ツェントラール'70

猫町大五

第0話

 世界暦一九六五年、十二月。

「酔い損ねたなあ」

「まだ言ってんのか」

 雪のちらつく街道を、一台の車が走る。――シトロエン・トラクシオンアバン。

「勝てば官軍、勝利の美酒はどんな味かと、大いに期待してたんだが・・・期待外れだった」

「度数が低すぎたんだろ、お前には」

「それは分かってたさ。だがね・・・状況はちっとも変わらない、現に今もだ」

「で?夢破れた深窓のお嬢様は、今度は何をやらかすと?」

 男の茶化す様な言葉に、少女は笑いながら言った。

「やっぱり派手なのはアレだね、性に合わない」

「じゃあどうすると」

「・・・簡単、昔に戻るのさ」

「・・・また官憲に追われるのかよ」

「仕方無いだろう?至極合法的に事を起こして、結果はこれだ。なら・・・」

「極々小規模、しかも非合法でやるしかない、と」

「話が早くて助かるよ」

 男は溜息をつきながら言った。

「またお前に振り回されんのか、全く」

「・・・嫌じゃ無いだろう?」

「・・・惚れた弱みが半分だな」

「心配ないさ、今から被害者を増やしに行くから。流石に二人じゃ手が足りない」

「・・・ワクワクするな」

「・・・変わったねえ」

「毒されたのさ、お前に。・・・責任は取って貰うぜ」

「そりゃ勿論」

 雪の中を、車は進む。

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