妖怪コタツムリ
「これがこたつかぁ〜。控えめに言って神だね」
「おまえ、こたつで寝るなよ。せっかく布団だしたんだからな。僕はもう寝るけど、こたつの電源はちゃんと切っとけよ」
「へいへーい」
僕がそう言うと、彼女は薄暗い携帯ゲーム機の画面から目を離すことなくおざなりな返事をする。
彼女にベットを譲った結果、近頃の寝床となっている台所の床まで、定期的にテーブルをバン、と叩く音が聞こえてくる。これがうわさに聞く台パンってやつらしい。確か、やっているのはオンライン対人ゲーだったはずだ。ぼこぼこにされて顔真っ赤状態のようだ。まったくざまあない。あくびをかみ殺して、僕は布団にもぐりこんだ。
朝目を覚ますと、やつの姿が見当たらない。もしやと思ってこたつをめくったら、中には床によだれを垂らしながら、外から入り込んだ冷気にもぞもぞとうごめく妖怪コタツムリがいた。
なまあったかい脚を引っ張って、妖怪を外へと引きずり出す。
「おはよう」
声をかけると、ごろんと仰向けになった彼女はまぶしそうに僕を見上げた。そして目をこすり、開口一番
「ねえ、PCゲーやりたい」
と呂律のまわらない口で言い放ちやがった。なんて厚かましいやつだろうか。つーか当然のように僕のあいさつは無視されたちくしょうめが。
「なんだ急に……」
「対人ゲーって面白いなって思って。特にFPSは操作する人がいるプレイヤーを撃ち殺した時の脳汁が段ちだね」
彼女は伸びをしながらそう言った。背骨がパキパキ鳴っててすごく気持ちよさそうだ。
そういえば監禁されてたから、オンラインにつなげるゲームなんて与えられるわけないよな。最近のゲームなんて、ネットにつないでなんぼみたいなところがあるが、こいつはどんなゲームをやっていたんだろうか。すこし気になった。
「別に他のゲーム機でもオンラインゲームできるだろ」
現に昨日もしてたし。
「えー、でもやっぱり fpsならやはりpc一択、コンシューマーはゴミって書いてあるよ?」
そう言って向けてきたのは僕のスマホだった。そこには「コンシューマーはゴミ!pcが至上!」と太字で書かれた信憑性の定かでない怪しげな個人ブログの記事が表示されている。
それよりも、
「そのスマホ、パスワードかけてあるはずなんだけども」
「昨日、パスワード打つところ後ろから見てたから」
いけしゃあしゃあと彼女は答えた。
「なるほど」
僕は彼女の手からスマホをふんだくる。
「ああっ、私のスマホ」
彼女は手からすり抜けるスマホに悲痛そうな声をあげた。まるで奪い取られたかのような物言いからして、まったく反省はしてないらしい。怖いから後で指紋認証に変更しとこう。
……それにしてもPCゲーときたか。
「PCゲーをやるにあたって、ネット回線は問題ないんだよ」
「おお、この部屋もただの豚小屋じゃなかった!」
あまりバカにするなよ? ここは豚小屋は豚小屋でも各種ライフラインが通ってる豚小屋だぞ。
「今のご時世、ネット環境があるのがデフォみたいなところあるからなぁ。そっちは問題ないけど、スペック的にゲーミングPCがなきゃなあ……」
ソリティアならいくらでもやらせてやれるが。大学の課題用に買った僕のノーパソで彼女が望んでいるようなゲームはとてもとても。
「えー、じゃあそれ買ってよ」
「清々しいまでに図々しいなぁお前は」
「体で払うからさー」
「だから要らないって……」
「えー、ガチ引きはさすがに傷つくんだけど」
だからもう少し肥えてから出直してこいと何度言えばわかるのか。
でも、結局ゲームpcを買わされることになった。しかも結構スペックも値段も高いやつ。
無論、体で払わせたりはしていない。
熱烈な買ってくれコールを5時間ほど続けられた僕は突如「まあ、いいさ。特に金を使う趣味があるわけでもないのだから。」となにかを悟り、ネットで言われるがままにポチってしまった。今では後悔している。
あの時は頭がおかしくなるくらいの執拗な買って買ってコールで精神汚染されていたに違いない。
ゲームpcが届いてからというもの、彼女は毎日モニターに張り付いて元気に台パンしている。
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