鳴き叫ぶ数多の声

風に軋む木造の役場では

総務課の職員が

ヤマタノオロチの赤ちゃんの

世話に奔走していた

子供はおろか伴侶さえいない

若い男にはちと荷が重い


保健所に見放され

飼い主も見付からず

かといって

こうも甘えるヤマタノオロチを

見捨てるわけにいかなくて

母性かどうかも分からない


不公平に鳴くヤマタノオロチ

顔はたくさん胃はひとつ

あやし方とんと分からず

抱き上げ一時、鳴き止むくらいで

ほとんど一日中、鳴いている

男が弱音を吐くと

ヤマタノオロチも鳴き立てる

いっそ、自分探しの旅に出たい


突然吹き込む強い風

開け放たれた玄関に現れたるは

ビニール袋を携えた

健康福祉課のお姉さん

開口一番、飼育の手伝いを申し出た

若い娘は食われるやも知れぬと言って

近付きもしなかったのに、どうしたことか


先輩風吹かせにきたのよ

と、お姉さんは訳の分からぬことを言うと

ビニール袋から取り出した

歴史書を紐解き

ヤマタノオロチに読み聞かせを始めた

するとヤマタノオロチは

心地よさそうに聞き入っていた

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