第28話 N-9
-翌日-
「ん? レヴィちゃん入るの? どういう繋がりでそうなったん? ま、りょうかーい」
茉莉は放課後、顧問の美子先生へレヴィナの入部届とユニフォームの発注を伝えた後、体育館へ向かった。すでに体操服姿となったレヴィナが輪の中にいた。
茶道部は外部講師が来る木曜のみの活動、それ以外はバスケ部へ参加するとのことだ。ホワイトボードをハナが引っ張りだしている。全員揃ったようだ。
「あらためまして、レヴィナ=カルラスティエです。175cm、フォワードですが、
どこでも出来ます。精神修業の一環として入部します。どうぞよろしくお願いします」
「うむ、くるしゅうない」「……。なんなんそのハチマキ?」「諸行無常?」
「うぅ、またどこでも出来る人来た。ほんとはどこなの」
長い金髪を文字入りのハチマキで交わし、ストレートの長いポニーとし、運動モードとしていた。
「座右の銘です。お気になさらず」「気になるっつの」
「うちらはみんな名前で呼び合うからなー、入るなら守れよー」マ
――そんな決まりあったっけ?
「分かりました。愛称はレヴィです」
「じゃ、レヴィ、さっそくで申し訳ないけど、インサイドをお願いしたい」
ハナがポジションの希望を伝える。レヴィナが最も身長も高く、骨格もしっかりしており、チームではセンター向けだ。
「ふむ、この身長でセンターをやらせていただけるのですか? 本職ではありませんが、センターといえばチームの要。誉れ高いことです」
「マジ!?」 「姫超すてきー!」
双子が歓喜する。身長柄、練習でもどちらかが疑似的にセンターの役割をやらされ、そのポジションが好きではなく、度々不満を漏らしていた。
レヴィナは本国での身長はごく平均的、バスケ選手としては物足りないほうだっただけに、意外だと感想を口にする。リトアニアの平均身長は世界でも高く、若手だけに混じれば女子の175cmでも至って普通だという。
「真夜、姫ではないと言ったはずですよ。東洋の姫に興味はありますが」
「え、なんでウチら見分けられるん? エスパー?」
最初はヘアゴム等で見分けられるようにするとしていたが、そんなことはとっくに
無かったことになっており、普段通り自由自在な二人となっていた。毎日固定で付ける装飾は特になく、むしろころころ変わるので茉莉も未だに見分けられずにいた。
「風のエレメントがやや強いほうが真夜、火のエレメントがやや強いほうが伽夜と覚えました。間違ってはいないでしょう」
「ナニソレ。ファンタジー? 姫能力者?」マ
「何か異能とかもってそー、絶対ファウル吹かれない能力とか?」カ
「そんな地味なのでいいのかよ全部スリー入るとかでよくねー」ユ
「私だけ見分けられないの早く卒業したい……」
▼
「なるほど。真夜と伽夜にも優里と同等のオフェンス力があるわけですね。戦術の軸はピックアンドロール。毎試合100点取る。ディフェンスはしない。理解しました」
「理解しちゃうんだ。いや、ディフェンスはして! ていうかおかしなところはちゃんと突っ込んで!」
「茉莉、すみませんが、私はこのチームに非常識と発展性を求めています。その意向にはそえないでしょう。バスケットの姿は、一つではないはずです」
「ええええええ!」
自分もオフェンスは得意分野、貢献できるだろうと続ける。パワータイプではないため、先日見せたようなミドル付近からの柔らかいオフェンス力が売りなのだろう。外は不得意だったが、ある程度入るように克服していると言う。
「外って言えばさー、マツリンがボール運ぶし? 外無いなら脅威じゃなくなくない?」
――グサッ!
