第2話:厳罰

「ウラント公爵家長男スルト、その所業は貴族として許し難し!

 よって貴族の権利を剥奪し、庶民として神殿奴隷とする。

 この事はウラント公爵キレル卿も納得の事である」


 ウラント公爵キレル卿も、流石に今回の件では息子を庇いきれませんでしたね。

 ですがそれも当然です、ひとつ間違いがあれば、スルトの子供がリャノン公爵家の後継者になっていた可能性があるのです。

 今回は莫大な賠償金ですみましたが、リャノン公爵ジリド卿が強硬に出れば、スルトをこの場で殺すことになっていたでしょう。

 奴隷に落とされるとはいえ、命が助かっただけでも運がいいのです。


 いえ、リャノン公爵ジリド卿が若ければ、公爵家同士の戦争になっていました。

 その時は、全ての王侯貴族がリャノン公爵家の味方をしていたでしょう。

 こんな破廉恥な方法で家の乗っ取りを図ったのです、誰もウラント公爵の味方はしませんし、水に落ちた犬は叩けの諺通り、全ての王侯貴族がウラント公爵家を潰す好機と見たでしょう。


 今回はウラント公爵キレル卿がなりふり構わず頭を下げて詫びた事と、王家と有力貴族家に金を積んで味方につけた事、更にはリャノン公爵ジリド卿の怒りが裏切った後妻のギネビアに向かった事で、戦争にまでは至りませんでした。

 ですが、これでウラント公爵家の没落は確定です。


「元ウラント公爵家長男スルトの妻ノヴァ嬢。

 貴女の白の結婚だという訴えは、修道女の調べて証明された。

 スルトとの結婚はなかった事とし、ノヴァ嬢が乙女であることを裁判所が証明するので、安心するがいい」


「ありがとうございます」


 私の実家、ゴルドン伯爵家が今回の件で強硬に出なかったのは、私の今後を考えてくれたからです。

 スルトの妻であった事にして、スルトの不貞を理由にウラント公爵家から賠償金を手に入れた方がいいのか、それとも乙女であることを証明して、今後の結婚に賭けた方がいいのか、私の希望を聞いてくれたのです。


 金銭的な利益だけを考えれば、スルトの妻で裏切られたことにした方が、賠償金は多くもらえたと思います。

 ですが、私は、スルトの元妻と言われる事に耐えられません。

 そんな不名誉な事に耐えられるほど恥知らずではありません。

 ですから、スルトとの結婚は無効であった事にしてもらったのです。


 ですが、それでも、全く賠償されなかったわけではありません。

 スルトとギネビアの不貞を現場を見て取り押さえた、私を味方にする事。

 大将軍の地位にある父上、ゴルドン伯爵カレブ卿を味方につける事は、スルトを助命するうえで大切な事でした。

 だから私に、ウラント公爵家の従属爵位であるブラント男爵位を、賠償金として譲渡すると言ってきました。


 父上はそれだけでは納得されず、激しく交渉され、男爵領に相応しい領地と小古城、更には大魔境の狩猟権を私のために確保してくださいました。

 いえ、本当は私のためではありませんね。

 本腰を入れて大魔境を探索したいと言っておられた父上が、自分の欲望を剥き出しにして交渉されたのです。


 まあ、それは私も同じです。

 腐り果てたスルトとの政略結婚を認めたのも、大魔境で狩りがしたかったからですから、父上の事を笑える立場ではありません。

 今日中に旅装を整えて、明日の早朝には領地に行きましょう。

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