第6話

店に入ると俺は彼女といつもの席についた。彼女はそっと本を開くと俺に構わず読み始めた。えっと目の前に話し相手いるんですけど…もしかして俺人形だと思われてる?俺は「とりあえず何か頼もうか」と話すと彼女はコーヒーを、俺はオレンジジュースを頼んだ。彼女は「あなたもまだまだ子供ね。たまには私と同じコーヒーでも頼んだらどう?」と言われてしまったが俺はコーヒーが苦くて嫌いだ。香りは好きだがあの苦さからかなんだか近寄り難い。そう頑なに自分に言い訳をしていると彼女は「あなたと出会ってもう何日が経ったかしら。最初はあなたのことゴキブリだと思ってたのよ」と難しそうな本のページをパラパラめくりながらそんな酷いことを言われた。でもなんだかそれが、この雰囲気がとても愛おしいと感じたのだ。俺は適当に「はいはい。ありがとうありがとう」と受け流すと彼女は突然「私ね、昔いじめられてたの」とそう言った。だが俺はあまり驚きはしなかった。こんな美女だ、周りの男が放っておく訳がない。差し詰め女のボスみたいなやつが惚れた男が東条に惚れたとかそんな理由だろう。しかし皮肉だ。その一件のおかげで彼女は本を読み始め、俺は彼女と話すきっかけになった。だから俺は彼女のその発言に口を出さずただ聞くしかなかった。彼女は「私にはすごい親密な仲だと思っていた友達がいたの。その子さえいればいじめられていても私は構わなかったしどんなことでも耐えられた。でも彼女は私でなく自己保身を優先したわ。ボス猿と同じように私をいじめ自分を守った。」この人今サラッとボス猿って言ったぞ…「私は親にも言えず1人閉じこもった。部屋じゃなく自分自身によ。それが一番良い選択だと思ったから。でもその結果私は自分の感情を出すのが不器用になった。閉じこもった上にバリアまで張ったのよ。当然周りは離れていった。友達は愚かクラスメイトと呼んでくれる人さえなくなったの。でもそれは今だけ、高校生になればまた…なんて妄想を抱いて遠い高校へ入学したわ。でも結果は変わらなかった。」俺はそんなことないなんて無責任なことは言えなかった。そんな自分を殴りたくなった。しかし彼女は「あなたに出会うまでは」と俯いたままそう言った。「あなたは今も私の鬱陶しい自分語りを聞かされてうんざりするどころか私のためにって何かを考えてくれてる。」目を見開きぱっと彼女を見ると「よかった。やっぱりそうだったのね。」と目に涙を浮かべて笑った。心から安心したそんな美しい笑顔だった。

「あのね  君。私あなたに出会えて本当によかった。それでよかったら付き合ってくれないかしら」

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