墓地での激闘?


さて、墓地の調査中、本来動かないはずの昼間にゾンビ達が動きだし、俺達はピンチに………ならなかった。


「タクト様、全ての焼却が完了しました」


「あ、うん、ありがとう」


 メロウが作業の終了を告げる。今ここで何が起きたかと言うと。


 ゾンビが出てくる→驚く俺→クロノとフェンがゾンビを一ヶ所に→メロウとエニが焼却。


「早業過ぎない?」


「どうかされましたかタクト様?」


「いや、何でもない」


 メロウ達の手際のよさに呆然としていると、あることに気づく。


「はっ!ここが襲われてるって事は他もそうなんじゃないか!?」


「はい、恐らくは」


 どうする、拠点に戻るべきか?他の班を助けに行くべきか?


「タクト様、宜しければ二手に別れてはどうでしょう?」


「二手に?」


「はい、タクト様はメロウ達と共に先に拠点に御戻り下さい、私は他の方々を見てきますので」


 二手にってそういう?いや、でも、この状況で単独行動は、……クロノなら大丈夫か?


「……わかった、クロノの案を採用する頼んだぞ」


「畏まりました、では後程」


 そう言ってクロノの姿が消える。すばやい執事だ。



 クロノと別れ野営地に行くと、直ぐに喧騒が聞こえてきた。


「やっぱり襲われているな」


 喧騒はどう聞いても戦闘音、確実に襲われているのがわかる。


「タクト様!ここは僕とエニに任せてください!」


 フェンが元気に手を上げる、メロウに目を向けて確認するが問題は無いようだ。


「………二人とも、頼めるか?」


「任せてください!」


「ん、やる」


 そう言って二人はトコトコと駆けていく。


「わたくし達はしばらくここで待ちましょう」


「ああ、二人なら直ぐに終わるだろう」


 そう思っていたのだが、十数分経っても二人は戻って来なかった。いや、大量ゾンビ相手に直ぐに終わると思う方がおかしいのか?


「………変ですね、少し遅い気がします」


 どうやらメロウも遅く感じるらしい。


「あの子達がタクト様を御待たせするなんて、何かあったのかしら?」


 ああ、違和感はそこなのね。そんな事を考えているとエニだけが戻って来た。


「………タクト、様」


「おかえりエニ、フェンはどうした?」


 聞いたとたんエニはめんどくさそうに。


「……ん、人間、じゃま」


 一瞬俺に言っているのかと思ったがどうやら違うらしい。が、何か有ったのは間違いないだろう。


「と、とりあえず、フェンの所まで連れて行ってくれ」


「はい……」


 若干嫌そうだな、本当に何があった?


