第15話 K-8

 松下も驚愕の表情だ。無論、今のオフェンスに対しての驚きではない。つまり、真夜と同じオフェンスが出来る者が2人いる。その事実と脅威に対してだ。


 それすなわち、双子だ。


 相手は速攻を仕掛けない。打合せ模様だ。タイムアウトもありえる局面。


「伽夜ちゃんも、なんだ……」


「ふふーん。今からアタシが一番点取るもんねー。つーわけでマツリンセンターね」


「ええええ!?」


「勝ってに決めんなし、あたしが松下ちゃんから喧嘩売られてんだぞー。あたしに決まってんじゃん」


「アタシも7番に喧嘩売られてんだけど?」


「伽夜先に売ったほうじゃん?」


「じゃ、私がセンターやる。好きにやりなよ」


「ええええええ!?」 「マツリンきょどりすぎー」


 啓誠館が攻め上がってくる。ボールはやはり松下だ。


 !?


 真夜と伽夜がいきなりダブルチームに行く。いや、ダブルチームではないが、ハナが好きにやれと言った手前、2人同時に松下へボールを奪いにいった。


「ああー!? ざっけんなよカヤー」


「やりあってろー ボールは貰うしー」


「くぅ!」


 いきなりの双子ダブルチームに反応が遅れた松下は一気にライン際まで追い込まれてしまう。苦し紛れにパスを出す。伽夜の手に当たった。そのままキャッチし、あっという間に駆けあがってしまう。グンッと加速した。


 ――プッシュクロスオーバー! 真夜ちゃんと同じだ、伽夜ちゃんも速い! 2人ともほんとに同じスキルなんだ!


「ふふんっ アタシは真夜より活躍すんべー」


 明らかにゴールできる局面でわざとスピードを緩めた。

9番が追いつく。が、


「さわるな!」


 松下が声を張り上げた。9番は両手を上げ何もせず走り去り、伽夜はそのままゴールしてしまう。


 松下は思考する。

 ――――DFを追いつかせてバスケットカウントを狙ってきた。そこまでオフェンスに自信があるのか?


天百合 38-44 啓誠館  6点差。


 ――あ、ありえないよ! 相手は啓誠館だよ、ダブルスコアでも健闘なのに……。


-顧問席-


「これが、お前のチームか。よくわかった」


「ん? 私はなんにも指導してないけど? でもよほどルールを逸脱しない限り、自分たちのやりたいことは極力やらせる」


「……ふふっ あの子たちはね。1年だけど、4人はもう進路が決まってるの。ユージ、あんたってば、毎年引退する3年に、『俺の教えが将来社会で必ず役に立つ』って言ってんの?」


「……。お前には多数の部員生徒への指導経験はない。理想と現実は違う」



 今度はボールを回して、優里の位置から2点を返される。真夜と伽夜は勝手に盛り上がっているが、優里は相変わらずディフェンスをする気は見られない。


天百合 38-46 啓誠館 


 真夜がボールを持ち左を上がっていく。松下は激しいディナイこそやめたが、

依然厳しい。ハナがセンターに居た。


「ぎゃははははは!」カ 「ギャップ! なんだあれ!」ユ 「ぶっ ププッ」


 ハナと7番の体格差を見て大笑いする伽夜と優里。茉莉も思わずつられる。7番のセンターもジト目でハナを見下ろす。しかし他の啓誠館メンバーはまったくスキなく腰を落とし続ける。それもそのはず。明らかな追い上げ攻勢、心中穏やかではない。


 しかも両ウィングに、真夜と伽夜がいるのだ。どちらも鬼のような1on1スキルを持つ。ディフェンスはマンツーマンになった。


「アタシら警戒かー? 外もあるからなー。あっははは!」


 本当か? と、どよめく相手ベンチ。もしそうなら本当に止めようがない。真夜がそのセリフのままジャンプし、3Pを打ちに行く。が、フェイクだ。そのまま真横にパスを出す。


 受けた伽夜が続いてジャンプし3Pを打ちに行く。ディフェンダーも飛んだ。が、これも打たない。さらに横のコーナーの優里にパスを出す。悠々のエキストラパス(※1)だ。優里がジャンプし、3Pを、打った。


 ザンッ


 !!


 審判の指が、3本上がった。


天百合 41-46 啓誠館 


 ――すごい、すごすぎる。こんなオフェンスライン、反則級の強さだよ。


 ピーッ タイムアウト 啓誠館


「オツオツー。さすがに汗でてきちゃったー」ユ


「ハナのセンターマジ笑う。あんなの視界入ったらシュート外すわー」マ


「う、みんなほんとにすごい、ありがとう、ありがと」


 茉莉がなぜか涙目になっていた。休部寸前からのこの盛り上がり、感極まった。


「おいおいマツリンしんみりかよー」カ


「やっぱ負けとくかー? 勝つとマツリン号泣しそー」マ


「ええええ? そんなのひどいよ!」


「「あははははははは!」」

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(※1)よりフリーの選手へのパス。

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