ラノベ料理人ドイドイ・ヨーシハールの美読探訪

緒賀けゐす

第1回「年の差ラブコメの天ぷら」

(♪~番組テーマ曲~♪)


『この番組は』


『稲妻食品と』


『ガガガガガ製薬』


『ご覧のスポンサーの提供でお送りします』


(♪)


「――はい、どうもこんにちは。ドイドイでございます」

「アシスタントの鈴木です。ドイドイ先生、今日はよろしくお願いします」

「ええどもよろしくお願いします。ほんで鈴木さん、僕最初に聞いときたいことありますのやけどいいですか」

「何でしょう?」

「鈴木さんもまぁ、テレビに出ずっぱりの人気者なわけやないですか。朝のニュース番組の準備とかやってはるとあんまり自分の時間ちゅうの取れへんのちゃうかなーと勝手に思うてるんですけど、ライトノベルに限らず趣味で本はお読みになられますか?」

「隙間時間に経済系の本だったり芸能人の著作は読んだりするのですけど……恥ずかしながらライトノベルはこの番組のオファーをいただいて初めて読みました」

「あ、でももうお読みにはなりはったんですね。どないなの?」

「学生時代の友達にオススメを聞いて、ソー○・○ート・○ン○インを」

「あーはいはい、まぁ最初ですからね、そういうメジャーなところから入るのがいいと僕も思いますわ。読んでみてどうでした?」

「そうですね……安直ですが漫画っぽいなぁという印象が……(笑)。でもすらすらと読めて、物語に入り込みやすかったです」

「そないならよかったですわ。でも実際のところどうでっしゃろ、鈴木さんならバトルモノより恋愛の方が親しみやすかったりするんとちゃいます?」

「あー、確かに、そうかもしれないですね」

「ほなら、今回はラブコメでも料理していくことにしますか」

「そんな決め方でいいんでしょうか?」

「料理に限らず、物事は全部そないなもんです。好きになる、親しみを持つためにはまず自分の好きなところから入る。それがその人にとっての王道なわけですから。ほな行きましょか」


  *  *  *


「ということでドイドイ先生、本屋に移動してきたわけですが」

「ええ、ここで今日の材料を探します。ここの本屋さんは新作ライトノベルの揃えがよくてですね、例えるならラノベにおける豊洲ですわ。まぁ代謝が良すぎるというのもね、古いの見っけるのが大変なるんで必ずしもいいこととは限りまへんのやけど」

「そうなんですね~」

「とりあえずはライトノベルの棚に行って、新刊漁ってみましょか」


「わぁ、色んなキャラクターの表紙がありますね~」

「鈴木さんは表紙買いされるクチですか?」

「どー、ですかね~……結構決めたものだけ買うタイプなので、ほとんどしたことないと思います」

「なるほど……あのね実は表紙買いっちゅうんはね、感性を開拓するのに一番ええ方法だったりするんですよ」

「へぇ、それはどうしてですか?」

「あらすじで買うと、どうしても自分の好きそうなものの中での当たり外れしか読まないでしょ。でも表紙買いだと、自分の視野の外の作品に触れられるんですわ。内容で楽しむいうんも大事ですけど、目でも楽しむ。それこそがイラストの付いたライトノベルらしい楽しみだと私は思います」

「なるほど……」

「さ、ラノベの棚に着きました。ほなら鈴木さん、別に表紙買いでなくてもええですから気になる作品探してみてください」

「分かりました……先生、これはどうでしょうか?」

「どれどれ、あー『死に戻った幼馴染みがシンプルに怖い』ですか。これは去年のかくラノでも高評価でね、人気のある作品ですわ。重版もしてはるし」

「へー」

「でもねぇ。読むだけならええんやけど、料理するとなると中々手強いんですわこの子」

「手強い……?」

「キャラクターはしゅっとしてはってええんやけど、設定の骨組みが入り組んでるんですわ。そこの下処理が難しくてね。弱火でじっくり煮込んでストーリーを柔らかくした後に一本一本抜いていくんですけども、これが老眼には辛い作業でして」

