第24話 N-5
日曜日になった。今日は真夜と優里の注文したバッシュ受け取りの日だ。全員でショップへ行って、帰りに彩川家でバスケのDVDを見ることになった。
「見るのハナんちでよくなー?」ユ
「ハナんちお菓子ないもんてかこっから遠いー」マ
「今日もアタシがジョック当てるわー」
「てか開始3分で”あ、コイツジョックだわー”とか言うのヤメロし」ユ
「んで毎回ジョック当てんだよー」マ
「ジョックすぐ死んでかわいそうじゃん?」カ
「……。ジョックは出てこないと思うよ……」
茉莉が見ているだけでもよくお菓子を食べているが、それでこの体系はうらやましい。バスケットボール専門店である個人店に向かった。休日の3ギャルはやはり派手だ。空けているとは思ったが、ピアスまでしていた。
「マツリンちんまくてかわいーなあー」カ
「ち、ちんまいって……」
ハナはロリータのような服を着ていた。余計ちんまくみえるが旧友にはあまり興味がないようだ。
「しゃーない、迷子のならないようにあたしが手つないでやるかあ。うへへ」カ
「なに欲情してんだテメー」マ
伽夜に強引に手をつながれる。直後、方や反対側を真夜に手をつながれた。何かの琴線に触れたのだろうか。なぜか両手に双子ギャル状態で街中を進ことになった。
「ぶはははは! なんだあれ、不良に拉致られた少女かよ!」
「茉莉の健気な感じがたまにそそる。でも、ま、久々じゃない? あの2人が仲間内以外に気を許してるのは」
「あーしら以外と距離縮めるのもめずらいもんなー。だいたいあの二人に凄まれると普通の女子はきょどって引っ込んじゃうしのー。ハンパなメンタルじゃ付き合いにならないし?」
茉莉と伽夜の勝負。茉莉は伽夜の心を折るようなプレッシャーに負けず、自身の意志を示すために、自分のやり方で立ち向かって見せた。思いの他、信頼を得たようだ。
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ショップに到着する。ついでにユニフォームも出来ていたようで、受け取ることが出来た。その場で皆で試着してみる。
「ってズボンなが!」
3ギャルのボトムがありえなかった。裾が脛か足首付近まできている。
「うむ。オシャレでよろしい」 「黒だから袴みてー。いいなコレー」
あくまでアウトローでいくようだ。黒地にピンクラインで余計にそう見える。真夜と優里の2人がバッシュの試着をしている最中、不意に一人入店してきた。
「ちわーっす。って、え? あれ? あんたら?」
!
互いの視線が交わり集中する。空気が引き締まった。
「……てめー。リンリ」 「おー、おひさじゃん?」ユ 「やあ」ハ 「えっ?」
真夜と伽夜が入店してきたその人物を睨みつける。対して優里は変わらずあっけらかんだ。ハナまで普通に挨拶を返す。
「おいおいそのカッコ。またバスケやる気なん? 3年間なんだったん一体」
真夜伽夜とほとんど同じくらいの身長、体型も似ていたが筋肉はより充実しているようにも見えた。髪こそ黒色だが髪留めをいくつか使い巻き上げ、まつ毛に付け爪と3ギャルに負けず劣らずハデなイメージだ。というかやっぱりギャルだった。
「し、知り合いだったの!?」
他4人の反応に茉莉が驚いて聞く。同世代でバスケをやっていれば、誰でも知っている存在だ。地元の海松市を出て、私立の強豪校、永葉学園へ特待生で入った。
「この5人。ジュニアユース、当時優勝メンバー」 「えぇ!?」
「リンリ、てめーの出る幕じゃねーんだよ」マ
「きえろっての。ぶっとばされんうちにな凸」カ
「ご挨拶くれてんじゃん? でもあっしは、うれしいよ?」
「――あんたら4人をぶっ潰せるかもしれないし?」
ゾクッ!
