墓地の騒動
村での一件以降、問題も無く街道を進み、ようやく西の街"ノーブル"へと到着した。
「長旅ご苦労さん、今日の所は宿を取ってやるからゆっくり休みな、登録は明日するよ」
マガリさんと馬車を降りながらどんな宿が良いなどを話していると。
「マ、マガリ様!」
先に馬車を降り、ギルドに入っていたプライムローズのルミアが慌てながら来た。
「どうしたんだい?騒々しいね」
「ノーブル近くで問題が起きています!」
「ふむ、わかった詳しい事は中で聞くよ、タクト達に案内を着けておやり」
「は、はい!」
その後ギルド員が宿に案内をしてくれる事になったのだが。
「俺達だけ休んでていいのか?」
「タクト様、今のところマガリさんも帰ったばかり、何か動くのであれば情報をまとめた明日以降になると思われます」
なるほど、クロノの言うことも最もだ。
「なら、明日早めにギルドに行って聞いてみるか……」
「それが宜しいかと」
メロウ達を見回すが、他に意見は無いようなので、とりあえず宿に入る。
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タクト達を宿に送り、残ったマガリはギルドの中で頭を抱えていた。
「ふぅ、帰ってそうそう、困ったものだねぇ」
「はっ、申し訳ありません……」
ギルドを任せていた職員が頭を下げる。
「ちゃんと見張って置くように言っただろうに……」
マガリから再度ため息が出る。
「それで、今の状況はどうなんだい?」
「現在は、確認できているだけでも一万以上になるかと」
「待って下さい!その数はどこから来ているんですか?」
同席していたルミアが職員に質問する。
「恐らく周辺の村からだと、事実確認は取れています」
「ふむそうかい、そのせいで瘴気が溜まりゴブリンがあんなに多かったのかもねぇ」
「なら、他にも?」
「その可能性はあるね、周辺の調査をギルドから依頼としてだしな!急ぎだよ!」
「はい!しかし宜しいのですか?ノーブルを調査する者が少なくなりますが……」
「なに、心配ないさ、今この街にはSランクの、いや、それ以上の力を持った冒険者が居るからね」
そう言ってマガリはニヤリと笑うのだった。
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ノーブルの街に着いてから一夜明け、昨日の事が気になったタクト達は、朝早くからギルドに来ていた。
「すいません、マガリさんに会いたいのですが……」
着いて直ぐに受け付けにマガリさんに取り次いで貰おうとしたが。
「………面会のご予約は?」
おっと、あまり歓迎されてないな、受付の女性はちらりとフェンとエニを見て、面倒くさそうにため息を吐いた。
「えっと、特に約束はしてませんが」
「では、御会いできません、今は緊急事態が起きているので、それが収まってから再度お越しください」
緊急事態?確かにギルドの中は何か慌ただしい。
「………あの、実は俺達」
ランクを告げ、何か手伝える事はないか聞こうとしたら。
「あのねぇ!今忙しいって………ひっ!?」
話の途中で息を飲む女性、その視線は俺の後ろに向けられている。何かと思い振り返ると。
『……………』
俺の後ろにはもちろんメロウ達従者が居た、それはいいが、視線が冷たい、殺気に満ちた視線を四人は受付の女性に向けていた、さっきから喋らないと思ったら、相当御怒りの様である、メロウなんて額に青筋が浮かんでいる。
ガタンッ!
音に引かれ受付のカウンターの方を見ると、女性が椅子と共に倒れていた、どうやらメロウ達の殺気で腰が抜けたらしい。
ガタッガタッガタンッ!
それだけではなく、周りに居た冒険者も殺気に当てられ、倒れる者、立ち上がる者、武器を抜く者、様々な反応をする。
「何だい!?この凄まじい殺気は!?」
ギルドの奥からマガリさんが大慌てで出てくる。
「………おはようございます」
マガリさんと目が合い、つい口から出た言葉だった。
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ぐるりと周りを見渡すマガリさん。
「………なるほどね、大方の見当はついたよ、すまなかったね昨日からバタバタしていて、タクト達の事を話すのを忘れていた、謝罪するよ」
「マ、マガリ様?この方々は?」
受付の女性が震えながら聞く。
「この子達は新しいSランク冒険者だよ、伝えるのが遅れて悪かったね」
マガリさんが告げるとその場に居た全員が戦慄した。
「え、Sランク!?も、申し訳ありませんでした!」
「Sランク……それなら、あの殺気も……」
「や、やべぇ!早く武器しまえ!」
様々な反応をするが、一様に畏怖の念が伝わる、今更ながらSランクってそんなすごいのか?