「それじゃあ今回は保留にしましょうか」


『ドイドイ先生と共に本を探す鈴木さん。ここで新刊コーナーで何か見つけたようです』


「先生これは」

「おお、それは私も気になってたやつですわ。ええんとちゃいますか?」

「じゃあ、これにします」


「私が今回選んだ作品は、こちらです!」



『年の差ラブコメin砂場』著:中条ボンド

 著:中条ボンド イラスト:若芽

 ――――――

 砂場。それこそが僕、佐城昌樹さじょう まさきにとっての戦場だった。日々城を建て、トンネルを掘り、ダムを建設する……しかしそこに一人の邪魔者が現れた。高山美世たかやま みよ。OLらしき彼女は、あろうことかこの僕に砂場でバトルを仕掛けてきた。そしてどうにも、彼女は僕にただならない感情を抱いているようだが……?

 ――――――



「……はい、というわけでドイドイ先生、キッチンにやってきました」

「来ましたねぇ」

「それで、まずはどうするんでしょう」

「もちろん――読みます」

「あ、最初は読むんですね」

「まぁ当たり前の話ですけどね、読まないとこの本がどんな内容でどんな素材なのか分かりませんから。まずは一回、さらっとでも目を通しましょう。スタッフさんにもう一冊買っていただいてはるので、二人でそれぞれ読んでいきましょか」

「だからスケジュールを一日押さえられたんですね……(笑)」

「そういうことです(笑)。一回向こう移動して、そっちで読みましょう」


『席に着き、黙々と読書を始めるドイドイ先生と鈴木さん。読書開始から二時間、最初に読み終わったのはドイドイ先生。そしてすぐに、鈴木さんも読み終わりました』


「――読み終わりました」

「読みましたか。それじゃあ先に、鈴木さんの方から感想喋ってもらいましょか」

「そうですね……まず主人公の男の子が高校生ということでしたけど、そんな年の子が砂場で遊んでいることについての理由付けが微妙かなって……」

「ああ、それは確かに引っかかるところかもしれませんね」

「先生は大丈夫だったんですか?」

「まぁ、作者にとって重要じゃないことなのかなー思いましたんでね。そういうものとして読みました」

「そうですか……」

「いやいやそんなに落ち込まないでください。鈴木さんの感じたことをしっかり言ってもらった方が、私としましてもこの後料理しやすいですし。ほなら鈴木さん、先にちょっと作業してきてええですか?」

「ええ大丈夫ですけど……」


『おもむろにラノベを手にキッチンに消えるドイドイ先生。しかし、すぐに戻って来ました』


「お待たせしました、じゃあ続きお願いします」

「はい。ヒロインの高山さんはとてもかわいいなと思いました。主人公に対して行為としか思えない行動を取ってみたり、はたまた遊びには真剣な表情を見せたりと感情がコロコロ転がるのは良かったです」

「はいはい。スーツのジャケットを脱いで本気で取り掛かるけど、終わる頃に濡れて下着が透けてるところに気が付いて赤面するところとかね。あそこの若芽先生の挿絵はええもんでしたわ」

「あとは……単純に読んでて私も砂場で遊びたくなりました」

「ええですよね。自分も年甲斐も無く砂場行きたくなりました」

「とりあえずはそのくらいかなぁと……先生の感想はどうでしょう?」

「ま、だいたい鈴木さんと同じようなもんですね。加えて料理人としてコメントしますと、ラブコメの部分はほとんどオーソドックスなものだったんじゃないかなと思います。高校生とOLということで年の差こそありますけど、やり取りそのものはクセのないものやったかな。砂場という場所の特殊性を除けば、雑味が少なくて色々使えそうな素材やと思います」