「ま、まさに気にしていたことを……」
ハナが主軸戦術としたピックアンドロールは、起点となる選手に外のシュートがあるとないとでは大きな差がある。茉莉に外が無いと分かれば、守り方が変わる。
「茉莉、ガードで外が不得手なのですか? スキルレパートリーは重要ですよ? 私も元はダメでしたが、練習してある程度は身に付けました」
「うぐ」
「ユーリが教えてやればー?」「全部カンで打つユーリに何が教えれんだウケル」
「真夜がボール運べばいいじゃん」「じゃあマツリンどこやるし?」
「あれマツリンいらない子じゃなくなくない?」
――グサグサグサッ
ズゥゥゥゥン
「茉莉、コーナースリーの練習して」
「は、はい……ぐすん」
別にスコアラーとしての3Pを身に付けなくともよい。3Pがあると相手に認識させられるだけでいいとハナは説明する。
「ん? マツリン持ってるのって組み合わせっぽい?」
先ほど美子先生にレヴィナの入部を伝えた際、WCの組み合わせ表を貰っていた。パッと真夜が持っていく。同時に伽夜とハナが覗き込んだ。
「……3回戦、永葉と当たる」「マジか、間に合わんわそれー」
「え、3回戦に進むつもりなんだ……」
「てかなんでこんなシード飛びぬけてん? 戦わなすぎっしょ」
「私達の学校に実績はない。文句言わない。それにスーパーシードにしたって永葉や啓誠館の初戦は大差で勝っちゃうから」
▼
各自練習が始まる。レヴィナとハナはゴール下での動きについて打ち合わせしているようだ。先ほど言われたコーナーへ赴き、さっそく3Pシュートの練習を開始する。
「なんだかんだでスナップだけで弾いて打ってる連中は大抵不安定で波あるから。グイっと全身で押し込むし? 足の爪先まで使う気で打つし?」
優里のアドバイス(?)を受けた後、ひたすら打ち込んで練習する。結局は練習量がモノを言う。リングの中心、奥など、見る位置、狙う位置も思考錯誤する。100本入るまで、という練習はハナに却下される。古臭いと一蹴された。
200本打って、どれだけ入ろうが、入らまいが、その日はそれでおしまい。そのように練習するようだ。それが筋力のインターバルにもなると言う。
腕が上がらなくなってからはミニのコーンを持ち出す。伽夜から教わったディフェンスのステップをひたすら練習した。ハナはDF面は棚上げしているが、あの斬新な動きが気になってあの日から日課にしていた。
その様子にレヴィナが視線を送り少し笑みを浮かべた。大抵自由練習はボールを持ちたがり、ディフェンスの練習を自ら率先して行う者は少ない。これが非常に大事だったりするのだ。
天百合の練習メニューはハナが組んでいる。実戦的な練習がかなり少ないのが特徴。人数不足ということもあるのだが、ハナ提唱のP&Rの練習を終えれば、あとは各自自由だ。
-夜-
茉莉が帰宅する。練習もハードになってきており、3ギャル達も遊びに繰り出す機会もめっきり減ってしまったようだ。元よりハードに部活をやるくらいならサボる気質があったが、先日ショップで鈴木凛理に会ってからというもの、その対抗心から少し集中して打ち込む様子が見られてきた。
優里も部活を始めたことから家での手伝いをいくらか免除されたらしく、まんざらでもない様子で練習している。
三年生の引退後、新生バスケ部になってから束の間、まったく別カラーのチームとなってしまった。自転車をこぐのも億劫なくらい、くたくたになって帰る。もちろん嫌な気持ちなどはなかった。むしろ茉莉の心情は非常に前向き。しかし、別の意味での不安が芽生えていた。
自室でノートに線を引きながら、ぼんやり戦型と自身の役割をイメージをしていた。かくしてレヴィナが加入し、部員は6名。ハナを含めればなんとか交代要員は確保できた形となった。とはいえまだまともにゲームができる状態とは言えない。
――やっぱり、私だけスキルが劣ってるのかな。皆、実際は気にしているのかも。いや、ズバズバ言う人ばっかだし、逆に何も気にされてないのかも?
部活時間、練習前の最後のやりとりを思い出す。ハナの打ち出したチームの方針は、茉莉が自身で伸ばそうとしていた、ガードとして、仲間を生かして縁の下の力持ちとなり、脇役に徹するというスタイルとは、全く異なったものだった。
全員参加型の超強力オフェンス。主軸のピックアンドロールは、ハンドラーには
ドリブルからフィニッシュまで高いスキルが求められる。真夜の言っていたように、
3Pシュートが無いだけで相手のディフェンスの仕方が変わってしまうほど、重要な役割だ。
『伽夜にも言われたと思うけど、周囲を生かそうなんてスタイルは、もうおしまい。自分が主役のつもりで得点して。スタイルは私が作る。茉莉ならできる』
ハナの言葉を思い出す。あくまで全員でやる。茉莉だけOFの免除はしないと釘を刺された。
――なんだかんだで、一度は終わりと思っていたバスケ部に皆来てくれた。どんな役目になっても私ががんばらないと。
ふと家族親戚一同が映る部屋の写真を見る。隣の愛知県の私立強豪校でバスケ部の指導をする従兄の姿に目が行く。夢のような話だが、もし全国へ行けば、組み合わせしだいでは対戦する可能性はあるだろう。
気づくと沙織から端的なメッセージが来ていた。練習試合では悪い言い方をしてごめんという謝罪と、WCがんばろうという激励だった。同調し、返信しておく。あらためていよいよ公式戦が始まるのだと実感した。
「……」
「いらない子はいやだーーー!」
紛糾しながら眠りについた。
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