第30話 U-2
天百合ボール。エンドラインからボールが出される。相手の布陣を見る。
-海松北高校、プレイヤー紹介-
PG谷口 2年 安定感があり堅実なプレーヤー。やや率直ぎみで応用性に欠ける。
SG内山 2年 積極性があり海松北のスコアラー。その日の当たりの調子の差が出やすい。
F中村 2年 海松北の中心人物でエース。環境やプレッシャーに左右されにくい。
F青島 1年 唯一の1年レギュラーで緊張した様子、OFの役割を期待される。DFはまだ拙い。
C上村 2年 生真面目で気持ちが強いインサイド。4番ポジションまで可能。
茉莉は少しドリブルしてすぐレヴィナへボールを入れる。
左コーナーへゆっくりと入り始める。
真夜が左ウィング、右コーナーに優里、右インサイドに伽夜、ガードがレヴィナだ。フロントまで運んだレヴィナから真夜へ軽いパスが出る。センターをやると思っていたレヴィナがガード、海松北メンバーが少し困惑する。留学生のインサイド中心で来ると想定していたのだろう。
軽やかなハンドリングで真夜が中へ切り込む。ディフェンスが寄ったところで、外へ大きくキックアウトパスが出た。コーナーの茉莉に入る。
慌ててディフェンダーが追いつく前に、3Pを打った。
そして――
スカッ パシッ
リングにかすりもせず、ボールは相手センター上村の手に収まった。
「「ぎゃはははは! だっせ! マツリンだっせ!」」
ズゥゥゥン
3ギャルが爆笑し、茉莉が凹む。相手からカウンターが出る。
PG谷口に渡り、そのままレイアップが決まる。
誰もディフェンスに戻らなかった。
天百合 0-4 海松北
相手ベンチからも不審な視線が突き刺さる。
ピピーッ
「君たち! 慎みなさい!」
「あー?」
エアボールにて巻き起こった爆笑に対して審判から警告が入る。が、伽夜があからさまに反抗的な返事をする。
▼
-永葉スタンド-
「帰る」
「ちょーーー! 藍ちゃん先輩ー、タンマタンマー!」
帰ろうとした先輩に対して凛理が引き止める。
「凛理? せめてどのあたりから見どころになるのか、教えてくれないかしら? これじゃ単にバスケを小馬鹿にしているようで気分も良くないわ」
「んー、ハナのことだから、後半じゃない? 何もせず終わるってことは絶対ないからそこは信じていいっていうか」
▼
バックコートからガードのレヴィナのドリブルが開始された。これはハナの采配だ。センターのままではオフェンスとディフェンスのランニング距離が長く、序盤のスタミナの温存には不向きとなる。戻る距離を短くするためのもの。
そしてレヴィナも全ポジションを一通りこなすことができる。ガードも苦にしない。相手はディフェス位置を変えず、正規の位置を守るようだ。したがって相手が変わり、ガードはミスマッチになっているが、互いにまだ激しくはない。
1番手繰上り、茉莉がSGのような形態となり、再びコーナーに入った。
真夜に渡り、またドライブでかき回す。そして、茉莉へパスが出た。
真正面で受ける茉莉、今度はディフェンスが付いていたため、一つフェイクを入れ、シュートを放つ。3P。
ガッ
ボールはリングの先端にぶつかり、落ちた。
「ゲラゲラゲラゲラ ひでえ! マジひでえ!」
爆笑する3ギャル。うなだれる茉莉、出される速攻。決まるレイアップ。全く同じ流れとなった。スタンド上の啓誠館、永葉の面々も完全に疑いの眼差しになっている。
天百合0-6海松北
ピッ ピッ!
「君たち! いい加減にしなさい!」
怒った男性主審が寄って来た。時計を止めてプレイ開始前に天百合側に歩みよってくる。
「ふざけているのか? 真面目にやる気がないのか!?」
「はぁ? オッサンさっきからうっさいんですけど?」カ
「べっつに迷惑かけてなくねー?」マ
「むしろ相手に貢献してるっていうか?」ユ
「なんだと!?」
――まずいまずいまずいー!
「み、皆落ち着いてー! ちょっと緊張してるだけなんですー は、ははははっ」
茉莉が審判の前に割って入る。
「……っ。警告だ。次はテクニカルをとるからそのつもりで!」
▼
「はぁ、やれやれ」「えーと、うーんと」
ハナは呆れ、美子先生はスコアの記入に集中していた。控えメンバーがおらず、ハナはゲームを見るため、スコアを付ける者がおらず、普段部活にあまり顔を出さない代わりにスコアくらいはやると買って出てくれていた。
▼
ゲームがスタートする。相手ベンチ側のフロントコートに全員であがっていく。
「マツリン決めるまでやんだっけかー?」マ
「いつ決まるんよ日が暮れんじゃん?」カ
「ひ、ひどい……」
そしてまた全く同じ展開となる。しかし毎度のパターンに、茉莉に付くディフェンダーが先に動いて来た。茉莉にボールが入った段階で、ダブルチームぎみになって追い込んでくる。シュートフォームに入るがやむなく奪われた。
カウンターが出される。相手のF中村のレイアップが決まる。そしてさらに、エンドラインから伽夜が雑に出したボールがレヴィナに入る前にカットされてしまう。パスコースも狙われていた。
外に出され、相手SG、シューターの内山が待ち構えたいた。45°のスリーだ。
バスッ
綺麗に決まった。
0-11
▼
-啓誠館スタンド-
「タイムアウトかな?」
「取らないでしょー天百合だよ」
「まだ1Q7分残ってるんだけど」
「茉莉、いつからシューターに……」
▼
天百合ボールで開始。一本前から行って、海松北は今度は通常のディフェンスに戻してきた。
「はー、ウチの先生も大概だけどさ、さすがにこのチームはないわ。バスケにコールドはないんだよね早く終わって欲しいけど」
伽夜をマークしていたC上村が呟く。バスケはある程度の”口撃”も行われることもある。相手のメンタルを崩すことは、そのままシュートの成功率やコート上のパフォーマンスに直結する。
「んあ? 何か勘違いしてね?」カ
「何が勘違いなの? 1年生」
レヴィナから真夜にパスが入ったころ、伽夜が振り向いて片手を差し出す。真夜にパスを要求した。真夜がベンチのハナを見る。作戦と違うことをするとハナはやたらと陰湿に怒るので、3ギャルはそれをとても嫌がる。
「茉莉も一呼吸必要そうだし、まあいいか」
ハナが頷いた。右サイドの伽夜にボールが入る。C上村は腰を落とした、が。初見殺しと言われるビハンドザバックから一瞬で左を抜き去る。もう一突きしただけでペイントの中、ステップからあっさりレイアップが決まる。
「……え?」
「ヘーイ、ハーイ、ファーック!」
予想だにしない動きに目を見開いたのはC上村、一切反応できなかった。伽夜が中指を突き立てる。
ピピピピッ!
