第12話

親父の死から数か月経った。あの間は語るまでもなく最低な雰囲気だった。兄がそろそろ葬儀だなと言い出し俺たち家族は更に落ち込んでいた。しかし葬儀はすぐ終わり、形だけのお別れは一瞬で過ぎ去った。家に帰ると兄がまた口を開いてた。「お金については心配しなくていいから。俺結構貯金あるし。」「ありがとう」と母は言ったがどうもまだ放心状態らしい。そして今も放心状態だ。当然だ。あまりに突然の話だったからな。俺はこの時ひとつ気になっていたことが解けていた。「兄貴がお金援助してたから家族の時間が増えたのか。」そう言うと兄は少し考えた後「そうだよ」と答えた。こんな兄だけど色んな思い出が出来たのも兄のおかげだ。少しは感謝してもバチは当たらないだろう。そう考えていると家のチャイムが鳴った。ピンポーン。ピンポーン。

「お、また来てくれたのか。理香ちゃん。腕治ったんだ、よかった。」彼女は頻繁に家に来てくれるようになった。罪悪感もあるのだろう。彼女は線香をあげると「ありがとう!そうだ!お兄ちゃんお外いこ!」と家を連れ出してくれる。といってもいつも同じ公園だが。外に出ると東山美紀がペコリと頭を下げた。理香の母親だ。家に来て一度線香をあげると家に入らなくなってしまった。彼女も恐らくは罪悪感からだろう。俺と美紀さん、そして理香ちゃんと公園に向かい理香ちゃんは公園に着くと、元気よく走って行った。俺と美紀さんはというとベンチでゆったりと時間を潰している。理香ちゃん1人であんなに楽しそうに…ぼっちの才能があるな…。と考えていると美紀さんは重そうな口を開いた「私、あなたのお父さんには感謝してもしきれないんです。理香がいないと私は…」親としてそれは当然な思いだろう。だが何かが引っかかる。「私は旦那がいたんですが、今は刑務所の中なんです。」「…!」「もちろん離婚しています。でも私は理香に自分のお父さんが刑務所の中にいるなんて知って欲しくなくて、旦那の話になると今ははぐらかしています。いつかは話すつもりなんですが。」犯罪者と言わずわざわざ刑務所の中という表現を使うのは恐らくまだ認めたくないからなのだと俺は思った。だから…「美紀さんはその人のことがまだ好きですか?」そう聞くと彼女は「なにも思っていないと言えば嘘になります。」と答えた。「そうですか」と俺も答えると「一緒に遊ぼ!」と理香ちゃんの声が聞こえた。親父、見てるか。アンタが救った子が今笑ってるんだよ。アンタの守った笑顔だ。俺は理香ちゃんに満面の笑みを見せた。この次の日から俺はまた学校へ行きはじめた。

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