マイホーム
ハウザンが帰ったあと、クラフトさん達とも別れ俺達はファストへと移動を再開する。
「………そういえば、ファストへ送り届けた要人って誰か聞くの忘れたな」
まぁ、クラフトさんクラスの護衛を雇うような要人に知り合いなんて、心当たり無いからいいけど。強いて言うなら国王様だが、王都に居るはずだし。
「タクト様そろそろ野営に致しますか?」
気づけばいつの間にか日が傾いていた。
「そうだな、何処か停められる所で野営にしよう」
「畏まりました」
その後は特に何もなく、ファストにたどり着いた。
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「まずはギルドかな」
街に入ると直ぐにギルドに報告に行く。今後の事も話したいしな。
「王都見たいになってますかね?」
「あー、確かに……」
俺もミリーさんも元はファストを拠点にする冒険者。巡礼者が詰め寄せていても可笑しくない。
「………クロノ、ちょっと見てきてくれないか?」
「畏まりました」
念のため先にクロノに様子を見てきてもらう。
数分後クロノが戻って来た。
「どうだった?」
「ギルド長メグミ殿からのご伝言です、裏口から入るようにと」
「あー、やっぱりか」
メグミさんが配慮してくれたようで、裏口からギルド長の部屋に通される。
「ちなみに様子はどうだった?」
「大変賑わっていました」
現在は昼過ぎ、この時間は通常冒険者は、依頼を受け外に出ているはず。にもかかわらず賑わっていると言うことは、緊急事態でもない限りギルドの依頼とは無関係の人達が居ると言うことだ。
「………これからどうするかな」
「心配しなくても大丈夫よ」
通路の途中待っていたメグミさんに言われる。
「メグミさん、でも結構な騒ぎですよ?」
王都でのミリーさんを思い出しながらメグミさんに聞く。
「来てみなさい」
メグミさんに着いていくと、職員専用の出入口からギルド内の様子を見る。
「静かにね?」
メグミさんが声を潜めながらそっと扉を開くと。
「………あれってひょっとして?」
「そう、聖女様よ」
ギルドの広間には、仁王立ちする元勇者パーティーの聖女ミリアリアと、何故か正座しているシスターや神父の姿。
「あれは?」
「お説教中ね、最近の教会の騒ぎは知ってるでしょ?各地で巡礼をしようとギルドに押し掛けてるってやつ」
「えぇ、まぁ知ってますけど」
「そこで、騒ぎを納めようと聖女様がギルドを回って鎮めてくれているのよ」
ありがたいわよねと言うメグミさん、いや、そもそもその騒ぎの元凶って、あの人だよね?国王様の話が間違いでなければ、真の勇者~の話はミリアリアが広めたんだよね?
「まぁ、納めてくれてるならいいか」
「さぁ、そろそろ話をしましょうか」
メグミさんに言われ、ギルド長室に行き、これからについて話す。
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「と、言うわけで、魔王軍についての情報はギルドに持って着て貰うようにしています」
俺はこれまでの経緯を一通り話終え、これからどうするかを話した。
「うっ、でもうちでいいのかなぁ、王都を拠点にした方がいいんじゃない?」
「王都ですと何かと騒がれそうですし、こっちの方がいいんですよ、片田舎ですし」
「はぁ、悪かったわね片田舎で」
誉めてるんですよ?片田舎良いと思います、都会と田舎の中間くらいが一番好きです。
「まぁいいわ、せっかく作ったあれが無駄にならなくて済むしね」
「あれ?」
「ふふふ、着いてきなさい」
不適に笑いながらメグミさんが外に出る。街中を歩く事数分後、一つの邸の前に着く。
「はぁ、デカイなぁ、誰の家ですか?まさかメグミさんの?」
「君のよ」
君の?
「え?」
「その歳でマイホームが手に入ったのよ、よかったわね」
マイホーム?いや、貰えるなら貰いたいけど。
「なぜ?」
「んー、そうね、じゃあ手紙の配達の報酬って事で」
今、じゃあって言わなかった?
「………このお屋敷、何かあるんですか?」
「何かって?」
「例えば曰く付きとか」
「無いわよ」
「欠陥住宅?」
「新品その物よ」
「耐震性に難あり?」
「しつこいわね!?この世界に地震なんてないわよ!いいから中見てみなさい!」
激しくうさんくささは残るがしぶしぶ中に入る。
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「ふぅ、何とかなったわね」
(まさかタクトくんが渋るとは思わなかったけど、タクトくんの性格からして貰える物は貰うから、大丈夫なはず)
(ええ、タクト様も大変喜んでいますよ)
(………心を読む処か、話しかけてきた!?)
(これでわたくし達との約束も果たされたわ)
(うんうん、約束を守るって大事だよね)
(ん、タクト様喜ぶ、一番)
(一人だけじゃなく全員できるの!?)
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玄関を開けた所で何故かは知らないが、メグミさんが驚きと恐怖を混ぜたような顔で固まってしまったので、勝手に中に入る。
「ほぉ、中もすごいな」
「広いですね!」
「ん、いいでき」
「ふむ、見事ですな」
「タクト様が住むのに相応しいです」
従者達のお眼鏡にも叶った様子。
「ふ、ふふふ、当然よ、何て言ったって街の技術者を集めて、私が日本の知識を総動員して作ったのだから!」
何か自棄気味に語るメグミさんは迫力が有った。
「そ、そんなにすごいんですか?」
「いいわ!案内してあげる!」
メグミさんに手を引かれ邸のなかを巡る。
「まずは白を基礎にした玄関ホール、清潔間を出しお客様を気持ちよく迎えるわ。キッチンは魔宝石を使ったシステムキッチン並みの高性能、元の世界の料理だって夢じゃないわ!続いては大浴場、街に有る大浴場と違って、広く綺麗でジャグジーだって完備しているわ、すごいでしょ!?欲しいでしょ!?」
メグミさんの怒濤のプレゼンを受ける。メグミさんって前は部屋のコーディネーターだったのかな?
