魔王様の日常…今日もまた、長い一日が始まる。

野良・犬

プロローグ


「魔王ぉぉぉーーーッ!!!」


 男は自身の眼前に立つ存在に声を荒げ、口からこぼれる血を気にする事もなく、その眩い光を放つ剣を振りかざす。

 万物を斬り裂き、魔を消し去る聖剣…、ソレは魔王の肉体をも容易に斬り裂く絶対勝利の剣…、だが、その剣が彼に微笑みを向ける事は無かった。

 その白銀の鎧を魔物達の血肉で汚しながら、戦って戦って、この魔界のトップに君臨する王の元にたどり着いたというのに、勝つ事ができない。

 その2メートルを超える身長、鍛え抜かれた筋肉…肉体、額から伸びた1本の角に、獅子のたてがみを彷彿とさせる髪と髭…、差異はある…、確かにあるけど、それでも人の姿に近い魔王は、その肉体に竜の尾を生やし、その皮膚を竜の鱗や甲殻で覆わせた。

 彼…勇者の持つ聖剣が最強の矛であるのなら、その魔王の全身を覆う鱗や甲殻は、最強の盾…だ。

 矛と盾…、その矛盾を孕む戦いは、盾の勝利に終わった。


 大陸の半分が支配された世界、人間から魔界と呼ばれる地を支配する魔王は、その強大な力を持って、人間の侵攻を許さない。

 召喚された勇者の力により、魔界の3分の1を奪われてもなお、その勢いを受け止めて見せた。


 100人?…1000人?

 魔王が1人で屠った人間の戦士の数は、もはや誰も正確な数字を知らず…、そこに残ったのは色鮮やかな花々が彩る大地を、血で汚す肉塊のみだ。

 圧倒的だった…、あえて文字で綴る必要もない程に…、人間側の兵力は壊滅的な打撃を受け、人と魔の戦いは終了する事となった。


 人々は地獄の始まりだ…と口を揃える。

 その人と魔の戦い…戦争は「血の災厄」と呼ばれ、魔王の逆鱗に触れてはならない…魔に逆らってはいけない…と、人の心は闇の中へと落ちて行く

 そんな中で、心の光を絶やさず、闇を払う青年の姿があった。

 聖剣は折れず、その剣を握る勇者の心もまた折れる事は無い。




 この物語は、闇に落ちた人々の心に光をもたらし、救済を目指す勇者の物語・・・ではなく…、強大な力を持ち、魔界に絶対強者?として君臨する魔王の物語である。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る