「タクトや、悪いが奥で待っていてくれないかい?少し頼みがあるんだよ」
「あ、はい、分かりました」
マガリに従い、奥の部屋で待つことにする。
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タクト達が奥に行ったのを確認し、マガリが話をし始める。
「………ふぅ、あんたもバカな事をしたね?」
「……すいません、マガリ様」
受付の女性が顔を青くしながら謝る。
「彼らにはこれからよく注意をしな、タクト達は、少なくともタクトの従者達はSランクを凌駕する力を持っているよ」
「S以上!?なら、SSですか?」
不安そうに聞く女性にマガリはニヤリと笑って見せる。
「いんや、あたしの見立てではSSSまで行くね」
そう言い残し奥の部屋に入って行くマガリ。残された女性は、ふらりと倒れ込む。
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「待たせたね、ちょいと受付に注意してたよ」
タクト達が部屋で待つ事数分、マガリが入って来た。
「いえ、気にしていないので受付の人にもあまり厳しくしないで下さい」
「わかったよ」
むしろこちらの方が被害を出しているからな、後で謝っとこ。
「それはそうと、緊急事態が起きていると聞きましたが?」
先ほど受付で聞いたことをマガリさんに訪ねる。
「ああ、実はね……」
重々しくマガリさんが話し始める。その内容とは………。
「今この街周辺の墓地が墓荒らしにあってる、状況を見るに何者かがアンデットとして操り集めているようだよ」
「アンデットですか?」
アンデット、パッと思い付くのはゾンビとか?
「それで、僕達に出来ることはありますか?」
「手伝ってくれるのかい?」
「ええ、まぁ、気になりますし」
あわよくば活躍できますし。
「助かるよ、なら、討伐隊に加わっておくれ、これからこの街の墓地に向けて出発する予定だよ」
「はい!わかりました!」
マガリさんによると、討伐隊は既に街の入り口で準備をしているらしいので急いで合流する。
「おっと、その前に……」
ギルドから出る直前、向きを変えて受付の女性に声をかける。
「あのー」
「ひっ!な、何で御座いましょうか!」
「あ、いえ、先ほど従者がすいませんでした」
「え!?あ、いえ、こちらこそ」
「そんなに畏まらないで下さい、まだ駆け出しですから、これからお世話になります!」
簡単に挨拶を済ませ、街の入り口に急ぐ、うん、挨拶は大事だ。
「は、はぁ……」
ギルドにはポカンとした表情の受付が残された。
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ギルドを出て街の入り口、馬車の準備をしている一団に近づく。
「あのー、すいません、ここって墓地の討伐隊で間違いありませんか?」
ギルドの職員らしき人に話しかける。
「ん?ああ、そうだけど?」
「あ、マガリさんに言われて手伝いに来ました」
「え?あなた達が?」
おや?またかな?と思っていると馬車の中から見慣れた人達が降りてきた。
「タクト様、お待ちしていました」
出てきたのはプライムローズのルミアさんだったんだが、何で様付け?
「ルミアさん、お知り合いですか?」
「ええ、彼らがマガリ様が言っていたSランクよ」
どうやらこちらには伝えていたようだ。
「よろしくお願いします」
「あ、ああ、よろしく頼む………」
職員はまだ疑いの目を向けていたが、気にせずルミアさんに向く。
「ルミアさん、墓地に行くと聞きましたが?」
「ええそうよ、もう準備は出来ているわ」
「なら、直ぐに馬車を持って来ます」
「え?この馬車に乗れば………いえ、そうね、なら、ここで待っているわ」
ルミアさんは一瞬止まったが、何事もなかったように話し始める。何があったのか?
「タクト様、直ぐにお持ちします」
「ああ、頼んだクロノ」
数分後、クロノが持って来た馬車に乗り込み、ギルドの馬車に着いていく。
しばらく街道を進み、昼過ぎに墓地の入り口に着く。
「では、これから詳しい内容を伝えます」
昼休憩を兼ねてギルドの職員から作戦が伝えられる。
「まず明るい内はアンデットは活動ができませんので、昼間のうちに墓地の調査を行います」
「調査の範囲と割り振りは?」
「範囲は墓地全体、割り振りは各パーティー毎に東西の入り口から二手に別れてもらいます」
討伐隊には俺達を含め五つのパーティーが参加している。その内の一つは万が一の伝令と拠点の守備をしているので動けない。実質四組のパーティーで討伐を行う。
「日が暮れる前に一度集まり、夜に再度墓地へ突入、討伐をします、何かご質問は?」
「…………」
「無ければ以上になります、各自準備をしてください!」
すごく簡単に終わったけど大丈夫なのだろうか?まぁ、パーティー毎に動いた方が楽なのだろう。
「割り振りによると俺達は東側から調査だな」
「タクト様、少々お気を付け下さい、この一帯、嫌な気配に満ちています」
メロウが注意を促す。え?嫌な気配って。
「アンデットの気配って事?」
「いえ、それ以上の気配です」
それ以上?
「ふむ、確かに妙ですな」
「うーん、小さい?」
「でも、濃い」
他の三人も感じ取って要る様子。
「わかった、念のため注意はしておこう」
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休憩が終わり墓地の調査が始まる。
「では、タクト様、私達は左から回ります」
「あ、はい、お気を付けて………」
同じ東側担当のプライムローズを見送る、相変わらず何故か様付けだった。
「よし、俺達も行こう」
『はい!』
プライムローズとは逆側、右回りで墓地を進む。
「………確かに何か掘り返した後が有るな」
「タクト様!御下がり下さい!」
クロノの声と同時に地面から土気色の手が出てきた。とっさに避け距離を取る。
「………おいおい、昼は動かないんじゃなかったのか?」
あっというまに、ゾンビの群れに囲まれる。言うまでもなくこの騒動の原因だ。
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