真夜と伽夜が凄んだ時と、同等かそれ以上の圧力を感じた。
「正直、県内も雑魚しかいないからさー、踏み台ほしかったんだわ。やっぱ本気で倒すなら簡単には折れないあんたらでそ。ね?」
「ちょーし乗んなよリンリのクセに」マ
「会ってそうそう喧嘩すんなよあんたらさー」ユ
「ユーリも売られてんだからなー?」カ
「おー、君が私の代わりの5人目? がんばってね? じゃじゃ馬しかいなから」
バシッ
ポンっと肩に手を置こうとした所を伽夜が弾き飛ばす。
「うちのキャップにさわんじゃねーし」
やれやれといった表情で、凛理はカウンターに向かう。店長はこのメンバーのやりとりに慣れているのか、どこ吹く風だ。小物類の会計を済ませる。
「凛理、帰省中なん?」ユ
「今日だけねー。ちょっとひと騒動あってさ、メンバー半分集まんなくて1.2年の練習休みになっちった。あはははは!」
「でもやっぱあんたらのほうが歯ごたえあるわ。絶対。向かい合うだけで分かるしこれカンだし。優里、もうあっしのほうが点とるかもよ?」
「そかー。でもこの前久々でスリー半分くらい入ったぜー。あっはっは!」
「……。実は知ってるわ。知り合いから通信きたし、啓誠館っしょ?」
店を出る間際、またギンとした視線を今度はハナに向ける。
「ハナ、ソツギョーしたら、うちらでピュアホワイツを優勝させようねー? この落ちこぼれ3人はほかっといて」
「ぷっ 何こいてんだよ才能無いリンリちゃんよー」
「才能無いのは真夜じゃん? ま、じき嫌でも分かるっていうか? じゃねー」
言うと手を上げて出て行った。
「あームカツク」 「ハナあいつのマークあたしな」
「皆の昔馴染みだったんだね。でもなんで仲悪いの?」
「知ってるだろー。リンリだけ中学から私立だった」
5人のいたアカデミーチーム。同じ地域に住む仲間、中学に入っても5人で地元に進学して、バスケ部へ入ろうと、意気込んでいた。ただそれには、5人のある共通意識があった。
”バスケは楽しくやる。それ以外も。マルチな個性を伸ばせ”
アカデミーのメンバーが集まった時、ハナの父親は優しく語りかけたという。
「あ、それ、私もハナちゃんのお父さんに会った時に聞いたことある」
――でも漠然としてて、深い意味があるのかは分からなかった。
おそらく当時小学生のメンバー達は言葉の一つ一つの意味など理解していなかっただろう。ただハナの父の言うように付いて行けば、自分達は楽しんで成長していける。そういう感覚だった。
5人で中学以降も同じチームでバスケをすると皆が思っていた。しかし土壇場で凛理はバスケに特化して打ち込むために、バスケの強豪私立に進路を変えた。
自分達はハナの父の教えを守ったから、楽しくやった上で強かった。だが皆と同様、高い技術を持った凛理は楽しくやるバスケを捨て、故郷を離れてまで本気で追及するバスケを目指した。それを真夜と伽夜は裏切りと受け取っていた。
全てを捨てて何か一つ特化して入れ込むことはハナの父の教えに反する。故に真夜、伽夜は啓誠館の特待生を毛嫌いして挑発していた。
別に強豪校へ行かずとも、仲間内で上手くも強くもなれる。双子のその考えに対し、凛理は、環境が人をさらに成長させると説き、地元を飛び出した。
優里とハナは、考えは人それぞれだとして、あまり気にはしていないようだ。ただし2人とも真向から挑まれた勝負は引く気はない。凛理の場合は、自分が抜けただけでバスケ自体を辞めてしまった真夜、伽夜、優里に反感を持っているようだ。
「そうだったんだ。たしかに全中のベスト5にも入ってたけど、2人と比べてどうなの?」
「3年の差があるし? うちらも兄貴と遊んでたけどさー。あとガタイみたろー。リンリのほうが大きかったし」
「ちなみに凛理はもうU-17代表候補に上がってる」 「すごっ!」
本筋は同じ3番、スモールフォワードのようだ。技術面が拮抗すれば、あとは体格がモノを言う。だがその技術も3年の差、双子も兄と遊びでバスケをしていたとはいえ、実戦からは遠ざかっている。それなりの開きがあるだろう。
