よ~……多分。」


 カミルにはジロリと視線を向けられたヴェルは苦笑いを浮かべながら言った。


「ま、まぁまぁ~それはそうともう少しで見えてくるわよ。」


 そしてカミルの言っていた山を飛び越えると、その先には広大な森が広がっていた。


「あの森がエルフの森……で合ってるんだよな?」


「うむ、間違いない。それと向こうに一際大きな木が見えるじゃろ?」


 視線を少し奥の方へと向けてみると、エルフの森の中心部分に異様に大きい木があるのがわかった。


「あれは?」


「あれはエルフの信仰対象の世界樹じゃな。なんでも世界樹に咲く花はどんな病も治す薬になるらしいぞ?」


「それは凄いな。」


 どんな病でも治す事ができる薬……か。そんなものがあれば人生苦労しないんだろうな。


「そしてあの世界樹の根元にエルフの国があるのじゃ。」


「なるほどな……。」


 恐らく世界樹を守るために、根元に国を作ったんだろうな。それ以外にそんなところに国を作る理由が無い。

 そして私が一人うんうん、と頷いていると私のもとにマームが飛んできた。


「ミノル、世界樹の花欲しい?」


「ん?いや、別に病気を患ってるわけでもないから必要ないが……急にどうしたんだ?」


「多分配下のあの子達に取りに行かせれば持って帰ってこれる。」


 そうマームが口にすると、私の頭の上にいるシルフが声を上げた。


「だ、ダメなんだゾ!?世界樹の花は精霊王様じゃないと採っちゃいけないんだナ!!」


「精霊王?」


「エルフの国王のことじゃ。精霊種を実質的に束ねておる存在じゃからそう呼ばれておる。」


 精霊王という言葉に首をかしげていたところ、カミルが分かりやすく説明してくれた。毎度毎度この補足説明には本当に助かっている。


「さて、ではあの森の前に流れる川の前に降りるとしようかの。」


 そしてカミルは徐々に高度を下げ、エルフの森の前に流れる川の近くに降り立った。


「ここまで来れば後は帰れるじゃろ?」


「あぁっ!!もう大丈夫だゾ!!」


 シルフは私の頭の上から飛び立つと川の向こう岸へと飛んでいった。そしてこちらを振り返って手を振った。


「ありがとナ~!!」


「今度は迷子になるでないぞ~。」


 私達に礼を述べるとシルフは森の中へと消えていった。


「さて、これにて一件落着ってところだな。」


「うむ、妾達も帰るのじゃ~。」


「陽が落ちる前には帰りたいわね。」


 シルフを見送った私達は、来た道を引き返しカミルの住み処の城へと戻っていくのだった。













 そして一方無事に森へと戻れたシルフを待っていたのは……。


「ちょっとシルフ!!あんたようやく戻ってきたの!?」


「ゲッ!?い、イフリー?なんでここにいるんダ?」


「あんたがこっちに近付いてくる気配があったから迎えに来たんでしょ~がッ!!」


 シルフにイフリーと呼ばれた体にメラメラと炎を纏っている小さな精霊は、怒りながら拳骨をシルフの頭に浴びせる。

 彼女こそシルフと同じ四大精霊のイフリート。彼女は炎を扱うのが得意な精霊だ。


「あいだッ!!うぅ、何も殴らなくてもいいんじゃないカ?」


「うるさい!!あたし達がどれだけあんたの心配をしたと思ってんの!?精霊王様だってすっっっっ……ごく心配してたんだからねッ!!」


「う……それはヤバそうなんだナ。」


 イフリートに拳骨を喰らった頭を押さえながら冷や汗を流すシルフと、ガミガミと母親のようにシルフを叱るイフリートのもとへ一人の耳の長い男性がやって来た。


「おや?シルフ、やっぱり戻ってきていたんだね?」


「あっ!!精霊王様っ!!どうしてここに?」


「やぁイフリート。僕も君と同じ、シルフの気配を感じたから迎えに来たんだよ。」


 シルフとイフリートの前に現れた彼は、現エルフ国王アルマスだ。


「さて、シルフ。君を連れてきてくれた方々がいたみたいだけど……もう行っちゃったかな?」


「あ、う、うん……多分行っちゃったんだナ。精霊王様はオイラのこと怒らないのカ?」


「怒るなんてとんでもないさ。それよりも、戻ってきてくれて安心したよ。」


 アルマスはシルフの頭を優しく撫でる。


「さて、そろそろ行こうか。道すがら君を連れてきてくれた方々のことを教えてくれないか?」


「うん!!オイラあの風迅龍と獄炎龍にここまで連れてきてもらったんだ!!」


「ほぅ……。それは珍しい体験をしたね。怖くなかったかい?」


「全然怖くなんてなかったゾ。……ちょっと風迅龍は怒りっぽかったけどナ。あ!!後、人間も居たゾ!!お腹空いてたオイラにご飯を食べさせてくれたんだ~。」


 人間……という言葉にアルマスの長い耳がピクンと反応する。


「人間?その人間は風迅龍と獄炎龍と一緒にいたのかい?」


「うん!!」


「確か魔王から来た伝書に人間がどうこう……って書いてあったような気がする。後で読み返してみようか。シルフ、もっとその話を僕に聞かせてくれないかい?」


「わかったゾ!!えっと、えっと……それで…………。」


 アルマスはシルフから話を聞いて、より一層その人間に興味を持ったのだった。

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