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「だから!何で僕達がそんな事しないといけないの!」


「それが冒険者の義務だろうが!」


 フェンを探しに野営地に入ると直ぐに大きな声が聞こえた。どうやらフェンが誰かと言い合いをしているらしい。


「フェン!」


「あ、タクト様!」


「む、君は……」


 俺がフェンを呼ぶと、言い争っていたギルドの職員もこちらを見る。その険悪な雰囲気からエニは俺の裾を強く持ち、メロウは一歩前に出て守る体制に入る。


「ご苦労様フェン」


「はい!」


 まずはフェンを労い、職員に向き合う。


「うちの従者と言い争っていたようですが、どうかしましたか?」


「その子がこちらの指示に従わなかったのだ」


「指示?」


 お願いではなく命令だろうな。


「一部のアンデットが街に行った、だから街に戻り進行を阻止して貰おうと」


「………それはこの子一人の役目ですか?後ろに居るここに残った冒険者は誰一人街に戻っていないようですが?」


 いない処か行く準備すらしていない。


「わ、我々にはここを防衛する義務が……」


 義務ねぇ。


「どう考えても、子供一人に押し付けるものではないのでは?」


「そ、それは……」


 まぁ、ただの子供ではないが見た目は子供だ、大人それも冒険者がして良い行為ではない。


「まぁ、ここで言い争っても仕方ないので、事が済んだら正式にマガリさんに抗議させて頂きます」


「……了解した」


 渋々ながら了解する冒険者とギルドの職員。


「では、俺達は街に……」


 戻ろうとした所で後ろから声がかけられる。


「お待ち下さいタクト様」


「ん?クロノ、戻ったのか」


 声の主はクロノだった、後ろにはプライムローズを始め墓地に入った他の冒険者達を連れていた。


「はい、少々ご報告したいことがあります、宜しいですかな?」


「報告?」


 クロノが言うのだから何かあったのだろう。


「こちらをご覧ください」


 クロノが差し出してきたのは一本の骨。


「これは?」


「スケルトンという、この墓地に居た骨のアンデットの一部です」


 ふむ、ゾンビ以外にもアンデットが居たのか。


「ご覧ください」


 そう言ってクロノは骨を真ん中でへし折る。若干怖い表現だな。


『………』


 うん、職員や他の冒険者も引いている。そんな様子を見ていると、骨の折れた部分が黒いモヤに包まれる。


「……これは」


「はい、どうやら再生しているようです、それも急速に」


 確かにみるみる再生していく。どうやらこのモヤが関係しているらしい。


「この再生は倒したアンデットにも有効なのを確認済みです」


「と言う事は、このモヤの発生源をどうにかしないと意味が無いということか………」


「な、なら、早く探さなくては!」


 ギルド職員が慌て出すが……。


「それには及びません、発生源なら大方見当がついています」


「ふむ、それって墓地に入った時に言っていた?」


 えっと、確か、小さいけど濃い嫌な気配だっけ?


「はい、その気配辿れば用意かと」


「よ、よし、ならここに居る全員で行けば!」


 また、無茶を言うギルドの職員。


「いや、街はどうするんですか?ここの防衛は?」


「そ、それは……」


 どもったきり黙ってしまう職員。こりゃダメだ。


「………Sランクとして要請します!プライムローズは墓地の探索をしていた半数を連れて街の救援に行って下さい、街にもある程度戦力が有るとは思いますが、今解っている情報をマガリさんに伝えてください」


「わかりました!」


「残りはここの防衛を!できるだけ街に流さないようにここで防衛線を張ります!」


「りょ、了解した!」


「我々はモヤの元凶を叩きます!」


 虎の威を借る感じになるが仕方ないのでSランクの威光を使わせてもらう。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 それぞれの指揮は現場に任せて、メロウ達と共に再度墓地に入ったのだが。


「………アンデットが多いな」


 俺達の前には視界を覆い尽くすほどのゾンビ、スケルトンの大群。


「明らかに近づくなって言ってるな」


「タクト様如何いたしますか?」


「うーん、討伐はしてもモヤが有る限り意味がないし、できれば無視して進みたい所だけど……」


「畏まりました、ではそのように」


「できるのか?」


「はい、少々お待ち下さい」


 そう言ってメロウは何かの魔法を使う。すると薄い白の膜のようなものが俺達を中心に半円状に広がる。


「これは結界だな?」


「はい、アンデットが苦手とする聖属性の結界、『サンクチュアリ』です」


 ほう、確かに範囲内に居たゾンビが自然発火したように塵に成っていく、これなら進めそうだ。


「よし、行こうか」


 結界により難なく進み、直ぐにモヤの発生源にたどり着く。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

黒いモヤの発生源、そこにはフードを被った男が居た。


「………お前が今回の黒幕か?」


「………貴様ら、何者だ?わたしのアンデットをこうも容易く………」


 ふむ、どうやら間違い無さそうだ。持っていた杖から常に黒いモヤが発生している。


「たまたま街に居たSランクの冒険者だよ、まぁ、正確にはSランクとその従者になるんだけど」


 もっと正確にはSランクとそれ以上に強い従者かな?


