俺の大事な妹

乃木希生

俺の大事な妹

妹が女性だと認識したのは、一体いつからだっただろう。


俺と妹は小さい頃からいつも一緒にいた。

何をするにも、どこに行くにも、いつも一緒にいた。

その小さな背中よりも大きなランドセルを必死に背負いながら、手を繋いで登校していた昔が遥か遠いように感じた。


ランドセルよりも妹の背中が大きくなってきた頃、手を繋いで登校することを拒まれてしまった。

あの時もまだ、妹が女性だとは思っていなかった気がする。


妹がセーラー服を着始めた頃、妹が一人部屋が欲しいとワガママを言い出し、俺と妹が一緒に過ごして来た部屋から妹が去って行った。

それでも俺はまだ、妹を女性だと思っていなかった気がする。


妹がブレザーを着て、俺が知らない男と手を繋いで歩いているのを目撃した時、俺の中で何かが崩れていく音が聞こえた気がした。


恐らく、この時だっただろう。

俺の中で、妹は一人の女性なのだと気づき始めたのは。

それと同時に、知らない男に対して、何とも言えないモヤモヤを感じていた自分に気付いたのは。


その気持ちに気付いてから、俺は妹を直視出来なくなってしまった。

そんな俺を見た彼女も、俺を避けるようになり、声を掛けても無視されるようになっていった。


俺はこの状況に耐えきれなくなって、早々に実家を飛び出した。

彼女は少し寂しそうな、それでいて少し不安そうな顔をしていたように感じたが、俺はそれを見ない振りをした。

あの時、彼女にたった一言、何でも良いから言葉をかければ良かったと今はとても後悔している。


あれから数ヶ月が経ち、久々に会った彼女は眠っていた。

とても綺麗な顔で眠っていた。

何と声を掛けても昔と同じように無視され続けた。


なぜ、こんな姿になってしまったのか。

親を問い詰めると、どうやら彼女は理不尽に未来を奪われたらしい。

犯人は、当時付き合っていた恋人らしい。


だから俺は、そいつを殺すことにした。

俺の大切な妹を奪ったやつの未来を奪う事は、俺の中では当然の行為だと確信していた。


ついでに、そいつの親兄弟姉妹も殺すことにした。

それを妹が望んでいると俺には分かっていた。




なぜなら、俺と妹は双子だったから。

昔から何をするにも、一緒に過ごしてきて、お互いに思っている事、感じている事を分かり合っていたから。


俺が実家を飛び出したあの日も、俺は妹が伝えようとしていた思いを本当は気付いていた。

気付いていたから、なおさら聞けなかった。




「恋人のことで悩んでいる」

俺は妹を女性だと思っていたから、恋人との話を聞く事が出来なかった。

てっきり俺は恋人とのノロケ話を聞かされると思ったから聞けなかった。





でも、本当は違っていた。





「恋人のことで悩んでいる」


この本当の意味は、ノロケ話ではなく、命の危険を感じていた彼女からのSOSだった。





俺は、彼女のことを実は何も分かっていなかった。





俺は妹を殺した恋人の親兄弟姉妹を恋人の目の前で殺してやった。ついでに恋人を殺そうとも思ったけれど、それはやめた。


今、俺がこいつを殺したら、あの世でこいつが妹に会えると思うと無性に腹が立ったから。


『あの世』と『この世』


全く次元の異なる世界で生きている限り、出会う事は絶対に出来ないから。


その代わりに俺は、あと数分後『あの世』へと旅立てる。

死刑執行をしてもらえるから。


「今度は、お前の話を二度と聞き逃さないようにするから。」


俺は、彼女とまた一緒に暮らせるあの世に思いを馳せながら、宙にぶら下がっている。

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俺の大事な妹 乃木希生 @munetsu

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