「え、ええ、すごいですね」
「極めつけは畳と縁側よ!一から造ったんだから!」
「それは本当にすごいですね」
少なくともこの世界で日本家屋の技術を取り入れたのは、本当によくできたなと感心するレベルの拘りだ。
「それで?この邸貰ってくれるわよね!?」
「え、ええ、ありがたく頂戴致します」
「ほっ、良かった」
メグミさんの勢いに押される形で邸を貰う。心なしかメグミさんが、憑き物が落ちたように安堵していた。
そこからはしばらく引っ越し作業に明け暮れた、邸の中に家具はなく生活出来るように買い揃えて行く必要が有った。店で買ったり、オーダーメイドしたり、どうしても気に入らない場合はクロノに作って貰ったり。
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「新築パーティー?」
我が家を手に入れてから一週間後。クロノの言葉が事の発端だった。
「はい、そろそろ落ち着いて来ましたし、皆さんを招待してはいかがでしょうか?」
「ふむ、そうだな、普段お世話になっているし良いかもしれないな」
「では、そのように準備致します」
「ああ、頼んだ」
パーティーの準備をするため役割を分担する。
「フェンとメロウは料理を頼む、クロノとエニは必要な物を揃えてくれ、俺は招待する人に伝えて来る」
『はい!』
皆の返事を聞き、それぞれ行動に移す。俺は招待客のほとんどが居るであろうギルドを目指す。
「と言っても、ケインさん達朱の鳥とメグミさんぐらいだけどね」
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「是非参加させてください!」
ギルドに着いて、ケインさんにパーティーの話をしていると、いつの間にか近くに居た元勇者の仲間、ミリアリア達が目を輝かせていた。
「ま、まぁ、いいけど」
「ありがとうございます!」
こうして新築パーティーが始まったのだが。
「………な・ぜ!あなたがここに居るんですか?」
「愚問ですねシスターミリー?少しは自分の頭で考えなさい」
着いて早々睨み合うミリアリアとミリーさん。
「クレアさん、あの二人って仲悪いんですか?」
「ええすごく仲が悪いわ、同じ時期に教会に入って競い合った仲らしいけど、片や勇者御付きの聖女、片や冒険者だからね」
「そんなに差があるんですか?」
「大有りよ、聖女って言ったら教皇の次に発言力が有る教会のトップクラスの権力者、それに比べて冒険者ってまだ修行中みたいなものだからね」
「へぇー」
そんなに差がすごいのか、あれ?でも今って。
「ふ、ふふふ、そういえば貴女聖女様だったわね?元勇者の」
「うぐっ、それは……」
「大変ねぇ、あんなに猫かぶりして聖女様らしさを演出してきたのに」
猫かぶってたのか、あれで。
「あ、貴女こそ、人前に出るのが苦手なくせに、ぷるぷる震えながら聖女の真似事をしているらしいじゃない?お陰様で私が
『ぐぐぐぅぅ……』
額を付き合わせて睨み合う二人。
「本当に仲悪いなぁ」
俺のそんな呟きを聞いた二人はこちらを見て一瞬止まる。そして。
「ふふふ、そうです、私はタクト様より魔王を探す命を
うん、クロノの提案でね。仕方なくお願いしています。
「ふふん、わたしはタクト様を教会に導いた、謂わば真の聖女です!」
正確にはたまたま話題に出て紹介状を書いてもらっただけね、しかもその時まだ勇者じゃないし。
「私の方が役に立っています!」
「貴女は何の功績も無いじゃありませんか!?」
やいのやいのと言い合う二人。でもそろそろ横見た方がいいですよ?
「貴女達、一体誰の許可でここで騒いでいるのかしら?」
そこに立っていたのはいつの間にかミリアリアとミリー、あと遠目からでも分かるくらいの怒気を出すメロウのみであった。いやほんと、少し離れた所に居るけど、ちょっと寒いくらいに室温が下がったのを感じるよ。
「静かにできますね?」
『は、はい………』
よほど恐い顔をしていたのか、ケンカしていたのも忘れ、お互いの手を握り合い、首をコクコク振る二人。
「一件落着?」
「そうだな」
エニの頭を撫でつつリビングへ招待客を案内する。
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「では、皆さんコップは持ちましたね?今日は大いに楽しんで下さい、カンパイ!」
こうして宴は始まった。
「これフェンちゃんが作ったの?」
「タクト様のために腕によりを掛けて作りました!」
「あ、あっしらも食べていいんですかい?」
「特別に許します」
「あ、ははは、ありがたく頂くわ」
「ちょっとミリー、取りすぎよ!」
「ミリアリアこそ、もっとバランスよく食べなさいよ!」
「お二人とも?」
『ご、ごめんなさい!』
「さぁ、メグミ殿とケイン殿もどうぞ?」
「あ、ありがとうございます、クロノさん」
「な、なんか、複雑……」
「ん、食べる」
「お、おう、ありがとうよ嬢ちゃん」
「た、食べて大丈夫なんだよね?」
「ちょっとリノ、失礼よ」
おぉ、少し心配だったが、クロノ達がちゃんともてなしてる事に安堵する。
しばし和やかなムードで進んでいた宴だが、その空気は突如壊される。
「し、失礼します!至急皆様に御伝えしたいことが!」
邸に駆け込んできたのは受付嬢のアイナさん、この後の言葉に和やかなムードは一変するのだった。
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