「ふん、たかがSランクが、わたしの計画を邪魔しよって………良いだろう!冥土の土産にわたしの最高傑作を見せてやる!!」


 男の持っていた杖が光、地響きが鳴り始める、やがて地面から二体のアンデットが姿を見せる、一体は継ぎ接ぎだらけの二メートル位のゾンビ、もう一体は様々な魔物の骨を使って作られたスケルトン。


「我が最高傑作!アルティメットゾンビとアルティメットスケルトンだ!」


 名前ダサ!名前はともかく迫力は有るな。


「ふふふ、驚きに声も出まい!アルティメットゾンビはこの墓地に眠るSランク以上の冒険者の死体を使った、究極の力を持った、人間の限界を超えたゾンビ!アルティメットスケルトンに至ってはわたしが長年各地で集めた、災害級の魔物の骨を使って作った至高のスケルトンだ!」


 うん、説明ありがとうございました、とりあえず彼にとってはとても誇らしい物らしいのだが。


「タクト様如何しますか?」


「………これ、サンクチュアリの範囲に入ったら倒せないかな?」


「ふははは!無駄だ!この亡者の王丈の力で聖属性の魔法は効かない!」


 よく喋るなあの人。ついでだから聞いておくか。


「このアンデットを使って何をする気なんだ?」


「くふふふ、良いだろう教えてやる!わたしは、わたしの、国を作るのだ!」


「…………」


「アンデットによる支配をもって、この国を征服し!わたしは王になるのだ!!」


 以外に下らない理由だった。もっとすごい理由があると期待したんだが、そこまで奇をてらったものではなかった。


「………もういいか、特に面白いこともないし」


「左様ですか、では、処分しますが宜しいですかな?」


「ああ、頼んでいいか?」


「はい」


 クロノが一歩前に出る。


「くふふふ、先ずは老人から生け贄か?心配しなくとも、お前達なら立派なアンデットに……」


 男が喋っている途中にクロノが腕を振るう。突如その場に突風が走り、アルティメットゾンビがバラバラに崩れ落ちる。


「な、な、なにが……」


 困惑する男に向かい、クロノは。


「国を作ると言うので期待したのですが、残念ながら貴方から学べるものは有りそうにありませんな」


「そうね、貴方にはもう退場して頂きましょうか」


 メロウが髪を払うと、アルティメットスケルトンから氷の刺が生え、やがて氷に包まれ、ヒビが入り砕け散る。


「い、いったい貴様らは何なのだ!?」


「答える義理はないわ」


 叫ぶ男に取り次ぐ暇もないメロウ。


「くぅ、だがこの亡者の王丈が有る限り………」


 男の手には確かに杖が握られている、が、その先には核とも言うべき宝玉は無かった。


「タクト様!この石が原因みたいです!」


 いつの間にかフェンがその宝玉を持っていた。


「あ、ああ、ありがとうフェン」


 フェンから宝玉を貰いしばし眺める。


「ふむ今はモヤが出てないな、壊すべきか?」


「それも宜しいかと思いますが、些か勿体無いと思います」


 いつの間にか戻って来ていたクロノが顎に手を当てながら言う。


「そうだな、ギルドにも報告しなきゃいけないし、メロウこれ封印とかできたりする?」


「お任せ下さい」


 こちらで粗方話がまとまり、メロウが封印の準備をしていると。


「き、きさ、貴様ら!!わたしの、魔石に触れるなぁぁ!」


 すごい形相でこちらに迫り。


「ほい!」


「ぐふぅ!」


 一瞬でフェンに倒される。見事なアッパーカットだったが、生きてるか?なんかすごいのけぞってそのまま後ろに倒れたけど。


「タクト様、捕縛しますか?」


「ああ、生きてたらな」


「御意に」


 とりあえず、納めたでいいのか?宝玉?魔石?は封印したら周りのアンデットは元に戻って動かなくなったし、犯人は捕まったし。これで解決だろう。


「よし、街に戻るか!」


『はい!』


 従者の返事を聞き街に戻るため歩き出す。そして今回も俺はなにもしていない。

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