おそらとねこ

月明つきあかりのない夜に、街灯がいとうのない道を

頭のイカれたマジシャンが

頭を空っぽにして

歩いていた


大怪我おおけがわせたアシスタントや

野次やじをとばした観客かんきゃくのことなどは

もう頭からすっかりけ落ちていた


突然、彼の目の前を

一匹いっぴき黒猫くろねこ横切よこぎった

彼には見向きもせずに

暗い路地ろじだけを見詰みつ

そこへ向かっていく

それが気にさわって、彼は、猫に声をかけた


いいか、お前は、スリートゥーワンで、この世から消えるんだ


しかし黒猫は

振り向くどころか

耳さえ動かさなかった


その時、地球の反対側で

心穏こころおだやかな人殺しが

空の向こうへ消えた


事後処理じごしょり休憩きゅうけいにと

喫茶店きっさてんへと向かう道すがら


一匹の白猫しろねこ

甘くのどを鳴らしながら

彼の足に頭をせた


その瞬間

彼は

何かにりあげられるように

ちゅうに浮き

ものの数秒で

空の向こうへと

消えた


つんざくような

絶叫ぜっきょうも、一瞬で

真っ青な空にみこまれ

あとに残るのは

何事なにごともない風景

そればかり


ただ空は

くもを流し、太陽を設置せっちして

いつものように

大口おおぐちけているだけだった

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