第4話 可能性を発見

 壁に閉じ込められてしまったキースは、その後なんとか救出された。

 そして、キースはこのことを父であるヴァン・フェローズに報告をした。


「キース、貴様……! 何をやっている!」


「も、申し訳ございません。父上」


「ギフトも貰えなかった無能に敗北するとは、貴様もフェローズ家の恥さらしだな」


「し、しかし父上。アルマの実力はギフトが無いとはいえ、並の魔法使いを圧倒するものです」


「ええい、黙れ! ……いや、待てよ。……ふむ、それならばアルマを連れ戻すのも一つの手だな」


 アルマがキースに勝利した、という事実から父のヴァンはアルマの評価を少し改めることにした。

 ギフトの無いことで他の貴族から馬鹿にされることはあるだろうが、実力は申し分ないレベルといえる。

 しかし、その判断がキースは許せなかった。


(アルマを連れ戻すだと? そんなのたまったもんじゃない)


 キースはこの感情が自分の表情に出ているのでは、と我に返り、深呼吸をした。


(ふぅ~、落ち着け。これは俺が対処すればいいだけのことだ。父はきっと、アルマを連れ戻すために魔法使いのエリートを雇うだろう。そうなればアルマが連れ戻される可能性は高いとみていいはずだ)


 父の考えを先読みし、キースはアルマの帰還を阻止しようと考えた。


(そうだ! アルマは確か、これから東に向かうと言っていた。ならば、父にアルマは西に向かうと報告して、俺が東に行けばいいではないか。そして、父の追っ手が来る前にアルマを消す。……ふふ、我ながら見事な作戦だ)


 キースの思惑は、見事に空振りをしていた。


「父上、それならばアルマは西に向かい、ファーミリア王国を目指すと言っていました」


「ファーミリア王国、か。なるほど、確かにあそこは我が国と並ぶ大国だ。帝国にいられなくなったアルマが目指すには絶好の場所と言えよう」


 キースの作り話は、見事にアルマの行動を的中させていた。


「では、ファーミリア王国方面に追っ手を送るとしよう。キース、貴様はもっと魔法の腕を磨いておけ。下がって良いぞ」


「分かりました。もっと精進します」


 キースは父の書斎から出てくると、ニヤリと顔を歪めた。


(待っていろよ、アルマ。この恨みは必ず晴らすからな!)




 ◇




 乗合馬車に乗った俺はエリステラ帝国の西部へ順調に移動していった。

 馬車に乗っている間、考える時間がたくさんあったので、俺はこれからの目標を立てることにした。


 まずは大前提として「幸せになること」だ。

 これだけは見失ってはいけない。

 前世からの目標だからな。


 それじゃあ、どうすれば幸せになるのか。

 俺は幸せっていうものを少し具体的に挙げてみることにした。


 友達を作る。

 結婚をする。

 子供を作る。


 ……あれ?

 改めて考えてみると、あまり何も浮かばないな。


 幸せっていう奴は案外欲張りじゃないのかもしれない。


 それなら今の俺は一体何をしたいのだろうか。


 フェローズ家から無能の烙印を押され、追い出された身である俺は一体何をしたいのか。


 復讐……なんてことをする気は一切起きないな。


 復讐なんてものは、幸せと正反対の行いだろう。


 ……でも俺だって悔しいって少しは思う。

 今までの努力を否定されて裏切られたんだからな。

 見返してやりたいって思うさ。


 ん……? 見返す……?


 そうか!


 なんだ、見返してやればいいのか!


 それなら話は簡単だ。


 フェローズ家が追い出した三男は、実は優秀な人間だったってことを示せばいいだけだ。


 きっと父は俺が成功を収めれば収めるほど、追い出したことを後悔するだろう。


 よし、決まりだ。


 当面の目標は「フェローズ家を見返す」だな。



 ……しかし、目標が決まったはいいものの、所持金が段々と少なくなってきているな。


 この調子ならエリステラ帝国の関門を抜け、商業都市や迷宮都市の多い小国家群に入ることは出来るはず。

 だが、そこからファーミリア王国に行くまでの資金は足りない。

 どこかで金を稼がないといけないな。




 ──そんな俺の予想は見事的中。

 帝国を抜け、商業都市タリステラに到着したところで一度足を止めるしかない状態になった。


 宿屋の店主に2000ゴールドを渡して、ついに所持金はもう1000ゴールドになってしまった。

 困ったな……。



「ん? いや、待てよ」



 宿屋の一室で俺はあることを思い出した。

 俺、自分の能力がどこまで戻っているのか何も確認していないな。

 ギフト《転生者》が発動したときは、もう疲労ですぐ寝ちゃったし、今まで馬車で移動してきて人目があったからそんなこと確認する暇も無かった。


 ということで、前世からどれだけ引き継がれているのかな。


「まずは自分自身に鑑定をかけてみよう」


 鑑定をかけると、透明な板が現れて、そこには俺のステータスが表示されていた。



 [ 名 前 ] アルマ

 [ レベル ] 1

 [ 魔 力 ] 100000

 [ 攻撃力 ] 1500

 [ 防御力 ] 1500

 [ 持久力 ] 1500

 [ 俊敏力 ] 1500



 うーむ、前世通りの魔力しか取り柄のないステータスである。

 それに名前からはフェローズの家名が消えていた。

 本当に勘当されているんだな。

 まぁ今となってはフェローズ家の人間じゃなくなって逆に良かったとも思える。


「……いやいやいや、そんなことを思っている場合じゃない。なんだこのレベル」


 レベル1だ。

 確かに今世ではモンスターを倒したことが無いからそれも納得なんだけど、前世の能力が引き継がれるんだろ?

 だったら、レベルも引き継がれてないとおかしいはずだ。


 たしか前世のレベルは5000ほどだった。

 もうこれ以上強くなるのは難しいと思っていたのだが、これは……。



「もしかして、更に強くなることが出来るのか……?」

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