晩餐未遂

 あのバカ姉貴のことだから、きっとそんなことだろうと思っていた。

 あの不自然な間で死期を悟ったのだろう。あの不自然な反応を見るに、この寿司は二人の最後の晩餐のつもりだったのだろう。あの最期だって、食べているときは絶対に喋らない姉貴らしいとは思う。思うが、たった一言も残せないまま死ぬとは。……最期まで間が悪いなんて救いようがないね、と独り笑う。そして涙を落とす。

 白がそこにあった。人だったものがそこにあった。姉だったものがそこにいた。確かにそこに在るが、きっともうそこには無い。

 数刻経った。目を腫らした。雫は乾いた。私にもさほど時間はないのは知っていた。


 ふと、思いつく。白い物の、かつて肩だったところに腕を回す。最期の願いをそっと呟いて、”それ”に抱きついて、目を閉じた。

「姉さんを一人になんかさせない」

ふわり、どこからか降ってきた毛布が二人を包み込む。彼のやさしい死に際は、きっとこの世に遺らない。


 檻の中から温度が消えた。

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