「テクニカルファウル(※1)天百合、23番!」
審判が伽夜へ向けて、Tの字を作っていた。
「あへ?」
「ぎゃははははは!」 「カヤグッバイ!」
「はぁ……」
溜息をついたハナがジャージを脱ぎ始める。タイムアウトを要求した。
おそらく伽夜は交代だろう。
「タイムアウト、1回目、天百合」
▼
-啓誠館スタンド-
「でたでたでたー、超絶個人技!」
「センター5番一歩も動けなかったね」
「そしてテクニカルも出た」
「私女子で素行不良のテクニカルとか初めて見たよ」
-永葉スタンド-
「あらあら、へえ?」
「凛理みたいだった」
「えー、伽夜なんかと一緒にしないで欲しいでーす」
――――でもあのディフェンスじゃなー。こりゃ海松北きっついぞー。
笑みを浮かべつつも口を手元に当てる黒髪美少女の静流、感想は口にするが、先輩の藍は驚きは見せなかった。
▼
-TO天百合ベンチ-
「なにをやっとるか」
「あれでテクニカルかよー、神経質すぎるわー」
交代要員の居ない天百合はファウルアウトは死活問題。すっかりハナもおかんむりだ。
「中指を立てればどの国だろうとテクニカルですよ」
「ねーねー、テクニカルってどうスコアつけるの? 伽夜ちゃんどうせ交代でしょ? 教えてよー」
「アタシもよくしらないっすー、ってセンセ、そのネイルめちゃイケてるー」
「あ、わかる!? わかる!?」
「……。茉莉、1本くらいコーナースリー入れないと許さない」
「うぐうう!」
茉莉のノーゴールに伽夜のテクニカル。ハナのテンションが徐々にダークになっていく。その様子を見た優里と真夜が何かを思い出したように顔をしかめ、後ずさりしていく。
-TO海松北ベンチ-
「ったくとんでもねえギャル達だな。個人技はマグレか? まあ勝手に自滅しそうだが、ウチと戦う前に審判と戦ってやがるな。よし、相手にするな。今日は内山がいい。ボール集めていけ」
「「はい!」」
▼
ビーッ
TO終了、開始のブザー共に始まるのは、テクニカルファウルのペナルティからとなる。相手に1ショットが与えられ、さらにサイドから相手ボールで始まる。副審が美子先生へ注意に行っていた。
が、美子先生も雑な返事を返しており、余計に印象を悪くした気もした。審判の注意程度で素行が正せるなら教師も苦労はしないと言いたげだ。
SG内山がきっちり決める。さらにサイドラインからの攻撃、早いパス回しから、先ほどフリースローを決めたSG内山が待ち構えるコーナーにキレイにパスが入った。フリーの3Pがさらに決まる。このTOで打ち合わせたデザインプレーだろう。
「ナイッシュー優羽! 乗ってるよ!」
天百合 2-15 海松北 前半残り4分。
「TO明け開始20秒で4点とられちゃった……」
「んなことよりマツリン、はやくスリー入れろってー」
「そだぞー、このままじゃヤバたんだろー」
「え、そりゃ、入れたいけど、なにかまずいの?」
「し、試合に負けちゃうだろー?」
「……」
――ほんとにそう思ってるのかな?
なおTO後からはハナが入り、相手もC上村を下げ、控えの1年FC杉井が入った。
オフェンスとなりレヴィナがボールを運ぶ。真夜に渡り、そこからまた茉莉の
コーナースリーの演出がなされる。
「あ、やば」
打った茉莉が呟く。タッチの感覚が悪く明らかに短い。
ガガンッ
「うおおおおおおおい!」 「マツリンいいかげんにしろっつの!」
――ひいいいいい!
二方向からの罵声に茉莉が肩をすくめる。
「そんなにプレッシャーをかけては、入るものも入りませんよ?」
-ベンチ-
「ねえ何で急に優里ちゃんと真夜ちゃん焦り出したの?」
「ハナにコスメ用の機材借りてるっていうか、おーとくれーぶとか? あんまヘボやると返せって言われちゃうんですけど? てかマツリンしっかりしろ!」
「オートクレーブって、滅菌機!? あんたらそんな本格的にやってんの!?
ガキンチョのくせに!」
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