第5話  フィレンツェ市内観光

  11時にホテルロビー集合。ツアー参加者みんなで市内観光に出かけます。集合時間に遅れないようにと緊張する。結構余裕持っていくのに、なぜか もうみんな揃っている。


「日本人、まじめっていうか 肝っ玉小さいというか。。。」ふーこさんのつぶやきに、共感してしまう。


では、出発しましょう!と徒歩でぞろぞろ出かけます。 フィレンツエの街中には観光バスは入れません。

 いつのまにか現地のガイドさんが 合流してました。日本人女性、60才くらいかなあ。

「はい、イヤフォンのスイッチを入れてくださいね。」


私たちはスキポール空港でイヤフォンを渡されていました。ガイドさんは大きな声をはりあげなくても全員に声が聞こえるのです。他のツアーと一緒でもちゃんと自分のツアーの声が聞こえます。


ベニスで初めてこのイヤホンが配られた時、 ふーこさんが、

「イタリア語が聞こえてくる。」っていうので 二人で音声切り替えするのかなと機械をいじくりまわし、わかんないねえとふと横を見ると、なんとガイドのよんマルコさんが、 イタリア人としゃべってる声が直に聞こえてだけでした。


 昨日からお店を探しながら焦って近くを走り回っていただけだった花の聖母教会にいよいよ入ります。


サン・ジョバンニ洗礼堂の前でしばし説明タイム。

 洗礼堂の扉のひとつは ミケランジェロが天国の扉と讃えたという金色の美しい扉。

旧約聖書のストーリーがレリーフになっている。前でスナップを撮ります。でもこれ本物ではありません。え? 「本物ってどこにあるんだろうねえ。」


いよいよサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂に入ります。

ドゥォーモの内部は、あー、もうなんというか、古代の建築家に脱帽。

 いまだにこのクーポラの建て方って謎なんだそう。13世紀末から建設が始まって偉大な建築家たちの総力によって、最後のドームが完成したのは、15世紀半ばだという。

すかさずふーこさん、「鎌倉時代だよ、日本。。。」「戦国時代に日本何やってたんだか。。。」

「でも 日本は お城があるよね。あれも結構すごい。」

「まあね、でも この高さ、信じられないよ。」

おっしゃる通り。

「それでさ、ブルネレスキが作ったんだよね、ミケランジェロが設計したんじゃなかったっけか?」」ふたりとも、何聞いてたんだか。

 「まあ、いいじゃん、正確な美術史とか建築史はともかく、庶民をはーっと平伏させる威力は たいしたもんだよ。」

「古代に学べば不可能はない。」ふーこさんはつぶやいたものでした。

誰のことばだったけかなあ。

 

イギリスに暮らしていたとき、休暇にどこに旅行したらよいかを尋ねたら

「イタリアはこどもたちが退屈するよ。美術館ばかりで」と忠告(?)してくれた人がいたけど、それを鵜呑みにした私はアホでした。

 こどもたち連れてきておけばよかった。

 人間の無限の可能性をわかりやすく形として目の前に見ることができるのだから。


 クーポラに登っている人たちがものすごく小さく見える。内部を登れるんですね。ジョットの鐘楼より登りやすいようにおもったけど、やっぱり 相当にくたびれるかなあ。

 

ふーこさんはぺッタンコの靴をはくなんて死んでも嫌というキャラなので、彼女の華奢な靴ではこの階段は無理でしょう。

今回はやめとくことにする。 次回があるかどうかわからんけど。

 そのかわり(でもないか)ふーこさんは 亡くなったばかりのお義母さまを思って、蝋燭をともしましたよ。50セントでした。


 ドゥォーモから出て次に案内されたところは なんと日本人経営(だと思うけど、だって店員さん全員日本人だったような)の免税ショップ。

ツアーお決まりのショッピングタイム。ウフッツィ美術館の予約時間までの20分だけ。

「こういうのって 絶対ガイドさんや添乗員さんにメリットあるんだよねえ。」と言いながら ふーこさんは ネクタイ何本か ゲットしてました。


シニョーリア広場までの古い狭い路地も雰囲気あります。

なにげない普通の家の壁にも宗教画が描かれている。病気とかで教会まで行けないという時には 近場のここでお祈りをしたんですって。馬をつないでおく金具もそのままついています。

