第6話:魔獣
「気を抜くな、敵は狡猾だぞ!」
不意を突かれてしまった、油断大敵とは正にこの事だ。
最下級の男爵であろうと、領主として責任があるのだ。
ここで殺されてしまったら、残された領民が大いに困ることになる。
それに、ここで魔獣を防ぎ止めなければ、城壁修理が終わっていない古い小城でしかない領都は、簡単に魔獣に蹂躙されてしまうだろう。
それにしても、魔獣とは思えない狡猾な攻撃をする。
こちらが攻撃に出て形勢を逆転させようとすると、直ぐに後退してしまう。
こちらが体制を整えようとすれば、無理押ししてでも邪魔をする。
その駆け引きは、とても本能だけで動いている魔獣とは思えない。
まりで人間が指揮しているようだが、そんな事があり得るのだろうか?
「男爵閣下、このままでは背後に回られてしまいます。
私が攻め込んで時間を稼ぎますから、閣下は兵を纏めて後退してください」
騎士の一人が決死の覚悟で突撃してくれようとしています。
もしこれが成功すれば、わずかな時間を稼ぐことができるでしょう。
ですが、人間の言葉を理解できる魔獣がいたり、人間が指揮していたりするなら、この言葉を理解していったん後退するはずです。
言葉で指揮するのは危険かもしれません
「おい、次からサインで指揮するから、おいと言ったらこちらを見ろ」
私はそう言うと同時にサインによる指示をしました。
戦闘の最中にいちいち後方を振り返ってサインを確認するなど、無駄で危険な事なのですが、敵の裏をかかなければいけない時に必要な事です。
普通の貴族が持つ領軍では、ここまでの訓練はしていませんが、父上が大将軍を務めるゴルドン伯爵家の騎士は、王家騎士団を上回る練度を保っています。
ゴルドン伯爵家から私に付けられた騎士も徒士も、同じように高い練度です。
そうでなければ、魔獣たちに不意を打たれた時に全滅していました。
「閣下もおかしいと感じておられたようですね、こいつらはずる賢過ぎます。
どう考えても普通の魔獣じゃない、誰かに指揮されています。
そうでなければ、魔獣が連携を取って攻撃するはずがない」
騎士の一人が確信をもって言い切ります。
他の騎士も徒士もうなずいています。
誰ひとり無傷の者はいませんが、致命傷を負った者もいません。
彼らの獅子奮迅の戦いぶりは、当主として誇らしく思います。
まあ、彼らを鍛えたのは父上ではありますが、愚かな領主なら、わずかな期間であっても、彼らの忠誠心を失う事もあるのです。
少なくとも私は、彼らの忠誠心を維持できる領主です。
「おい、やるぞ」
私は彼らに呼び掛けて、次の作戦を命じました。
ハンドサインですから、言葉が理解できる魔獣がいても、指揮する人間がいても、もう私の作戦を知る事はできません。
次こそ魔獣どもに思い知らせてやります!
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