第15話 Love,

「いったんここでさ、落ち着こう。おたがいに」


「うん」


「俺は、たぶん、あと三十分ぐらいは、ここを動けません」


「はい。えっと。どうしてですか?」


「あなたが飲み物を挟んだからです。脇と股間がびしょびしょです。これでは乾くまではずかしくて動けません」


「ごめんなさい」


「扇がないでください。はずかしい」


「ごめんなさい。早く乾けばいいと思って。のどかわいた」


「あ、飲むんだ」


「え?」


「いえ。どうぞ」


「おいしい。飲みますか?」


「ありがとうございます。あの、なんでこんなにたくさん買ったんですか?」


「あなたの好みの飲み物が、わからない、ので」


「そうですか。水が好きなので水をいただきます」


「どうぞ」


「おいしい。でもちょっと複雑」


「股間に挟まってたやつだもんね」


「やめて。それは言わないで」


「ごめんなさい」


「なにが」


「今日私ずっと、下品なことばっかり」


「女子高って、そういうところじゃないの?」


「まあ、下品ではあるよね」


「知らなかったな、ぜんぜん。お互いのこと」


「うん」


「知っちゃったな」


「うん。知っちゃった」


「ひとつだけ。とりあえずひとつだけ、いいですか」


「どうぞ」


「おにぎり。毎回思うけど、おいしい。だんだん、上達してる。昨日のやつも。おかか二つだったけど、両方とも、均等におかかが配分されてた。おいしかった」


「ありがとうございます」


「もうひとつ。やっぱり、もうひとつ、いいですか」


「どうぞ」


「捨てないで、ほしい。捨てられるのが、こわい。めまいで倒れてしまうぐらい、こわかった。こわい」


「わかりました。捨てない。捨てません。ここにいます。私からも、いいですか?」


「どうぞ」


「捨てないで、ください。私を。おねがいします。おねがい、します。普通だから。私は。取り柄が、ないんです。捨てないで」


「似た者同士だったんだな」


「知らなかった、から。おたがい」


「今更知らなかったふりするのは、無理だろうな」


「できる」


「え?」


「捨てられたくないから。私は。なんでもする」


「じゃあ、ひとついいですか」


「はい」


「くっついて泣くのを、やめていただけると助かります。脇だけじゃなくて、胸もびしょびしょなんですが」


「あ、ご、ごめんなさい」


「知っちゃったけど。お互いのこと、わかっちゃったけど、それでも、知らないふりして、明日からも、いませんか」


「それは」


「分かってる。知ってるし、理解もしてる。それでも、たぶん。このままだと、お互いに、日常に、戻れなくなる」


「そう、かもしれない」


「だから、いったん、ここでストップして。日常に、戻ろう。いったん。応急処置で」


「わかりました。でも、次の予定だけは。おねがいします」


「わかりました。では、連絡先を交換しましょう」


「はい」


「そういえば、交換」


「してなかったね。私たち」


「なんか、ばかみたいだな」


「ほんとね」

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