 

シニョーリア広場に着きました。

ミケランジェロのダヴィデの像があります。でも これもコピー。 最初はミケランジェロの意思でこの広場に置かれたそうですが、本物の像を保護展示するためにアカデミア美術館を作ったとのこと。


ウフッツィ美術館に入ります、予約をとってありますが、それでも行列に加わります。

その列に並んでいる時にふと気がつくと東京添乗員のYさんが横にいました。

そして、

「昨日は大変でしたねえ、 私もまんまとやられたことがありました。」と話しかけてこられました。

「友達との私的なスペイン旅行だったんですけどね、もう添乗員してたんです。だから友達にも気をつけなさいよって偉そうに注意しててね、その私がとられちゃったんですよ」

そう言って面白おかしくエピソードを話してくれた。


何気ない会話でありましたが、 このときYさんは ふーこさんの気持ちをひきたてようとしてくれていたのだと思いましたね。

「東京の添乗員のほうが人間できてる。」とはふーこさんの弁だけど、自分に面倒がふりかからなければ 大方の人は寛大であられます。


いよいよ美術館の中に入ります。 

3階の廊下には、アグリッパをはじめ、アウグスツスやシーザーの胸像やら すごい彫像がずらっと並んでいる。

「アグリッパ、何十回とデッサンしたわ。懐かしい。」と思わず言うと

「そういえば、あったねえ、あそこにも」 


あそこというのは、会社辞めてから 私がアルバイトしていた画廊の事務所のこと。アグリッパなどの石膏像がデッサン用に置かれていた。

「あれは、これかあ。。。 これが原型ということね。 あ、これ本物ですか?」

ふーこさん。そばの監視員に聞いてる。監視員は最初 その意味が分かんなかったみたい。

拙い英語でふーこさんは頑張ってる。


「メディチ家がなんとかかんとかって言ってたけど、ようわからんかったわ。ま、本物なんでしょうね。」

「そうだと思うけどね。。。」

古代ローマが並ぶウフッツィの廊下には、汚れた彫像を洗浄している人もいます。根気のいる仕事ですね。

フィレンツエは美術品の修復の技術が優れているところだそうです。

この廊下から各展示室に入っていきます。


 お目当てのボッティチェリ「春」の美しさに胸を打たれたのをはじめ、フィリッポ・リッピ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、‥‥

 巨匠、天才たちの息吹を確かに感じた気がした。

教科書などでおなじみの有名な絵の本物を目にして、そのエネルギーというか迫力に圧倒されてしまった。 すごいよね、すごいとしか ほんとに言葉が出ない。


 次回はこんなに急がず 絵の前でじっくりたっぷり味わいたいものです。


メディチ家の事務所(オフィス→ウフッツィ) だったところに作品を並べたというのが 美術館の起こりということでメディチ家の栄華は想像を絶するものがあります。  


ガイドさんによると、「今日は運がいいです、こんふうに立ち止まってお話ができることは少ないんですよ。」とヴィーナス誕生の絵の前で。

でも それでも混んでる。足がくたびれたから絵の前のベンチに座りたいけれど、ベンチは同じように動けない人ばかりで 空くことはありません。


「この美術館があるかぎり フィレンツエは安泰だわね。」 

1時間半くらいで必見スタンダードコースを回ったでしょうか、まだまだみるべき部屋はたくさんあるようです。


 「ねえ、見てみて!」 窓から外を眺めているふーこさんが手招きします。

 アルノ川にかかるヴェッキオ橋が見えます。そのむこうにはピッティ宮殿。

ピッティさんという方の館を買い取り、改装を重ねたのがメディチ家のコジモ1世。

やることがすごいよね。事務所であるウフッツィからはるか先の川向こうの自宅のピッティ宮殿まで通路を繋げちゃったのですから。ヴェッキオ橋はその途中にあるのですよ。 ヴァサーリの回廊といいます。 


「もともとあった家や商店をどけちゃったんかしら?」

「雨に濡れないで帰れたのかしら?」 ふーこさんといろんな疑問がわくのでした。


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