「真夜、伽夜、優里、そして凛理。この4人とも、メインはスモールフォワード」
「……!」
ハナが呟く。その意味に茉莉は震撼した。スモールフォワードと言えば、チームの点取り屋であることが多い。啓誠館戦でもその片鱗を見せつけた。つまり4人の脅威の点取り屋がチームに居たということだ。
「ハナのパパはいつも言ってるんだ。マルチな特技を伸ばせって。だからあたしらはそうしてる」マ
「凛理もギャルやってんじゃん、あんまいがみ合うなっつのー」ユ
「ギャルって特技だったんだ……」
「おいおいマツリンギャル舐めてんぞー」
「しゃーねーじきにマツリーも分からせるべ」
「父の考えが全てとは思わない。でも皆、これまでそれで失敗してないから……」
ハナが申し訳程度に言う。
「一つのものに特化したやつってさ、例え一時世界一になれるかもしれないけど、それがダメになったら再起不能じゃん? そんな連中これまでザラにいたし? せっかく取った金メダル売り払ったりとかさ」
「そう。だから幡清堂は選手、アスリートとかのセカンドキャリアの育成にも力を入れてて――」
「もういいだろー、この話はさー。バカリンリのせいで超サガルわー」
鈴木凛理は因縁の相手となりそうだ。先ほどのセリフから、凛理はすでにハナの父の会社の実業団、幡清堂ピュアホワイツ入りを目指していると見ていい。
そして永葉学園も啓誠館と同等かそれ以上に強い。最近では全国への切符を手にするのは永葉が多い。
▼
彩川家に到着する。階は下の方だったがタワーマンションだ。部屋に入るといくつか写真があった。双子より圧倒的に大きい男性がいた」
「あ、これお兄さんなんだね。かっこいいね」
「おいおいマツリン兄貴が気に入ったんかー?」マ
「やめとけ兄貴はー。バスケ馬鹿すぎるし脳みそまでバスケボールでできてるし?」カ
「それ空気しか入ってなくね?」ユ
皆でDVDを見た。NBAのものだ。3ギャルはくつろいでお菓子をボリボリ食べだす。ハナは今週の練習の内容を確認しながら、同様の動きの部分をリモコンでコントロールしながら解説する。
「おいこら、3人、こっちをみんかい」
ハナが振り向く。いつのまにか3人ともDVDを見ずに、伽夜と優里は携帯端末を食い入るように見ていた。凛理の夏のプレイをみているようだ。真夜は兄の部屋から持ってきた学生バスケの雑誌をめくっている。先ほどのやり取りで少し火がついているようにも見える。
「ま、やる気出すならいっか」
「どんな感じなの?」
実はそちらも気になっていた茉莉が聞く。
「パワーエグイっていうか? チャージングぎみだけどPFをふっとばしてる」カ
「お菓子食いまくってデカくなるしかないわー。リンリの奴169cmだってさ。2cm負けてんじゃん? ケツもしっかりしてたし。ボリボリボリ」マ
「ええ……」
その後解散となり帰宅した。茉莉も気になって、昨年全中の動画を見てみた。そしてその個人スキル以上に驚く。凛理の動きは真夜と伽夜にそっくりだった。いや、それに加えてパワーまでも備わっている。
――だからジムのトレーニングをかなり重視してるんだ。
少し前。
「でも、どうせお菓子ならこっちのほうがいいよ。糖質の分解が効率的なんだって」
「え、なんでマツリーそんなんしってん?」
「ああ、お母さんが栄養士だから小言を言われてるうちに覚えちゃって」
「……。ほぅ」マ
「え、なに?」
「ひょっとしてこの前ハナが言ってたのチキン食えって食事メニューマツリンが考えたんかー? なんかマツリンサイズの割に当たり負けしないしスタミナもあるとか思ってたけど秘訣は食べ物だったとか?」カ
「そう。あんた達が食事でもパワーつけるように考えてもらった。大袈裟に変える必要はないけど、食事は毎日の積み重ねだから少し変えるだけでも大分違って来る。フィジカルは強力な武器になる」
「みんなに勧めるためだったんだね」
「じゃー簡単にスレンダーナイスバディになれるメニューでヨロー」マ
「そんなの無いと思う……」
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