ギョーザ爆弾とイケメン叔父さん

海香うみかーちゃん、クラブラやろうよ」

「んんー、まあ、ちょっとだけならいいですよ」


 叔母さんには、顔色悪いよとちょっと心配されちゃいました。合間の休憩時間には、お茶ではなくオレンジジュースが出たのでラッキーでした。一緒に頂いたせんべいは、残さず全部むさぼりました。それでちょっと潤っちゃいましたので、イトコの挑戦を受けちゃいました。クラブラというのは、スマブラもどきの格闘ゲームのことです。

 ちなみに、この家では、「海香ちゃんも一緒に晩ごはん食べていきなさい」とはなりません。六時開始のわたしの授業に合わせて、なんと五時台に済ませてるのです。早すぎです。あとわたしは、山育ちなのに海香うみかです。


「ギョーザ爆弾……食らえ……ギョーザ爆弾……食らえ……」

「海姉ぇ、しつこいって!」


 わたしのメインキャラはチン・ジャンファンです。チャイニーズレストランのコック長です。丸っこい体型で耐久が高いわりにスピードもあります。手数で言ったらお玉ナックルですし、中華鍋ファイヤーは当てやすくて相手の動きを鈍らせられますが、やっぱり今日の気分はギョーザ爆弾なんです……理由はわかりますよね……。


「ギョーザ爆弾……食らいたい……ギョーザ爆弾……食べさせて……」

「だからしつこいってーの!」


 奏太かなたは文句たらたら言うくせに、全然私のギョーザを避けきれてません。というか、避けきれてないから文句を言うんですね。あ、奏太というのはイトコのことです。オレンジジュースの効果は、とっくに切れちゃいました。わたしは腹ペコでちょっとイライラしてます。奏太の使ってる緑色のカエルみたいなトカゲの顔が、いつもより憎たらしく見えてきちゃいました。いつもより多めにギョーザをぶつけまくります。お腹は満たされません。とりあえず、これ(クラブラ)が終わったらスーパーに行くことにします。帰り道なのでちょうどいいです。


「帰ったぞー。お、海ちゃんいらっしゃい。なんだ、クラブラやってるのか。よしちょっと俺にもやらせてくれ」

「あっあっ。叔父さんお邪魔してます……」


 叔父さんが帰ってきました。そして参戦してきました。かっこいいんですよね叔父さん。そして強いです。剣と盾を持った金髪のイケメンキャラに、わたしのギョーザは当たりません。もちろん奏太のトカゲなんて手も足も出ません。二人がかりでもコテンパンです。腹ペコなのを忘れるくらい、イケメンの叔父さんを倒そうと夢中になっちゃいました。あれ、叔父さんは晩ごはんはいいのでしょうか?


「俺は外で食ってきたから」

「あっあっ。そうなんですか……」


 そうですね、もう九時過ぎてますし、何のお仕事してるのか知らないのですが、そうなんですね。って、もう九時です! そろそろいつものスーパー行かないと、閉まっちゃいます!


「お、海ちゃん帰るの? じゃあ送ってくよ」

「えっえっ。いいですいいです」

「ほらもう外寒いし」

「あっあっ。わたし今日自転車なので……」

「一緒に積めるから平気だよ。いつもそうしてるよね?」

「はっはい……」


 数分後には、わたしは叔父さんのアルファードに乗ってました。叔母さんから頂戴した3000円を握りしめて。あと、どういうわけか、白菜も丸々一個もらっちゃいました。これは嬉しいです!


「海ちゃん今日の髪型いいじゃん、それ。サイドテールっての?」

「あっあっ」

「大人っぽいってかさ。いいよ。可愛い」

「あっあっ」


 車に乗ったとたん急に何を言い出すんですかこの人は! 叔母さんに怒られます! 大丈夫なのでしょうか! 叔母さんは怒ったらきっと恐いです! 首を絞められちゃいます! 女子プロレスラーみたいな体をしてますし。叔母さんは姉さん女房なんです。

 ちなみに残念ながら、奏太は叔母さん似です。なんて言ったら叔母さんに失礼です、わたしもぶっ飛ばされちゃいます!


「そういや海ちゃんさ、好きな食べ物って何かある?」

「あっあっ」


 こ、今度はなんですか! もしかして「今から一緒に食事でもどう?」ってやつですか!? い、いや、それは無いですね、さっき食べてきたって言ってましたし。それに、送っていくだけなのに遅くなったら、叔母さんに何と思われるでしょうか。というかその質問! ここでそれが来るとは思いませんでした! しまった! いやまだ大丈夫です。よし、言いますよ!


「かっ、かっ……」

「俺さ、ギョーザが好きなんだよね。さっきも部下たちとラーメン食ってきたんだけどさ、俺ん中じゃ、ギョーザがメインだったね」

「そっそっ……」


 そうなんですか……。

 ちょうどその時、餃子の王将の看板が車の窓から見えました。窓から見えて、見る見る後ろへ過ぎ去っていっちゃいました。あ、そういえば! 行くつもりでいたスーパーはもっと前に通り過ぎてました! 今さら戻ってくださいなんて言えません……!


「ぎゃひー」

「なんだ? どうした?」

「いっいえ、なななんでも……」


 ドナドナドーナードーナー。そんな歌が頭の中に流れました。かわいそうなわたしを載せた叔父さんのアルフォート号がわたしの家に着く頃には、九時半を過ぎてました。






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