欠片

こごえる道を歩いていると

ほほに熱を感じて

火のでもかぶったのかと

手を伸ばす


泣いた覚えはないのに

頬がれていた


はて

何か悲しい事があったかと

顔を上げる


空には月が出ていた

月はわずかに欠けていて

満月まんげつに少しヤスリをかけたら

ああなるだろうか

なんて考えていると

空の向こうからはらはらと

細かい雪が降ってきた


一見いっけんくもなどないものだから

この雪は月の欠片なんじゃないか

なんて思えてくる


落ちかかる雪を

てのひらに受けてみると

やっぱり

一瞬いっしゅん

あつくって

まるで誰かの涙を受けたみたい


はて

泣いてるのは誰だろう

顔を上げる


月は悲しげにれているわけでもなく

歓喜かんきしてかがやいているわけでもなく


夜空にそっとりついて

ヤスリをかけられたみたいに

僅かに欠けて

自分の欠片が落ちてゆくのを

ぼんやりと

見下ろしていた

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