第51話
今回デザートとして作るのは、バターケーキだ。作り方はクッキーとほぼ変わらない。だが、作る過程で失敗すると膨らまずぺったんこになってしまう繊細なお菓子だ。
「まずは常温に戻したバターと蜂蜜を空気を含ませるようにしっかりと混ぜる。」
この時バターが白っぽくなってクリーム状になるまでしっかりと混ぜる。しっかりと空気を含んで白っぽくクリーム状になったら。一度それは置いておいて次の作業に移ろう。
「次は卵の卵白と卵黄を分けて、卵白の方を泡立ててメレンゲ状にする。」
今回は卵白を泡立ててメレンゲ状にして少しでも膨らむように工夫する。本当はベーキングパウダーか重曹なんかがあれば簡単に膨らむんだが、ここにはないからな。だからこんな感じの工夫を凝らさないといけない。
そしてメレンゲを立て終わったら、泡をつぶさないようにバタークリームと混ぜてそこに振るった小麦粉と卵黄を入れて練らないように、さっくりと切るように混ぜる。かといって全体がしっかりと混ざるように混ぜないといけない。これがまた難しいんだ……説明するのは簡単なんだがな。
「あとは型に流し込んで170℃に余熱したオーブンで焼いていく。」
40分ほど焼けばいい感じに仕上がるだろう。あとはしっかり膨らんでくれることを祈るばかりだな。そしてオーブンに入れた後、私は余った時間と食材を使ってあるものを作ることにした。
「暇な時間を使ってカッテージチーズを作っておこう。ちょうどライムルの実も余ってるし、牛乳も中途半端に残ってる。」
カッテージチーズとは家庭でよく食べられているチーズの素となるチーズだ。作り方は至極簡単で、温めた牛乳に酸性の液体を加えるだけだ。つまり温めた牛乳に、このライムルの実の果汁を絞り入れれば作れるというわけだ。
ちなみにチーズと言えばトロットロに溶けて伸びるようなイメージが強いかもしれないが、あれはチーズに含まれる脂肪分が熱で溶けてあんな状態になるんだ。一方カッテージチーズは脂肪分をほとんど含まずに生成されるから熱を加えても溶けない。まぁ、溶けないチーズでも使い道はかなりある。作っておいて損はない。
「まずは牛乳を弱火でじっくりと温めて……沸騰直前でライムルの搾り汁を加える。」
あとは底が焦げ付かないように混ぜながら撹拌していくと、もろもろとそぼろのようなものができ始める。それができたら火を止めて、布をかませたザルで水を切る。すると布の上に白いそぼろ状の物だけが残る。これがカッテージチーズだ。
「よしよし、あとはしっかりと絞って裏漉そう。」
これは明日のデザートに使おうかな。インベントリにしまっておこう。
出来上がったカッテージチーズをインベントリにしまう。
「ケーキの方は……まだもう少しかかりそうだな。」
意外と早くできてしまったんだな。なら、少し休憩するか……。大きく息を吐き出し、壁に背を預けようとしたその時だった。
ピロン♪
「ん?」
聞き覚えのある音とともに私の前に画面が表示され、その画面には文字が書いてあった。
「新たな魔法を取得しました?」
画面に書いてあった文字を復唱すると、画面が切り替わり、新たな文字が表示された。
『抽出の魔法を取得しました。物質から任意の物を抽出することができます。』
「抽出の魔法か。」
特定の物質から任意の物を抽出できると書いてあるが……これはいったいどういうことなんだ?
「まさか……。」
私はほんのわずかに残った牛乳が入った瓶を手にする。
「抽出……バター。」
そう口にすると、一瞬瓶に残っていた牛乳が光ったかと思うと、次の瞬間には瓶の中にバターと少量の液体が入っていた。
「ほぉ~これは便利だ。この分なら想像次第でいろんなことができそうだな。」
この魔法があればいろんなことが可能になるぞ。海水から塩だけを抽出することもできるし、使い道は大量にある。インベントリと鑑定に続き有益な魔法を使えるようになった。これもこれから有効活用させてもらうとしよう。
新たに使えるようになった抽出の魔法の効果を確かめていると、パンが焼けるような香ばしい香りが私の鼻腔を刺激してきた。
ケーキが焼けた合図だ。
「おっと、ケーキが焼けたか。」
オーブンを開けてケーキの様子を確認してみると、表面はクッキーのようにきつね色に色づき、型に流し込んだ時よりもふっくらと膨らんでいる。
「上手いこと膨らんでくれたな。これなら何の問題もなさそうだ。」
さて、カミルたちには焼き立てを食べてもらおうか。冷ましてから食べても美味しいが……個人的にバターケーキは焼き立てが一番美味しいと思う。
「あとはこれを型から取り出して、食べやすい大きさに切り分けて……。」
切り分けていて思ったのだが……果物をサイコロ状に切ったやつを入れても良かったかもな。そうすればもっと美味しくなったかも……次作るときは入れよう。
そしてカミル達が料理を食べ終わった頃を見計らい、私はバターケーキを運んだ。
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