第19話 召喚魔法

 畑の南側にフェンリルが支配する森がある。

 魔物がやってくるとすれば、その方角からだろう。


「ここに一つ小屋を建てても大丈夫ですか?」


 俺は困っていた農家の男性に尋ねた。


「え、ああ、農作業の邪魔にならなきゃ全然構わないが……」


「アルマは小屋なんか建てたことあるのか?」


 ラウルが言った。


「勿論あるよ。でもまぁ今回建てるのは本当に簡易的なものだけどね」


 前世では全て自分の力だけで生きていかなくてはいけなかった。

 ここよりもはるかに過酷な環境で拠点も無しに生活していくのは自殺行為だ。


「へぇ〜、意外だな。あんなに凄い魔法ばっかり使うんだから魔法の勉強しかしてないのかと思ってたぜ」


「中々楽しそうですね! 私、手伝いますよ!」


「へへっ、当たり前だけど俺も手伝うぜ」


「……私も手伝う」


 サーニャ、ラウル、ソニアが快く手伝いを申し出てきた。


「三人共ありがとう。でも今回は気持ちだけ頂いておくよ」


「なんだよ水くせーな。これぐらい気にしなくてもいいんだぜ」


「まぁ見ててよ。──【サモン・ドリアード】」


 召喚魔法【サモン・ドリアード】は木の下位精霊ドリアードを召喚する魔法だ。

 俺が詠唱すると、眩い光と共に、100cm程の小柄な少女の姿をした精霊が現れた。

 緑の髪と樹木のような身体は、木の精霊という名に相応しい。



 [ 名 前 ] ドリアード

 [ レベル ] 20

 [ 魔 力 ] 300

 [ 攻撃力 ] 300

 [ 防御力 ] 400

 [ 持久力 ] 300

 [ 俊敏力 ] 200



「……す、すげぇ。なんか出てきたぞ⁉︎」


「これは召喚魔法……⁉︎ まさかアルマさんは《召喚士》のギフトを授かったのですか⁉︎」


「流石アルマ、ずるい」


 三人の反応に俺は苦笑いを浮かべた。

 この時代だと召喚魔法は《召喚士》にしか扱えないものだと思われている。

 それは魔法を学んでいた俺としても既知の情報だ。


 だが、そんなことは一切なく努力さえすれば取得することは可能だ。

 前世の俺が実証済みだからな。


 ギフトは便利だが、ギフトの力に頼りすぎると人は努力を怠るようになるのかもしれないな、と俺はそんなことを思った。


 そして俺はドリアードに向き直る。


「ドリアード、小屋を建てるための木材が必要なんだ。君の力で集めてくれないかい?」


 そう言うと、ドリアードはウンウン、と首を横に振った。


 下位の精霊は言葉を発することが出来ない。

 だから、このように身振り手振りで答えてくれる。


「あーそうか、運搬役がいないと厳しいか」


 ドリアードはコクン、と頷いた。


「じゃあ──【サモン・シルフ】」


 ドリアードと大きさの変わらない妖精が現れた。

 背中のトンボのような薄い二対の翅で空中を飛んでいる。

 これが風の下位精霊シルフだ。



 [ 名 前 ] シルフ

 [ レベル ] 20

 [ 魔 力 ] 400

 [ 攻撃力 ] 200

 [ 防御力 ] 200

 [ 持久力 ] 300

 [ 俊敏力 ] 400



「シルフはドリアードが作った木材をここまで運んできてもらえるか? これでドリアードも大丈夫だよな?」


 シルフとドリアードはコクリ、と頷いた。


 ドリアードとシルフは森の方へ飛んでいき、しばらくすると加工された木材の山を運んできてくれた。


 精霊の行動の代価は召喚者の魔力だ。

 魔力の量が桁違いな俺と召喚魔法は中々相性が良い。


 俺はドリアードとシルフに魔力を与えると、二人は満足そうに消えていった。


「よし、次は──【サモン・ノーム】」


 次に召喚したのは土の下位精霊ノーム。

 大きさは先ほどの二人と変わらない。

 下位精霊はみんなこれぐらいの大きさをしている。



 [ 名 前 ] ノーム

 [ レベル ] 20

 [ 魔 力 ] 200

 [ 攻撃力 ] 400

 [ 防御力 ] 400

 [ 持久力 ] 300

 [ 俊敏力 ] 200



 ノームはとんがり帽子をかぶっていて、白い髭を生やしており、老人のような見た目をしている。

 どことなく職人のような雰囲気が感じられる。

 ノームは手先が器用で何かを作ることにおいては、精霊の中でも随一だ。


「ノーム、この木材を使って小屋を建ててくれないか? もし石材が必要なら、自分で調達して欲しい」


 そう頼むと、ノームはコクリ、と頷いた。



 そして1時間もしないうちに小屋が完成したのだった。



 ……その間、俺に大量の質問が寄せられたのは言うまでもない。



 しかし、これで悩みはほぼ解決したも同然だ。


 何を隠そう、この小屋は魔物のためのものだ。


 召喚した精霊達のように魔物達にも仕事を手伝ってもらおう。


 そうすれば悩みが解決するだけでなく、農作業の効率はきっと上昇するはずだ。

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