第13話 夫婦喧嘩?にはさまれて

 ローマなのに、なんでこんなとこで食事しなきゃなんないんだろ。

面倒な面々と。 

どうやったら この人たちをまけるのだろう。とか思いながらパスタを食べてると、

 私の左隣の「鉄関係」奥さんが 私の右隣のご主人に

(ヤバイ、そもそも なんで私 こんな席に座ってる?!)


「これからどうする?」と聞いています。


右を向くと、ご主人 ビール飲んで 奥様のほうを向くでもなく

「べつにどうでもいいよ」 あ、その返事はアウト! と 

左を向くと 案の定 奥様やはりお顔が険しい。


「どうでもって、少しは自分で考えたらいいのに、いつもこうなんだから」


「うちもいっしょですよ」と笑ってフォローしたつもりだったけど、

油を注いだみたいで、


「ほら、こぼして、左手使わないから下にぼろぼろ落とすし‥」


「それも うちとおーんなじ。」とまずは奥さんの気持ちを受け止め

(実際、私も日頃頭に来ていることなので、奥さんにものすごく共感して)  

でも 

ご主人も とってもお気の毒。


文字通り間に入って、どうにか話題を変えたい。


他の人たちは聞こえてるのか知らないふりをしているのか 他の話で盛り上がっているようです。


私の困惑、狼狽を知ってか知らずか彼女は続けます。


「この人ひとりっこでしょ、なんでもやってもらって育ってきて、

おかあさんがね、何もしつけなかったんですよ。私の家はねうるさかったですよ。きつく言われましたよ、食事の時は。それがこの人にはないんですよ」

“うちもおんなじです”と私。


「よそに行って恥をかかないようにと思っていろいろ言うのに、そういう気持ちがぜんぜんわからなくて、‥‥」

“うちも一緒です”阿呆のように繰り返す私。


ご主人の方を向いたら 

苦笑いしながら「ご主人放っておいてあげてくださいよ」と。

 そうだろう、言われたくないよね、こんなふうに。


家では同じこと主人にうるさく言ってるけど、でもここローマだから。。。


 この奥さん、ご主人の家に嫁いで30年間同居して、

後半18年間は、お姑さんを介護してきたっておっしゃってたっけ。

この4月まで ずーっとご主人のご両親と暮らしてきて、

ご両親の前でご主人に言いたいこともいえなかっただろう。

 

介護が長くてゆっくり家をあけることなんてできなかっただろう。

今年急に介護する人もいなくなり、娘さん達が、立て続けに結婚、

そしてその結婚式に臨むための海外旅行。

 その結婚式も無事に終わって ほっとされたところ。


ご主人のことを ここまで人前でぼろくそに言い放つ心境が

なんだか理解できてしまう。

異国で 見ず知らずの後腐れのない私にぶつける気持ちが。

 

だから ご主人も穏やかに笑って聞いてるのだ。


腰をすえて話し聞いて徹底的にすっきりさせてあげたい気もする。

でもここはローマ。 私には限られた 貴重な時間です。


「少しは反省してもらわないとね、夫達には。」と言ってから話題を変えた。


「ご主人様には、これから行くブランド通りは辛いですよねえ。」


「あー ぼくはここで帰りますよ。ホテルに」とご主人が答えたらすかさず

「ひとりで帰れるの?」と奥さんが言って「迷うんじゃない?」と続け


「だいじょうぶだいじょうぶ」とご主人が答え、

奥さんの妹さんがこれまたきつい、

「どうせ大周りしてホテルに着ければいいがな」

かわいらしい顔して涼しく言っちゃうのですね、これが。


「地図持ってるの?」などしつこいやりとりが続く中、

私はにこにこ笑ってるのが精一杯。


ひとりっこの甘えた夫に 手を出しすぎた結果なのですよ。

横から見てると それがよくわかる。

ご主人が人任せなのは、ご主人だけの責任ではないね。


優しそうなご主人なのに かわいそー。

よそのご主人には寛大になれるのね。


そういえば、今朝 添乗員Sさんが言ってたことを思い出しました。


 「ホテルに近いサンタッジェロ城が好きなところです。

お城に登ると上からテベレ川、ローマ市内が見渡せてすばらしいです。」


ご主人にその通りお教えする。

「ホテルに近いならぼくそこ行ってみるわ」

なんかとてもいいことをしてあげたような気分になりました。


 添乗員Sさんに この旅で初めて 素直に感謝しました。

 

「では、ショッピング街のあたりまでご一緒しますか。」


   さあこれからみなさん残りわずかなローマを満喫しましょう。

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