物語を語る上でその物語には書き手の価値観や精神世界が色濃く投影される。物語というのは作り手書き手の願望が散りばめられているからだ。
そしてそれは時折、危ういものを作品と言うスクリーンに投影する
ネガティブなキーワードとイメージを醸成させて最高に刺激的な毒入りの高級酒のように得も言われぬ陶酔に満ちた他に類を見ないオリジナリティ溢れる世界観を生み出すことがある。そしてそれが本作だ。
世界は一度破滅に満ちた。世界は崩壊しかけた。かろうじて踏みとどまった世界は一人一人の人間から〝個〟を奪った。あらゆる方法で管理が進められ人間が均一化され破滅も不幸も見えなくなった。
そして均一化されない不適合者は〝消された〟
そして消される側の人々は焦土と化した世界の片隅にホコリのたまった掃き溜めに虫が湧くように寄り集まり細々と生きていくことになる
この物語世界には四つの存在しかない
管理を受けていない者
管理を拒んだ者
それを処刑するもの
そして〝悪魔〟
それらが、個々の尊厳と理念と願望と個性の残渣を発露させながら世界の管理の軛《くびき》から離れて生きようとしている。
機械のように、虫のように、個人としての意思をなくしてただ呼吸しただ食物を摂取するだけと言うのなら、それは生きている人間とは言えないだろう
これは死者だらけになった世界に生きる最後の生きている人間たちの物語である
素晴らしいディストピアストーリーだ