「というわけで先生、今回のこの『年の差ラブコメin砂場』は、どのように料理するのでしょう」


「今回は――天ぷらでいきたいと思います」


「キッチンに戻ってまいりました。――ドイドイ先生、こちらの新聞紙を被せたボウルは?」

「捲ってみてください」

「はい……あ! 水の中に『年の差ラブコメin砂場』が! 先生これは一体……」

「砂抜きです」

「――砂抜き」

「ほら、ボウルの底に吐いた砂が溜まってますやろ? これが砂場の砂です」

「あ、すごいたくさんありますね。表紙のタイトルも『年の差ラブコメin 場』になってます」

「まぁ、普通より少し塩水を辛くしておきましたんでね、短い時間のわりには吐かせられた思います。これでこの作品のジャリジャリ感はかなり取れたと思います」

「いいんですか? この作品から砂を抜いたら個性がなくなる気が……」

「個性いうのも大事ですけどね、何が大事いうたらまず美味しく食べること。何も臭みとか無駄な苦味とか、そういうのを個性やいうて我慢して食べる必要はありません。この作品についても、砂抜きをすることで淡泊になって、よりラブコメの味がハッキリしてきます。あと、キャラクターのクセが強いときには水にさらしたりさっと湯がいたりしてアクを抜いたりもしますね。今回は大丈夫ですけど」

「奥が深いんですねぇ」

「ホンマどこまでも深いですなぁ……さ、そろそろやいうことでボウルの塩水から取り出しまして、食べやすい大きさに切ります。このとき切る方向は気を付けてください」

「どうしてですか?」

「小説いうんはストーリーあってこその味わいですので、章ごとに切ってしまうと同じ小説でも味がばらつくんですわ。だから序章からエピローグまで、ちゃんと全部が入る方向に切る必要があるんですね。逆に色んな味を別々に楽しみたいんやったら、その時は章ごとに切りましょう」


『切り方ひとつで、大きく変わってしまうんですね~。この後は切ったラノベに衣をつけ、油で揚げていきます。ここでドイドイ先生から注意するポイント』


「燃えるような恋とかもありますけど、ラブコメちゅうんは基本くっつく前の話です。ですのであんまり高温で揚げるのでなく、低い温度でじっくりと心情描写にまで火を通すようにしてください」


『これで、ふわふわの衣をまとったラノベが完成! お皿に盛り付けます』


「味付けは塩だけ……というのもええねんですけど、ここにちょっとひと手間加えます」

「どうするのでしょう」

「これを使います」

「これは?」

「書店でもらってきました、特典SSです」

「特典SS!」

「やっぱ作者いうんはうまいもんでしてね、ちゃんと本編に合ったものを書くんですわ。ちょっと読んでみてください」

「はいはい……あ、いいですねこれ! ヒロイン視点からの話だ!」

「視点人物の違う話ってのは、料理のちょうどええアクセントになるんですね。なのでこの盛り付けた天ぷらの上にちょちょちょーっと、特典SSを刻んでのせてあげます」

「見た目もいいですね。それに、若き日々に置いてきた青春の残り香が天ぷらの熱気にのって香ってきます」

「ええでしょ?」

「はい」

「そんじゃ、食べるとしますか」


「はい、では席につきまして。ドイドイ先生、いただきます!」

「はい、どうぞ」

「あーん……うん! 美味しいです! ああ、やり取りの甘い雰囲気が、天ぷらにしてふわふわにほぐれてることでより感じられます!」

「ああそうですか、ほなら良かったですわ。それじゃ僕も……うん、うまくできてますね。ほくほくで甘くて美味しい」

「砂抜きしたからでしょうか、すごい食べやすいです」

「ま、それは素材の良さですわな。地の文が綺麗やと、やっぱりほぐれやすいしストーリーの味に余分なもんが入りませんからね」

「特典SSも、火を通してないぶんそのままの味がつよくていいアクセントに」

「でしょ? やっぱ間違ってへんかった」


「――ごちそうさまでした! とても美味しかったです」

「お粗末様でした。どないでした、ラノベ料理は」

「色々初めて目にすることが多くてびっくりもしましたけど、食べてみてその良さを理解できた気がします。次回も楽しみです」

「おー、そう褒めてもらうと、僕もやる気が出てきますな。ラノベは鈴木さんもご存じのように、ラブコメだけではありませんからね。これから色んなジャンルの本を料理して味わっていきましょう」

「楽しみです……! さて、それでは今回はこのあたりで!」

「また次回会いましょう、さようなら~」



(♪~番組エンディングテーマ~♪)


『この番組は』


『稲妻食品と』


『ガガガガガ製薬』


『ご覧のスポンサーの提供でお送りしました』


(♪)

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