第25話 N-6
数日ほどたった。10月に入り、月末にはウィンターカップ(WC)の予選も始まる。レヴィナからの返事はなく、以前、顧問の美子先生から話があった練習試合は流れた。
「うーん、なんか悪いけど、もう一回だけプッシュに行ってみる?」
「いや、このまま行ってもしつこさで心象を悪くするだけかも。もう少し考えよう」
ハナに相談を持ち掛けるも、ハナ自身はやり方を変える方向を考えているようだ。レヴィナは泣き落とし等に流されるタイプではない。自身の考えをしっかり持っており、周囲にも感化されずに1年生から個性的な学生生活を送っている。
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-放課後廊下-
3ギャル達がトイレ前でたむろしていた。鏡を見てはケタケタ笑い合っている。
「ん? ユーリ、ピアスやめたんかー?」
「あー、汗かくとき増えたからさー、なんか蒸れるってかもういいかってか」
「あー分かる、あたしもやめっかな」
「――ふっ 言語道断ですね。そんな程度の低い意識で、バスケットボールに取り組もうなどと」
!
その時、トイレに訪れたのは、レヴィナだった。3ギャルがバスケ部に所属していることは校門前の勧誘や茉莉の話で存じている。今のやり取りを聞いて、半ば呆れ苦言してきたようだ。同時に声の方へ振り返る。
「茉莉やハナに真剣だと聞いていましたが、所詮は単にメンバーが欲しいだけ。取り繕いでしたか」
「あー? んだてめー?」マ 「背も態度もデカくね?」ユ
「はいおねーさーん。
「……。聞き捨てなりませんね。トイレでバスケ、侮辱しているのですか?」
「なりませんね。じゃねーしなんだそのナリでそのセリフ皇女か姫かよ。姫にバスケの何が分かるんだっつの」マ
「バスケットボールは我が祖国、リトアニアの国技です。私もその教養は受けています。態度に問題があるのはあなた達では?」
「あーマジムカツクこいつマジなんなん優等生なんちょっとレクチャー必要なん?」マ
「りとあにあってどこ?」カ
「中国の上とかじゃねー?」ユ
「あーなるほー、超ナットクー」
「……。なるほど、どこまでも侮辱するのですね」
「はいおねーさーん。じゃーおねーさんが大得意のバスケで勝ったらここを通してあげまーす」カ
「……。いいでしょう。あなた達のようなタイプは、口よりも先に、身の程を知ったほうが、その態度も改まるのかもしれません」
「あ? あっははははは!」「マジやる気なんウケル」「ヒーローカッケー!」
伽夜が冗談で言ったようなセリフを真に受け、レヴィナは勝負を受ける意思を見せる。3バカはおそらく考え無しの普段通りの素の状態だが、レヴィナにはわざと相手の意識を逆なでするように挑発ないし侮辱しているように聞こえたようだ。
3ギャル達はニヤけたまま顔を見合わせると、トイレの鏡の前から去っていく。そのままレヴィナは進んでいった。用を済ませ、戻ってレヴィナが廊下へ出ると、3ギャルはそのまま待ち伏せしていた。しかし先に口を開いたのはレヴィナだった。
「一つ。勝負をするのは構いませんが、あなた達が負けた場合、茶道部に入って頂きます。その根性を叩き直しましょう。リスクを負う勇気がありますか?」
「茶道部?」「ぎゃははは! 似合わね! マジ似合わね!」
「あーし正座とか5秒でバイオレーションだし?」
「オーケーじゃーそっちもりすく負えよ負けたらバスケ部入れっつの根性焼き直してやるっつの」マ
「……構いません。元より勧誘されていました。あなた達程度に負けるようでは、どちらにせよ学び直す必要があるでしょうから」
▼
茉莉とハナは図書室を訪れていた。レヴィナを勧誘するためには先に、相手を知るのが筋だと思い、自分達からリトアニアの文化等に触れ、共感意識を持とうとハナが立案し、さっそく資料等を眺めていた。
「わっ、男子も女子も平均身長が世界トップくらいに大きいみたいだね」
「なるほど、国技がバスケなら詳しそうなのもうなずける」
「ん?」
互いに感想を口にしながら資料を見ていると、4Fの図書室の窓から不意に目立つ金髪達が、向かいに見える体育館に上がっていくのが見えた。
「あれ? みんな、というか金髪が一人増えてる? ……って、あれ!? あれってレヴィナさんじゃ!?」
「え? ッ! あんの馬鹿達……!」
茉莉とハナが顔を見合わせ、また体育館のほうを見る。嫌な予感しかしなかった。慌てて片づけを行い、急いで図書室を出た。
-体育館-
「いよーし、姫様よー、イケメン揃いの私達3人の中で好きな相手を選ぶがよい。あっはははは!」
いつしか茉莉と伽夜が行った対戦形式の1on1を提案すると、レヴィナは特にルールに注文も付けず受けた。ハーフコートの5本勝負。先攻後攻を交互に行い、獲得ポイントの多いほうが勝ちだ。
ゴールはどのような形でも全て得点1、ファールは即相手のフリースローで攻守交替。
「5本も必要ないでしょう。3本で十分です」
「おいー、マジ舐めてるぞこの姫ー」 「しかも制服のままかよアタシらもだけど」
「で、誰指名すんし?」
「では、あなたで。バルト三国の位置くらいは教えて差し上げましょう」
リトアニアは中国の上と言っていた優里を指さす。
「いよっ! ユーリ大先生! たのんまーす!」カ
「まかせろっつーのソッコーこの姫に”くっ殺せ”って言わしてやるっつーの。あっはっは!」
「んだよー調子こいてた割には一番小さい優里かよー」マ
164cmの優里に対し、175cmのレヴィナのミスマッチの構図となりそうだ。カラカラと真夜が得点板を持ってくる。伽夜はかつての茉莉との1on1のときの優里のように、45°ウィングの3Pラインの辺りにそのまま座り込んだ。
「ゲームの邪魔でしょう。コートの外へ出ていただけませんか?」
「んあー? 別に動かないしどっちも条件一緒じゃん? いかー? バスケってのは他の人も居るんだぞー姫。常に5人を想定しなさーいって習ってないんかー? あっはははは!」
「……。口だけはNBAクラスですね」
「おーし、山本、お前笛やるし!」
センターサークル付近に歩み出た優里が、もう半面の男バス側にいた一番近いクラスの男子に話しかける。
「え? うげ! 浅丸……! やだよ。1on1なら自分らでやれよ」
「あー!? さっさとやれっつの断ったらてめスマホ持たせて女子更衣室の前に立たせて撮影会やらすぞ」
「おい! 陰湿すぎ! それひどすぎ!」
「つーわけで部外者審判に選んだし後で言い訳すんなし姫」
「これは青天の霹靂です。人並のフェア精神があったとは」
「性癖がどうのなんて聞いてないっつの」
「頭大丈夫なのこの人達? てか、脅した人にフェア精神なんてないよね?」
嫌々笛を持って来た山本が愚痴をこぼしていた。
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